「ふつう」のWebサイトを作りました。
新しいWebサイト「ふつうごと」を作りました。
名前の通り、世の中の「ふつう」を伝えるWebサイトです。たくさんの「ふつう」と向き合い、その価値を発見する。それをただただ丁寧に伝えていきます。
少し長いのですが、「ふつうごと」を作ろうと思った経緯や、これから発信していきたいことなどを綴りたいと思います。
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「ふつう」とは何か
その答えは、僕にもまだ分かっていません。
「ふつうごと」を通じて、僕自身も答えを見つけたいと考えています。
「ふつう」という考え方については、日本を代表するプロダクトデザイナーの深澤直人さんに影響を受けました。著書『ふつう』より一部引用します。
ふつうというのは結局みんなが戻りたいところじゃないだろうか。
ふつうの反対は特別。ノーマルに対してスペシャル。一見人はスペシャルに憧れるしそっちに行こうとするけど、ちょっと疲れてきたりストレスがたまったりして「ああふつうに戻りたい」と思うのではないのかなと。飛び出し過ぎず、引っ込み過ぎず。願い過ぎず、無頓着でもない。生きていく中での揺れの真ん中にいるのが「ふつう」ってものなのかな。ちょっとつまらないような気もするが安心でもある。心のよりどころが「ふつう」ではないかと思う。人は常に揺れている。欲望や願望に振り回される。ふつうにとどまって動かないということは難しい。
淡々ととか、気負いなく、とか言う言葉の向こうに目指しているふつうが見える。
(深澤直人『ふつう』P6〜7より引用、太字は私)
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平凡という意味で使われることの多い「ふつう」ですが、スタンダードを表現する言葉でもあります。
普遍的なもの、定番のもの。日常生活において欠かせない「ふつう」は、廃れることなく、普遍的な価値を持っています。
いまさら「富士山って良いよね」は、ニュースになりません。だけど僕は「(やっぱり)富士山って良いよね」をテキストにしてみたい。
富士山という山の性質、日本史における富士山の機能性、アートと富士山の関係、なぜか登りたくなる富士山の魅力……。漠然とイメージする富士山の良さを、色々な角度から探り、やっぱり良いよねって再発行してみたい。
世の中にある「ふつう」を収集してみる、表現してみる、伝えてみる。「ふつうごと」を運営していく中で目指すのは、そのような姿勢です。
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なぜ「ふつう」のWebサイトを作ろうと思ったか
端的に言うと、「ふつうのWebサイトがない」と思ったからです。
世の中には天才と呼ばれる人たちや、突き抜けるほどの情熱を持った人たちが存在します。大志や野心を抱き、社会をダイナミックに変えてしまう「特別」な人たちです。
彼らの「特別」なサクセスストーリーは分かりやすく、開かれており、再現性が高いかのように思えます。
ただ言わずもがなですが、そこには血の滲むような努力があり、決してオープンにはできない葛藤や衝突があります。そういった裏側が記事になることは少ないため、読み手が得られる知識や情報は表面的なものに限られてしまいます。
サクセスストーリーを否定するつもりはありません。「あんな風になりたい」「あの媒体に載せてもらえるよう頑張ろう!」という前向きな姿勢は健全です。
成功体験を真似ぶことは仕事への活力に繋がります。
だからこそ、逆に、
・「ふつう」に価値があるひと
・「ふつう」に価値があること
にフォーカスしたWebサイトを作りたいと思いました。
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3つの編集キーワード
編集キーワードを3つ定めました。
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1つ目:書き手の熱量を優先すること
僕が一番こだわりたいことあり、書き手の「書きたい」「伝えたい」を何より大切にします。
新聞や雑誌は掲載できる分量が限られています。インターネットも目安としての文字数制限はありますが、どんなに多くの文字数であってもコストは変わりません。
文字量が多くなればなるほど、読む労力がかかります。読み手を優先するなら「3分で分かる!」という体裁にした方が良いに決まっています。枝葉をカットし、要旨をギュッと凝縮する。高い編集技術のもとで、多くのWebメディアは「分かりやすさ」「読みやすさ」に苦心しています。
ですが、あまりに読み手に配慮すると、書き手が「伝えよう」と思っていたことがブレてしまいます。「本当は断言したくないんだけど」みたいなことも言い切る形が好まれたりします。もちろん冗長性には配慮しますが、多少粗くても、書き手の熱量を真っ直ぐ伝えたいと思います。
例えば、富山県利賀村のランニング合宿を取材した木幡真人さん。市民ランナーとして、まちづくりを専攻してきた立場として、ものすごい熱量のテキストを寄稿してくれました。
テキストには「同じことを繰り返しているな?」という内容も見受けられました。それでも、何度も伝えようと考えている木幡さんの熱は、代替できない価値だと直感しました。
デジタルマーケティングで重要なPV数、UU数という指標は、読み手の感性にも依存します。誤解を招くかもしれませんが、僕は「読み手が面白くない」という数字的なロジックは無視します。
それくらい書き手には、熱量を求めますし、本当に面白いことだけを書いてほしい。書き手の「伝えたい」を届けていきます。
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2つ目:読み手の近くの存在でいること
これは2つの観点を大事にしたいと思って定めました。
・常に社会は、何らかの不都合や不具合を抱えていると想像すること
・本当の意味で開かれている、「ドア」のような存在であること
抽象性が高い書き方ですが、大上段から物を申すようなことしたくないという宣言です。
「あるべき」ではなく「あったら良いね」
「それはおかしい」ではなく「ちょっとずつ学んでいこう」
万人が「なるほど!」と唸るような言葉はないし、読後感も「結局何がいいたかったんだ...?」とモヤモヤすることもあると思います。
容易な理解なんてことは、世の中あり得ない。すぐに分かった気になる傾向があったとしたら要注意です。
記事を通じて、読み手と共に、時間をかけて歩み学んでいく。そんなWebサイトでありたいと思っています。
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3つ目:予定不調和を楽しむこと
Webサイト運営者として、コンテンツプロバイダーとして、編集者として、様々な場面で「板挟み」に遭うと思います。取材をしていたら「思てたんと違う!」といった回答が却ってくるかもしれません。
でも、それで良いし、それが「ふつう」じゃないかと思います。
読み手が期待している物語に沿わなくても、そこに本音と本質があるのであれば、そこをもっと掘り下げていきたい。
格好つけるよりも、格好悪いことが格好良かったりする。
格好悪いことを表明するのは勇気が要ります。他人から笑われるかもしれない。だけど、読み手によっては深い共感が生まれ、その輪が広がっていく可能性もあります。時間を味方につけて、読む価値のあるものを紡いでいきたい。
そういった意味で、予定調和でなく、予定不調和を歓迎していきたいと思います。
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どんな記事を配信していくのか
2021年7月末で閉店した東京・目黒区のパン屋「Bakery Bran」。27歳で独立し、35年間パン屋さんを続けてきた方の取材です。
商店街の流行り廃りや、コロナ禍の営業などについて色々なことをお聞きすることができました。
店主の福山さんは「面白いこと何もないよ」と謙遜しました。
銀行に何度も融資を申し込み、失敗ばかり経験しながら続けた「商売」について。「なぜ35年間もお店を続けられたか?」に対する答えを、僕は全く予想もしていませんでした。
多くの人にとっては、福山さんがおっしゃった通り「面白くない」話かもしれません。ただ、少なくとも僕は、めちゃくちゃ面白くて、時間が許す限りいつまでもおしゃべりしていたいと思っていました。
Bakery Branの取材で、「ふつう」に眠っている価値の大きさを確信しましたし、それを世の中に発信することが僕の責務だとも思えています。
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これから発信していくひと・ことは、新聞の一面を飾るようなトピックスでないものが多いです。
とても「ふつう」な佇まいの中に、価値がある。
これから時間をかけて「ふつうごと」を育てていきたいと思います。
記事をお読みいただき、ありがとうございます。 サポートいただくのも嬉しいですが、noteを感想付きでシェアいただけるのも感激してしまいます。