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生存記録その1~終末の始まり~

1993年、夏。
僕は真っ暗な部屋の中で目を覚ました。
ここはどこだろう?暗がりの中で電気のスイッチを探しながら、曖昧な記憶を辿り始めた。

そうだ、僕は大工だった。Horokew Kamuiという名で、ケンタッキー州の川沿いの小さな地方都市・リバーサイドで、名も無い大工として暮らしてたんだっけ。
夏の暑さが本格的になってきた7月の初旬。休みの日に自宅のソファでテレビを見ていると、馴染みの不動産屋から電話がかかってきた。
「もしもしホロケゥさん?町外れの空き家に買い手がつきそうだから、リフォームをお願いしたいんだけど…」
この暑いのに工事はいやだなぁと思いつつ、僕は依頼を受けて出かける準備を始めた。
テレビはひっきりなしに「ノックス事件」と呼ばれるパンデミックのニュースを報じていた。ケンタッキー州の一部で人が凶暴化する感染症が流行しており、軍によって都市が封鎖され、人の往来が禁止されているそうだ。
ふーん、人口の多い大都会は大変だなぁと、Tシャツに袖を通してたところまでは覚えてる。
今はいつなんだろう?腕時計がないから、今日が何月何日なのか、今何時かもわからない。

改めて暗い部屋の中を見まわす。ほとんど物がない。部屋の真ん中に粗末な段ボールがひとつ置かれてるだけ。開けてみるとボールペンやメモ帳、クリップなど最低限の文房具しか入っていない。
おそらく今は夜なのだろう。何故かポケットに入っていた地図を取り出し、窓から差し込む街灯の光を頼りに広げて見た。

見覚えのある地図。不動産屋にリフォームを頼まれてた、郊外の空き家の地図だ。
暗い部屋の中を手探りで歩きながら、窓際にたどり着き外を見た。
芝生が敷き詰められた庭の上に立つ「FOR SALE」の看板。そうか、ここは例の空き家の中だ。物が無いわけだ。

そして看板の向こうに、恐ろしいものを見てしまった。
ゾンビだ。ジョージ・A・ロメロの映画そのままの、人肉を求めて彷徨うゾンビ。
それも1体じゃなく2体、3体も。街灯の灯りに照らされながら、幽霊のようにふらふらと徘徊している。僕は咄嗟に窓の下にしゃがんで身を隠した。見つかったらおしまいだ。どうしてこんなことになったんだ?夢なら早く覚めてくれ。いやそれよりもこの状況でどうやって生き延びようか。
僕はなるべく物音を立てないよう、姿勢を低くして這うように忍び歩きで窓際を離れ、何か使えそうな物がないか他の部屋を探し始めた。
無い。何にも無い。冷蔵庫は空っぽ。戸棚には缶詰どころか調味料すらない。そりゃそうだ売り物件なんだから。

トイレに篭り、ドアを閉めて洗面所の棚を開ける。タオルや掃除用の洗剤しか入ってない。ここに籠っていてもいつかは飢え死にしてしまう。何とか外に出て食料を探さなければ。
武器は青いボールペン一本しか無い。これでゾンビと戦うのはあまりにも無謀だ。
緊張で喉がからからだ。僕はシンクの水を飲み、夜明けを待ってここを出ることにした。洗剤の中身を捨て、ボトルに水道の水を入れてズボンのポケットに入れた。普段なら絶対飲みたくないけど喉の乾きで死ぬよりマシだ。
早く夜が明けてくれ。僕は暗く狭いトイレの中で、息を潜めて朝を待った。

※この日記はフィクションです。ゾンビ映画のモブになれるサバイバルゲーム「ProjectZomboid」は、Steamで絶賛アーリーアクセス中だよ!
SSあんまり撮ってなくて文章ばっかでゴメンね!


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