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オードリー・タンが考える「透明性」とは?

クーリエ・ジャポン2021年2・3月号の特集は「オードリー・タンと考える「新しい社会のかたち」」。EY Japan COOの貴田守亮さんとの対談も含め、約20ページにわたるタンさんの言葉。全てアンダーラインを引きたくなるほどに価値がある。

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昨年、台湾のコロナ禍対応で話題にあがったオードリー・タンさん。

8歳から独学でプログラミングを学び、中学を中退後、19歳のときにシリコンバレーで起業。2016年、35歳という史上最年少の若さで蔡英文政権に入閣し、デジタル担当政務委員(大臣)に就任。世界初のトランスジェンダー大臣としても知られる。台湾のコロナ対応では、薬局など各販売店のマスク在庫がリアルタイムで確認できるアプリ「マスクマップ」を開発した。
(雑誌「クーリエ・ジャポン」2021年2・3月号、P14より引用)

エンジニア界隈でも名を知られている。昨年、東京都のコロナ対策サイトにも「関わり」を持ったことも話題になった。(この辺の時期に「天才IT大臣」という言葉が多用され始めたように思う)

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タンさんは「透明性とは国家から国民への一方通行だ」と話す。

マスクマップを例に出した。「国民に健康保険でマスクは充分に供給されると盲信させる」のでなく「自分の携帯電話で在庫をリアルタイムで確認できるようにする」ということ。あくまで透明性とは、国民にメリットがなくてはならない。

意思決定プロセスの透明化ということだけでなく、実際にモノやカネの流れを明示する。その結果として、国家は国民から信頼を得ることができるというわけだ。

確かに日本の場合、住民記帳台帳カードやマイナンバーカードなど、浸透度も含めてイマイチ利便性を感じられずにいる。それどころか安全性の懸念や「悪用されたらどうしよう」といった疑心暗鬼まで生まれる始末だ。

セキュリティに対する議論(や説明責任)が十分でないことから出てくるものであり、国民のリアクションはある意味健全なのかもしれない。国民のリアクションにひとつひとつ丁寧に応えていくことにより、信頼を得ながら、テクノロジーに反映されていく。それがテクノロジーの恩恵を受けるということだ。

実際に「信頼」といった無形の価値は数値換算しづらいものだ。数値換算しづらいものに対して「説明を果たす」ことに躊躇したくなる気持ちは分からなくもない。

あくまで僕が誌面から感じる印象だが、それでもタンさんは、何らか数値換算できる指標づくりは諦めていないのではないだろうか。SDGsへの積極的な関与を表明している通り、今は「見当たらない」指標であっても、何らかの寄る辺を頼ることは可能だ。為政者からのトップダウンは限界がある。知見のある国民・市民を巻き込むためにも、一丸となれる目標(+実績)は必要なのだ。

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透明性の話とは別で、タンさんが幼少期に影響を与えた出来事について話していることも興味深かった。11歳でドイツの小さな町で過ごしていたとき、台湾の子どもたちよりも同級生が大人びて見えたという。

生物学的には同年齢なのに、ドイツの子供たちは自分たちでスケジュールを決め、自分たちでクラスを選び、自分の主張を的確に伝えることができる。
それは「ピグマリオン効果」と呼ばれるものでした。大人が子供に対し、大人のように振る舞うことを期待していると、子供も期待に沿うべく育つ。反対に大人が子供を赤ちゃん扱いすると、相手もその期待を満たす行動をとる。
(雑誌「クーリエ・ジャポン」2021年2・3月号、P17〜18より引用、太字は私)

タンさんはデジタル担当大臣に就任したとき、小中学生にインタビューを受けた。地理的制約があったためVRで実施したとき、タンさん自身のアバターを縮小して子どもたちの身長に合わせた。彼らと同じくらいの身長にすることで、より自然なコミュニケーションになったという。

タンさんが繰り返し使っている「インクルーシブ」という言葉。ダイバーシティとインクルーシブが人類の進化に繋がるという考えをしっかり持ち、政治家として施策も進めていく。小さな出来事だけど、インクルーシブ体現の好例ではないだろうか。

タンさんは、実に軽やかに政治を進めている印象を受ける。

近隣の行政に、こんなに素晴らしいロールモデルがいることを喜ぶと共に、もっと積極的に学んでいきたいと思った。


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