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非難する自我・同一性の助長

仕事人の朝は早い。

深く深い眠りから目覚めて時計を見る。

10:32 am

やれやれ、午前中に起きちまうなんて健康優良児と勘違いされてしまいそうだが、この俺はそれとは程遠い存在の、いいやむしろ対極の位置に存在する。日々とある『仕事』に躍起になり、朝から晩まで仕事部屋にこもっては、一週間も太陽光を浴びないという日もなんらざらではない。

目覚めてすぐおもむろに目の前の、寝落ちしてつけたままだったパソコンに手を伸ばす。

さて、仕事の時間(work time)だ。

ひとしきりカタカタと手慣れた手つきで掲示板を開き、またカタカタと文字を打ち込み始める。ただ寝ていたわけではなく、もちろんあれは瞑想なのだ。仕事には欠かせない私の重要な流儀のひとつだ。いい『ネタ』が思いついていてよかった。

…投稿完了、と。

ページを開き直し、あらためて出来たそいつを見る。いや、我ながらいい出来だと、何度でも思える。どれ、君たちにも見せてやろう。


【悲報】ワイ氏、月見バーガーとエグチの違いがわからぬ味覚障害wwwwwwww

1:風吹けば名無し:2017/09/25(金)
10:35:01.92 ID: zXiVogVw

オローラソースてなんや、ゲボ吐いとるんか


こんなにも完璧なスレ立てが、今までにあっただろうか、いいや無いね。きっとこいつは死ぬほどセンセーショナルな良スレとなり、かの有名な白木屋コピペを越すような大バズを起こすことになるよ。


2:風吹けば名無し:2017/09/25(金)
19:53:29.10 ID:M8eFKsv

>>1
はあ
死ねよ


このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。

という文字の前に、俺は固まっていた。
dat落ちなどという認め難い事実をまた、認めてしまうこととなった。
クソッ、まただ、また即死判定を起こしてしまった、なぜ俺のスレは跳ねないのか、幾度思案してみても理由が全く分からない。
あんまり悔しいので、荒らしでもしてやりたくなった。今盛り上がっているスレを手当たり次第に荒らしてやろうと思う。

画面をスクロールして、良さげなスレを探す。
しかし、おかしい。
ここのところどんなスレも良くてレス100くらいで頭打ちになっていた。
なぁんだ、今はそこまでねらーがいないだけなのか、じゃあ俺のスレが即死もらっても仕方ないな。

適当なスレを開いては戻り、開いては戻りを繰り返すと、なんだかおかしなのを見つけた。


32:風吹けば名無し:2017/09/24(金)
20:30:22.11 ID:MjFxiNGBO

警察のカメムシどもめ
カメムシ連中は喜びたまえwwww
俺サマが2017年10月14日土曜日にJR〇〇駅駅前にて片っ端から通行人を刺し殺していくから。
そのためにナイフ333個と包丁1 3 1個買った。
最低10000人の通行人を刺し殺したいね。
目標は〇〇駅前にいる通行人全員刺し殺すこと。


思わず笑ってしまった。

これ、地元じゃないか。
しかしまだこんなガキっぽいことをする奴がいたのだなと思う。スレでは通報した、とか少し触れるやつがいる程度で、すぐ本題の話に戻っていた。しかしなんなんだこの適当な数字は、ナイフや包丁をそんなに買ったところで腕は2本しかないだろ。
しかもうちの地元はとんだ田舎町で、町内全員合わせたところで10000いくかいかないかくらいだぞ馬鹿らしい。

読まずともわかるような嘘松に俺は腹を抱えて笑った。あんまりおもしろいからネッ友に見せてやろう。コピペしてそれをそのまま友人のズッキーニ(鈴木だから)に送る。絶対に笑うだろうよ。

しかし、反応は意外なものだった。

「お前はこれ、マジに笑えるのか?」

ズッキーニは読んでから少し間を空けて、そう言ったのだ。

「もしかして本気にしてんのか?」

少しだけズッキーニのリテラシーを疑う。

「いや、そうじゃない」
「問題はこの数字にある」

数字、?というのはこのやれナイフやらの個数のことだろうか。

「違和感、感じないのか…?」

……?
ズッキーニが文字に起こしてみろとうるさいので、少し疑問に思ったし、あらためてコピペをパソコンのメモに起こす。特に数字が出る箇所を。


  1. 32:風吹けば名無し:2017/09/24(金)
    20:30:22.11 ID:MjFxiNGBO

  2. 2017年10月14日土曜日

  3. ナイフ333個と包丁1 3 1個

  4. 最低10000人の通行人


こんなところだろうか。
1番目は特に操作の効かない部分であるから考慮から省いていいだろう。ズッキーニの言う違和感とは、一体なんのことだろう。

「なあ、これがお前の地元なら、絶対に気がついたほうがいい」

ズッキーニは続ける。

「助けを必要としてるやつがいる」

助け…。
俺は寂しい手を使い左クリックホールドで画面を青くしながら考えていた。

……?

違和感があった。
それは、2番目の部分だ。
ホールドして選択していた数字は、すこしだけおかしなことになっていたのだ。
すごく簡単なことだけど、わざとじゃなきゃなかなか起こらない。

2017は全角で打ち込まれていた、
しかしながら10、これは半角、
そして14、これはまた全角に戻されていたのだ。

こんなこと、意図しなければ起こるはずがない。
その胸をズッキーニに伝えると、やっと気がついたかと彼は返す。

「この数字はただの日付けだ。おそらくだがあんまり関係はない、しかし重要なのはその次だ」

「ナイフ333個、というところ、この違和感はわかるか?」

彼がそう言うので、俺はまたそいつを選択する。まただ。

三桁目は全角、二は半、そして一は全角と、なっていた。
それが、何だというのだ。

「モールス信号って分かるか?」

急な方向転換だったので少しビビった。
そりゃわかるさ、と言う。
アニメやら小説やらでも出てくるような、トンだとかツーだとかでやりとりする、あれだろう。

「間違っていたら申し訳ないが、おそらくこの333を、モールス信号に置き換えるのがこいつの意図だ」

!?
そんな高度なことあってたまるか。
どうやって?と彼に聞く。

「全角を伸ばし棒、半角を点だとしよう。そうしておそらく数字はその回数だ。それにしたがって文字に起こすとな、」

彼は少しだけ間を空ける。

「S(エス)、そしてO(オー)、もう一度S(エス)になる」

「あんまり馬鹿らしい文章をカモフラージュしてるようだが、内容は全くその逆、」

「これは、何者かのSOSなんだ」

俺はその時、彼の言ってる意味がやっと理解できた。

こいつは、何かヤバい。
さっきまでの自分の中での雰囲気ですらもう吹っ飛んで、なんなら脂汗までじわりと掻き始めている。人生何年も生きてきて、こんな経験に相対した瞬間など、一度だってないのだから当然だろう。

SOS、そう考えると〇〇駅の名前を出したのも何だか説明が付く。この駅は、この田舎のくせに死ぬほど広い〇〇町に一つしかない駅だ。
つまりこいつがここに住んでいるのだとしたら、すぐに特定しやすくなる。
あえて、特定しやすくしているのだ。
いやしかし、番地などの詳しいところまでは分からない。その旨をズッキーニに話した。
すると彼はこう言った。

「お前ならもう分かってるはずだ、そんなにバカじゃない」

手慣れた手つきで数字を青く光らせる。
見つけた。

包丁1 3 1個、それぞれの数字の間に、半角の空白があることに気がついた。

それはつまり、

おそらく『1-3-1』ということだ。

それは、はがきなどで使われるような番地の略数字だ。つまるとこそれを起こすと、

〇〇町1丁目3番地1号、これがこいつのいる、または助けを求めている場所だ。
それもまたズッキーニに伝える。
彼はやっと分かったかというようなことを言って、風呂に入るといって落ちた。

分かった、ならやることはひとつだけだ。
俺は、わかることが出来た俺はこいつを助けなくてはならない。
罠かもしれないなんてことも考えた。しかしそれはどうでもいい。とにかく今は行動がしたい。

バカだなんてなんて一蹴した俺を、くだらないスレッドをいつまでも立てている俺を、また一蹴するために。


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まだ中学生です