とて

雨が降る前に、ここを去らなくてはならない。

状況を整理しておくと、私は中学三年生、年端も行かないガキであるがなんと既に死んでいる。
歩道を歩いていると眼前にトラックが飛び込んで来るのだから、遺言を書きそびれたことを今とてつもなく後悔している。

吹き飛ばされたと思った途端、視界は既に三人称にあり、
恐る恐る私だったものを見てもその体から血ではなくぱらぱらいろんな種類の紙が噴き出しているので驚いた。そこにやって来た天使、いや見た目こそそれを疑うグレー一色のコートに丁寧なハットを乗せているのだが、彼曰く死んだ後にも役所というものがあるらしく、死んだのちにもまだまだ書類とにらめっこをしなくてはならないらしい。さらには電車で天国に行けというのだからなかなか夢のない死後だろう。

つまり私は、身から出た本やチラシや書類やら、今時古風な非防水の媒体たちをお抱えなのだから、暇乞いなす間もなく駅に向かって発たなくてはならないのだ。

確か今日の予報は雨、今でも振りだしていないのが奇跡なほどの曇天に見舞われているのだから、あの天のつがい茶封筒のひとつやふたつ渡してくれてもいいのにとかなんとか考えて歩いているうちに、我が母校の前を通りかかった。
ああいや、もう母校ではないか。
お母堂の途中で私は転げ落ちてしまったのだから、生まれ落ちてすらいないのだから。

遠からじやっと見える窓には、彼ら彼女らの姿があった。
私はもうその誰でもないのだ。

そんなことを思っていると、乱反射する光粒が落ちてきた。
いつのまにか夕刻の斜陽が差した雲の隙間から、不思議なくらいきれいな雨粒が降って来ていた。

瞬きの間に、さんざと言わざるを得なくなったそれが肌やあばたを打ち付けている。

書類はすっかり溶け、どろどろと手から流れ落ちてゆく。

雨が止む前に、ここを去らなくてはならない。
何を聞かれたとて、うまい言い訳が見当たらないのだから。

まだ中学生です