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note株式会社(2022年12月21日)|事業計画及び成長可能性に関する事項の雑感

グロース市場に上場している企業の「事業計画及び成長可能性に関する事項」をチェックしています。(過去アーカイブはこちら

今回、読んだ資料は、note株式会社です。

僕自身、ヘビーユーザーとして利用しており、オフラインの公式イベントに足を運んだこともあります。(直接、CTO今さん、CXO深津さんとお話できたのは、ありがたい体験でした)

関係者ではないけれど、決して他人事ではないnote。数日前から上場日を楽しみにしていましたが、まさかロゴまで変わるとは。

ということで、note株式会社の「事業計画及び成長可能性に関する事項」の資料を読み解いてみたいと思います。

note株式会社(2022年12月21日)

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資料を楽しみにしていたのは、「noteは投資家にどんな話をするのか」気になったから。

普段僕は、noteのクリエイターという立場で、noteからの情報を受け取ります。法人向けサービス「note pro」も一応フォローしていますが、やはり気になるのは、基幹サービスであるnoteで。noteがどんな運営方針を持っているのか、どんな新しいサービスをリリースするかといった点です。

いちユーザーと投資家とでは、説明の仕方は違って然るべきでしょう。

それは「株主には良い顔をしよう」ということではなく。ビジネスとして「note株式会社に投資してはいかがですか?」と示さなくてはいけないからです。

IRとしてフォーカスしたとき、note株式会社はどのような言葉とデザインを選び、自らの成長可能性を示すのか。それが「事業計画及び成長可能性に関する事項」の資料に詰まっていると考えていたのです。

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といいつつ。

全体的に感じたのは、「普段、noteが言ってることとあんまり変わらないじゃん!」ということでした。

最終利益が赤字なのは、官報でもたびたび示されていた通り。予想通り、会員数が急増した2019〜2020年あたりから、売上高も大きくなっています。(2019年は7.9億、2020年は15.2億とほぼ倍増しています)

ちなみに数字に関しては、もう少し「note pro」の売上が大きいかなと予想していました。直近四半期でいうと、noteが4.6億円に対して、「note pro」は0.8億円。オープンワークでは、「OpenWorkリクルーティング」が事業の柱として急伸していると記しましたが、「note pro」は、事業の柱に現時点では達していないと言えます。

変わらないと思ったのは、P11にある「note社の強み」の部分です。「クリエイティブ、デザイン、テクノロジーの3つが三位一体となった経営、組織能力、プロダクト開発力とサービス運営」は、まさに、noteがずっとサービスとしても大切にしてきたことです。

クリエイティブとデザインだけでもダメだし、クリエティブとテクノロジーだけでもダメ。クリエイティブ、デザイン、テクノロジーが3つ揃ってこそ、noteは、noteたらしめる価値を有してきたのだと感じます。

実際、デザインへの注力は目を見張るものがあります。

noteの経営陣には、Chief Experience Officerの深津貴之さん、Chief Design Officerの宇野雄さんと、「デザイン」に関する役員が2名います。こと経営体制に関しては、デザイン領域で上場したグッドパッチと比べても遜色ないというか、かなり意識的に取り組んでいると感じます。noteの新しいロゴを、日本を代表するグラフィックデザイナーの原研哉さんに依頼したのも、noteの価値観とぴったり合致します。

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「変わらない」部分に感心しつつも、肝心のビジネスモデルとして、どこまで投資家に説得できているかは疑問でした。

noteのグロースモデルは、広告宣伝に依存しない形で会員数を増加させてきたことです。著名人も、noteをプラットフォームとして選ぶことも珍しくなくなっています。note内のエコシステムが着実に作られ、「街」として機能していることは認めつつ、「じゃあ、そこからどう売上が伸びていくの?」という質問には直接答えていないように思うのです。

例えば「note pro」事業。サービスを利用することで、一気にクライアントの企業認知度が高まるかといえば、そんなことはないでしょう。有料・無料問わず、また企業規模に関わらず、閑古鳥が泣いている法人アカウントは少なくありません。フォロワー数やリアクションの有無が全てではないとはいえ、玉石混交のプラットフォームで埋もれてしまう可能性もあります。

「note pro」を使うメリット、ユーザーバリューは何かを正しく見極め、場合によっては中小企業を対象とした、「note pro lite」のような廉価版を用意するような対策も必要かもしれません。(薄く広く、収益をあげていくようなビジネスモデルの方が、「すべての国内法人」を巻き込めるのではないかなと思う次第です)

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成長可能性としてnote株式会社が挙げているのは、「「CtoC × BtoB」 のハイブリッド戦略」です。

noteの機能向上によりプラットフォームとしての魅力をさらに高めることでnoteの「街」にさらに多くのクリエイターや読者を呼び込み、その上でnote proの機能拡充をおこなっていくことで、顧客ターゲット拡大によるさらなる成長を目指す」とありますが、それができるのは、noteをはじめとする一部の巨大プラットフォーマーだけでしょう。それだけでも十分、成長に向けたポテンシャルを感じます。

ちょっと気になったのは、KPIのひとつであるGMV(流通総額)。2021年は各四半期で20〜21億円で横ばいですが、2022年には一気に増え、2022年第3四半期には28億円に増えています。メンバーシップなどの新しいサービスが始まったことがきっかけでしょうか。あるいはコロナ禍がひと段落して、何かしら急伸するきっかけがあったのでしょうか。(たぶん「note pro」でなく、note事業の好影響だと思います)

伸びた要因が、「新規サービスがたまたま当たった」というのであれば、成長性という観点からは若干弱い。これまでの成功体験を見直して、何が成長ドライバーとして長期的に寄与するのか、組織的に検証するフェーズに入ってきているように感じます。

noteが標榜するのは「街」でした。

投資家から長く成長性を期待されるようになると、「街」だけでは物足りなくなってくるでしょう。「街」から「都市」へ。「都市」から「国」へ。そんな移行をどのようにスムーズに達成していくのか。noteの社員の皆さんの頑張りにかかっているように思います。

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ここまで書いて思い出したのは、noteの2019年の感謝祭。

セッション後に、僕は今さんと深津さんに質問をしました。正確な質問内容は憶えていないのですが、「どちらかといえばマーケットインというよりは、プロダクトアウトの発想を持っている」と、おふたりがおっしゃっていたのが強く印象に残っています。

一般的には、

プロダクトアウト:
会社が作りたいもの / 作れるものを元に商品開発を行なうこと

マーケットイン:
顧客(マーケット)の要望や意見をもとに製品開発を行なうこと

とされており、両者は対極のものと見做されています。

それはそれで正しいのですが、僕は3年の時を経て、「noteはプロダクトアウト、マーケットインそれぞれの発想を大事にしているのでは?」と感じるようになりました。

そもそも、プロダクトアウトとマーケットインは二者択一の概念のものではありません。マーケットの要望や意見を都度キャッチアップし優先順位をつけていく。そして、会社として作りたい世界観のサービスとして構築していく。

マーケットインの感覚が強すぎると会社として作りたい世界観が壊れるし、プロダクトアウトの感覚が強すぎると独善的なサービスになる(それはそれで面白かったりはするのだけど)。それを絶妙なバランスを保ち、noteというサービスに結集されているのかなと思います。

改めて、note株式会社の皆さん(かつてnote株式会社に所属されていた方も!)、上場おめでとうございます。これからのご活躍も、陰ながら応援しています。(また外苑前にも、遊びに行かせてください!)

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こちらに過去調査した企業のアーカイブをまとめています。

よければ、ぜひ覗いてみてください。

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