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北欧ウォーク 7 校長先生は男性家庭科教員

フィンランドの首都ヘルシンキ郊外にある、基礎学校を訪問したときのことでした。ここでは就学前学校から9年生までの生徒、さらに軽度の発達障害児が学んでいました。訪問の目的は、発達障害児の授業を見学することでした。男性の校長が玄関ホールで迎えてくれました。あいさつもそこそこに、おっしゃいました。「残念ながら、今日は発達障害児の担任が欠席したので、授業はお見せできません」 あっけにとられる私たちを横目に、「こちらへどうぞ」と案内してくれたのが、調理の授業でした。このクラスは健常児だけでした。男の子も2人いましたが、けっこう楽し気でした。将来は主夫を、あるいはシェフを目指しているのかもしれません。

モダンな校舎です

廊下に出たら勘の鋭い女性から、「校長先生の専門は何ですか」との質問がありました。
「ホーム・エコノミックス」が答えでした。最初に案内したのは、自分の専門の授業だったのです。それは「家庭科」。わたしはこれまで300人くらいの現前教員に会いましたが、家庭科を専門とする男性教員には、一度もお会いしていません。しかも校長との出会いはこれが初めてでした。日本でも家庭科教員の校長はいるでしょう。でも数は少ないでしょう。男性の家庭科教員もいるでしょう。でも、数はものすごく少ない。そして、男性家庭科校長はいるのでしょうか。校長は資格さえ取ればなれるから、いても不思議はないのですが。

家庭科教員の男性校長

日本で男性の家庭科教員が雇用されたのは、1976年の群馬県が初めてだそうですが、長続きせずに退職されたようです。公立学校では京都府が1989年に初めて採用したそうです。1993年に中学の家庭科男女共修が実施されましたが、その時点では男性教員は存在しなかったかもしれません。2004年の調査では中学家庭科教員の0.1%が男性でした。2010年になってやっと0.3%ということは、約5000人(資料がないので推測です)の中学家庭科教員の中で男性は15人しかいないということ。日本で男性家庭科教員に出会える確率はものすごく少ないのです。そういう先生から教えられる生徒たちは、幸運と思うべきでしょう。
フィンランドでは校長は、自治体の広報や地方新聞などで公募されます。応募者は自治体が求める学校経営の企画書などを提出し、それを自治体議員、親、教員、生徒からなる学校理事会が審査し、さらに面接審査があって採用されると聞いています。厳しい競争がありますが、男性家庭科教員であっても、関係する人たちがいいと思えば校長に選ばれる国です。民主的だし、厳しいし、実質的に思えます。

手工芸の木工の教室

次に入ったのは木工の授業でした。出てきた先生はひげ面の男性。その向こうに、木の板を相手になにをどう作ろうか話し合っている、と思われる生徒たち。女子の姿も目立ちます。この国では、家庭科では食生活・洗濯・掃除・家族や人間関係・環境問題などを学び、木工と裁縫は別の手工芸という教科になります。木工と裁縫は同じ教員資格なので、この学校ではこの男性教員が針の穴の糸通しなども教えるのでしょう。
男性家庭科教員にいつか会ってみたいと思っていました。外国人でしたが、予期せずに出会えたのは幸運でした。それも、まさか存在するとは考えてもいなかった、男性家庭科校長にまで出会うことができて、思わずほほがほころびました。この国をさらに見直しました。男女平等や、性別役割にこだわらない意識が教育の場にしっかり根付いているのがわかりました。そして、それを支える親たちや自治体の意識の高さ。

給食の食堂。隅々までデザインされています

男性が仕事と家事、子育てをどう切り盛りしていくか、男性教員から学ぶことは、男の子たちに何より説得力があることだと思います。どういう家庭を築いたらいいか、教員を通じてイメージしやすくなるはずです。それが教育から国を作っていく正しい道でしょう。
日本では父親が作る食事で育つ子どもは、あまり多くないでしょう。うちの子どもたちは、母親の体調が悪かったため、6年にわたり父親が作る朝食と弁当を食べて育ちました。週末はいつもわたしが食事当番。このためかうちのこどもたちは、食事は手が空いている人が交代で作るものと考えるようになり、やがて朝食は各自が作ることになりました。
しかし、ボタン付けは、わたしが自分の服のボタン付けを自分でやっているのを見ていながら、子どもたちはボタンが取れると母親に頼みにいきました。たぶんわたしがつけたボタンは、きれいに見えなかったからでしょう。残念ですが、美意識も大切です。

予定していた授業を見ることはできなかったけれども、こわもての家庭科校長に出会えたことで、この国の平等意識や家庭重視の教育を感じることができ、すてきな体験になりました。男女平等度ランキングで世界3位の国と125位の違いがよく見えました。


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