2020/01/13俺の成人式

成人式、それは戦後から始まったとされ、次世代を担う新成人に向けエールを送る行事として行われた。

そう。この式典の本来の意義は今とは明らかに違うのだ。

今日は他人の家のこたつで目を覚ました。
あまりにも成人式に行きたくなくて起きてからひたすら愚痴を呟いていたが、まずは自分の家への帰宅のために、その重い腰を上げた

家に帰る途中に成人式の会場がある。そろそろ準備終わって人いるかなー?と覗き込んだが、まだまだ準備は終わっていない

「俺のための成人式だしな…」と思って準備風景を写真に収めようと手袋を外したところで

「俺、成人式とか行く気しねーわー」

とおそらく未成年であろう二人組の会話が聞こえてきた。
なんだか写真を収めようとしている自分がみっともなく思えてきて、生暖かい冬空に晒した肌を再び覆った

早めに来ている振袖を見に纏った女性が一人立っていて、少し笑顔になった。

家に着くと親がスーツの準備をしてくれていた
「早く着ろー」と何かと急かしてくる親にムカついて限界まで準備するのを躊躇った

朝飯はリプトンのレモンティーと胃腸に良さそうなビフィズス菌の入った錠剤を4つ食った

この日ぐらいしか成人式ってなんなのか調べないよなって思って色々調べた。

どうやら成年式発祥の地という石碑があるらしい。俺が今日やるべき最適解はこれを見に行くことだったんじゃないか、と考えると人生n周目の課題が増えたような気がする

朝大学に行く時のようにパッパと準備を済ませ、開始時刻の数分前に会場に着くよう家を出た。早めに家でてもなーと思ってしまってなかなか体が動かなかったのだ

友人たちと会う約束をしていたような気がするが、俺一人ぐらい別に良いだろって思うと気が楽だった

会場についてから辺りを見回すと人が多すぎて友人なんて見つけられる気がしなかった。

とりあえず出入口の最も近くに空いてる席に座って入り口でもらったチラシやらなんやらを眺める

孤独感すげーな、と高校時代ぼっちだった時の感情を思い出した。
確かにあの空間はぼっちにはあまりにも辛い。俺がこの感情になるのは大ホールという監獄に放り込まれたからだろう

座ってぼっちを噛み締めていると、中学時代の友人が「後ろにみんな居るからいこーぜ!」と誘ってくれた

最後部を見やると中学の頃よくつるんでた奴らが集まっていた

言われてみると最後部で立ちながら成人式聞くのが俺らっぽいな

久しぶりの友人との再会は良かった。だが、やはりまだ20歳ってことで誰もほとんど変わっていなかった。やっぱり20歳もガキばっかだな、俺含め

友人と喋りながらの成人式。この式自体に文句を言ったり、あいつはどうなったか、今は何をしてるのか、そんな当たり障りのない成人式っぽい会話をすると、だんだん成人式ノルマクリア!という気がしてきた

前の見知らぬ新成人がスマホをいじっていた。内容はあるアイドルグループのゲームだった。もう一方の人間はAmazonプライムでスラムダンクのページを開いていた。多分これが俺らの成人式なんだと思った

前方には振袖を見に纏った女性の面々、後方にはスーツを纏った地味目男性の面々が座っていた

「もう少し髪色変えてるやつ多いと思ったんだけどな…」

と呟くと友人が

「俺この日のために黒染めしてきたよ」

と答えてくれた。

まじか。それは想定外だった。成人式だからこそ色を変えるもんなんじゃないか

成人式が終わった。

会場の外に出るといろんな人が話しかけてくれた。まさか俺に話しかけてくれる人がこんなに居るとは思わなかった

「お前も同窓会くる?」

と誘われた。実は今日の夜は別件を入れていたのだが、こういう日じゃないとこいつらと飯食わないしな…と思って「行くわー」と答えていた

少し経つとその友人たちとはぐれていた。視界の奥に彼らが写っているのを確認した。

そんな彼らを追いかけるのが妙に気怠かった

友人たちが友人たちと談笑している

もう良いかな、そう思って新成人の群れを抜け近くの図書館に入った。

トイレの中でスーツから私服へ着替える。ようやく普通の祝日に戻れたような気がして優越感が半端なかった。

図書館で少しばかり感傷に浸ったあと家に帰った。昼飯を食べる気もせず、だらーと成人式の反省会をしていた

俺はあの時友人を追いかければ良かったのだろうか…でももう充分笑ったしな…

しばらく経つと普段から会っている友人が家に来た。お前と会うと成人式感がないから会わないでくれ、と事前に打ち合わせておいた相手だ

「成人式何が楽しいん?」

彼はそう言った。
正直めっちゃ分かる。あれ自体の価値は全くないのだろう

「成人式とか関係なく会いたいやつなら普段から会うしな」

と彼は続けて言った。

その通りだな。俺が同窓会に誘ってくれた過去の友人たちを追いかけられなかった理由が分かった気がする。

見知らぬ誰かから作られた特別とされる日に俺が動かされているのがとてつもなく嫌だったんだ。いつのまに成人の日という監獄に俺は放り込まれていたんだろう

これからどうする?

とてつもない虚無感に覆われた俺たちはしばらく考えた。何分悩んだのだろう


しばらく経って


「この前教えてくれたお香や行こうぜ!!!!」


彼が以前ラインで教えてくれた店に行くのは今日だ。今日という日はそのためにあったのだ

善は急げ、その時の俺たちはこの日最高速度で動き出した



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「今どこいる?」

もう過去に置いてきたアカウントなんだろう。その返答はなかった

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