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汝の隣人を

私は十年後の未来からやってきた。

かといって十年後は空に車が飛んだり、AIに支配されたりなどの技術的革新はこれといってなく、君たちのいる今とそう大差はないと思う。

ならなぜ未来からやってこられたのか。

ある日あてどもなく道を歩いていると、はずれの草むらに不思議な箱が落ちているのに気が付いて近づいて、拾ってみればいつの間にかこの時代にやってきていた。

十年前の私は4歳で、物心と言えるようなものがやっとついてきた程度であるからあまり当時のことは覚えていない。
なのでなかなか、すべてのものがワンランクばかり下がっている世界というのは目新しい面白さがあった。

今住んでいるN市は、私とは何の縁もゆかりも黄色いハンカチもない土地だけど、三年前に団地に併設された公園に沿う、安いアパートを借りてからは、何となくその良さ?に気が付いていった気がする。

もともとは遊具がたくさんあったらしいけれど、今ではその活気はどこへやら、見えるのはまさしく月の裏側のような景色で初めて見たときは本当にため息が出た。もちろん悪い意味だ。

しかし部屋の窓から見える公園は、なんというか、うん。
これと言っていい表現は浮かばないからあえて言わせてもらうと、
ため息が出た。今度はいい意味で。

垂れた柳とぼうぼうの雑草たち、時間によって日の傾きから、そのごちゃごちゃたちが作る影は、高層ビルの日照問題に日々囲まれている未来人には新鮮で、どうも見てて飽きないね。

それに、おとなりさんもとてもいい人なんだ。
名前は臼井さん。
女の人で、整形外科に務めてるらしいんだけど、副業というか実家のお手伝いでごはん屋さんもやっていて、料理が上手だからたまにくれる余りもののごはんがとんでもなくおいしいんです。
三年間の一番を言うと、肉じゃがの破壊力ったらもうそれだけでタイムトラベルの価値あったんじゃないかって思うんだ。

とかなんとか言っていると、そのうち腹が減ってきた。
よし、ちょうどいいから今日は臼井さんのごはん屋さんに行っちゃおうかな。



────『定食屋 うすい』

がららとサッシを開けると、いらっしゃいという声がする。
奥ののれんから、臼井さんのお母さんが出てきて、

「あ、視頼みらいさん!よく来てくださいました!」

という。お決まりだ。
店内は、左手に厨房の見えるカウンターが八席、右手には座敷が三組分と、そんなに大きくないつくりだ。厨房には、お母さんが出てきた向かい奥ののれんから入ることができる。

「ほらあなた、視頼さんきましたってば!」
お母さんが厨房でなにか作っている、臼井さんのお父さんに話しかける。
すると、小さい声でいらっしゃいとだけ帰ってくる、
さらに、

「ごめんなさいね視頼さん、あの人ああいうとこあるから、」
「いえいえ、お構いなく!」

とここまでも、またお決まりだ。
お母さんに促され、カウンターに座り、立てかけてあるメニューを手に取る。

「視頼さんごめんなさいね、今日うちの娘来てないのよ。ほんとどこ行っちゃったんだか」

そういえばお母さんの言う通り、臼井さんの姿が見当たらない。
今日はシフトだって、教えてくれたのにな。
まぁきっと臼井さんのことだからすぐ帰ってくるだろうけれど。



────『定食屋 うすい』

がららとサッシを開けると、いらっしゃいという声がする。
奥ののれんから、臼井さんのお母さんが出てきて、

「あれ、視頼みらいさん?また来たんですか?」

という。どういうこと?
店内は、左手に厨房の見えるカウンターが八席、右手には座敷が三組分と、そんなに大きくないつくりだ。厨房には、お母さんが出てきた向かい奥ののれんから入ることができる。

「ほらあなた、視頼さんきましたってば!」
お母さんが厨房でなにか作っている、臼井さんのお父さんに話しかける。
すると、小さい声でいらっしゃいとだけ帰ってくる、
さらに、

「ごめんなさいね視頼さん、あの人ああいうとこあるから、」
「いえいえ、お構いなく!」

こんどこそ、お決まりだ。
お母さんに促され、カウンターに座り、立てかけてあるメニューを手に取る。

「視頼さんごめんなさいね、今日うちの娘来てないのよ。ほんとどこ行っちゃったんだか」

そういえばお母さんの言う通り、臼井さんの姿が見当たらない。
今日はシフトだって、教えてくれたのにな。
まぁきっと臼井さんのことだからすぐ帰ってくるだろうけれど。


お母さんが腹いっぱい食べなって、ごはん大盛りにしてくれたから、とんでもなくお腹がいっぱいだ。
帰路、すこしふらつく足取り。
空では日は落ちかけ、今にも燃えだしそうな赤い空に、きんきらと輝く星が見える。金星だ。

「きれいだな」

ひとりごとに、そうこぼしてしまった。
太陽も、月も、誰も邪魔しない一瞬だけを輝く。
そんな姿には、すこしだけ憧れちゃうね。

どがああああああんん

そんな音だった。
黒煙がもくもくと立ち込める瞬間が見られた。
ラッキーだなぁ、
出所は、

俺の、臼井さんのボロアパートの辺りだ。


何年振りの全力疾走も虚しく、入り口があった場所から見えるのは、あの月面みたいなF公園だけだった。

どうやらF公園に、爆弾を仕掛けたやつがいたらしい。

臼井さんの部屋があった場所の前には、臼井さんのよく履いているパンプスの片っぽが転がっていた。
部屋の壁は倒壊して、中に何があったか、見えなくなっている。

都合がいいや、そのほうが。

俺の部屋があった場所には、タイムマシンの白い箱が転がっていた。
それを拾い上げ、ダイヤルを三年前にセットする。

臼井さんは整形外科だし、この町はきっとそういうことなんだろう。
いや、あえて言うなら

都合がいいんだ、そのほうが。





まだ中学生です