英国大手チャレンジャーバンク Monzoのグロースについて(創業者/ex-CEOのブログ翻訳)
イギリスのチャレンジャーバンクの代表格、Monzoの創業者で元CEOのTom Blomfieldが退任後に初期にどのようにグロースさせたのかについてブログエントリーを書いていたので、主要なポイントを翻訳して要約してみました。
主に創業(2015年)から2018年までの話(銀行業を取る手前)までの内容になります。
Monzoについて
2015年に創業したイギリスの新しい銀行モデル「チャレンジャーバンク」のパイオニア。モバイルアプリとプリペイドデビットカードを発行しており、コーラルピンクのデビットカードが特徴です。
2018年に銀行免許を取得しており、2022年7月の時点で、顧客数は580 万人を超えています。残念ながら、創業者のTom BlomfieldはCOVID-19の影響や成長を求められる経営株主からの方針の相違からかCEOを辞任し、その後、2021年に退任をしています。
以下、Tom Blomfield氏に転載許可もいただいた上で、翻訳した内容の要約です。
会社の遍歴
2015
創業
年末時点で、3,000人のアルファユーザー(ウェイトリスト2万人)
2016
ウェイトリスト&招待したらスキップできる仕組みを通じて新規獲得が伸びた
100以上のミートアップなどのオフラインイベント
クラウドファンディング
年末時点で、7万人のベータユーザー
2017
バイラル・ネットワーク効果構築にリソース投下
年末時点で、60万人のベータユーザー
2018
銀行業取得!
9月に100万ユーザー
創業期
2015年2月に創業
当時は「デジタルバンク」自体はほとんどなく事業としても新しい試みだった
メガバンクで色々問題が起きていて、2015年4月にイギリス政府が新しい銀行を作りやすい制度作りをしていた
最初は銀行業を取得するための申請書をひたすら書いていた
1年で取れると思ったけど、結局3年かかった
過去に創業したスタートアップ(GoCardless)やY-Combinatorの経験から、出来るだけ早くプロダクトを出してユーザーに話を聞きにいく重要性を理解していた
銀行業がなくても似たようなことをプリペイドカードでできることに気づいた
プリペイドカードは銀行口座と比べると60%くらいの機能しか提供できないし、経済性も悪い
それ以前は、プリペイド カードは実際には子供のプリペイドカードのみ使用されていた
けど、まずはプロダクトをユーザーに届けることを重視してプリペイドから始めることにした
まずは1万枚から予算を立てて実行した(3年で60万枚まで成長した)
リリース前夜のPR祭り
PR戦略がうまくハマった
プリペイドカードと超初期のアプリができたので、初期の投資家に渡したらリアルタイムに通知が来る体験が感動的すぎてツイート
そのツイートがバズってTechCrunchの記事に繋がった
急いでウェイトリストを準備して、ブログを書いて、PRにリソースを一気に投下し、記者に会って説明しまくった
結果、リリースもせずユーザーがいないにのに、いろんな媒体に取り上げられた(Guardian、 The Memo、 Bloomberg、Business Insider、Techcrunch againなど)
Monzoの場合は、タイミングとコンテキストが良かった
イギリスの記者はスタートアップに関心が高まっていたけど、当時はまだそんなにたくさんの数がいなかった
従来の銀行に挑む挑戦者的なポジションで、記者としても面白いストーリーが書けた
初期のマーケティング&採用へのアプローチ
広告を回してプロダクトとして打ち出していくメッセージを決めた
採用候補者に試しに4つのFacebook広告を回させた
全てプロダクトの提供価値に言及していた、その中でも“Help us build a bank you’d be proud to call your own”が他に比べて300%良かったので、これを今後のマーケメッセージの軸にした
採用をする際には、その候補者に実際に次の12ヶ月で何をしてもらうのかをイメージして採用するべき
10〜15人くらいマーケの候補を面接して、大手企業で数十年の経験があるCMOを採用したけど、もっと大きなチームをマネジメントする経験しかなく4ヶ月くらいで辞めた
コミュニティマネージャーとして雇った若手は逆にめちゃくちゃフィットした
ブログ書いたり、SNSに返信したり、当時求めていた泥臭い施策をこなしてくれた
初期のグロースに効かなかったこと
TV会社とMonzoの初期についてドキュメンタリーを作らないかと売り込んだが結局何もできなかった
ハッカソンを開催してグロースを狙ったが、面白いアイデアは出てきたがユーザーは300人しか増えなかった
ただし、エンジニアは採用できた
アルファフェーズ&限定公開
2015年11月に3,000人限定でリリースして、この限定公開が話題性を作る上でうまくハマった
当時はアプリの機能は足りてなかったけど、細部まで拘ってユーザーの体験を高めることにフォーカスした
例えば、利用した店舗のカテゴリ毎にプッシュの絵文字が異なるとか(航空券🛫、カフェ☕)
クラウドファンディング
「限定」&「希少性」をうまく使ってバズを作った
2016年に£1Mのクラウドファンディングを企画した
ユーザーは先行で投資できたり、投資したらウェイトリストをジャンプできたりした
外注してたけど当日アクセスがパンクして中止になった。応募がありすぎてパンクしたというPRストーリーとセットで後日開催して、96秒で満額
ほとんどPRもしていないのに、結果として4.5万人がウェイトリストにいて、VCからの出資も決まった
ベータフェーズ&ブランド構築
2016年3月にベータをリリースして、iOSユーザーであれば誰でもストアからDLできる状態
友達を招待すればウェイトリストの順番が繰り上がる仕組みもリリース
プロダクトロードマップを公開するという意思決定もした
従来の銀行はユーザーと一切対話をしないのに対して、Monzoはもっと透明性を保ち、ユーザーへの対話を大事にしたいと感あげていた
結果として、ユーザーからの評価とPRに繋がった
透明性を担保したり、自社のコミュニティを大事にする活動は、Monzoのブランド価値向上につながった
ブランド価値は一時的なものではなく、ブランドしてユーザーに対して約束すること・提供するもの全てが積み上がって形成(破壊)されるもの
結果として、「Monzo」がGoogleのように動詞として使われるようになった
ベータフェーズで失敗したこと
大学内のコミュニティ
各大学にコミュニティマネージャーを置いて新規ユーザーを獲得しようと思ったが教育コストなどの方が重かった
大学ごとにカードをカスタマイズしたり、周りの店舗で割引もらえたりというアイディアはあった
ロンドンの特定のエリアでのプロモーション
特定のエリアの加盟店をタイアップして、割引提供するなどプロモーションしたけど、工数の割に全然効かなかった
ネットワーク効果&バイラルを生むグロース仕組み作り
2017年にMonzoは一気にグロースした。それはネットワーク効果とバイラル性の両方を兼ね備えていたから
ネットワーク効果 = 他のユーザーがそのプロダクトのネットワークに参加すると、より利便性が向上する
バイラル = ユーザーが他のユーザーを呼んでくる仕組み
Golden Tickets
既存ユーザーを活用したバイラルを生む仕組み
ここでも「希少性」を活用することにフォーカスした
2週間、Monzoを使ったらGolden Ticketをユーザーに配布
Golden Ticket = 1ユーザーに1枚しか配られない。それを受けった友達をウェイトリストをスキップしてMonzoの口座を開設できる
1人しか呼べないというのが肝。招待した側はソーシャルステータス的なものを得ることができて、友達からは喜ばれる
2017年の登録の40%はこれ経由で全て無料
Monzo with Friends
👆と並行して、友達が使えばもっと便利になる機能を色々作った
P2P送金
スマホの連絡先に対して送金が瞬時にできる(Monzoを使ってれば)
もし使っていない場合は、Golden Ticketを送れる
送金するときにメッセージも送れるようにしたり、プロフィール写真を追加できるようにした
他には、割り勘機能、請求機能、グループでの管理機能(旅行一緒に行った時とか)、Bluetoothを使ってお互いに支払いする機能
Monzoを使っていない友達に請求できる機能もリリース Monzo.me
Monzo with Friendsの機能がかなりハマった
2017年の初めは10人以上の友達がMonzoを利用しているのは5%だったが、年末には40%のユーザーまで増加
当時のMonzoの継続率は3ヶ月後で60%
Monzo登録時に3人以上の友達がいると90日後の継続率が70%
まとめ
オーガニックの獲得と高い継続率に重要だったのは下記3つ
プロダクトの体験
従来の銀行と比べて、プロダクト・CSの体験が圧倒的に良かった
NPSは+70
ブランド価値
「これ」といったアクションというよりは、様々なユーザーファーストな施策の積み上がりで、ユーザーに愛され、ユーザーが共感するブランドになった
ネットワーク効果
これらの結果、Monzoは 2018年9月に100万人の顧客を獲得したが、マーケティングに多額の費用を費やすことはなかった。
エントリーの個人感想
MonzoのPRはたまたま当たった感はあるが、マクロのトレンド的にハマって取り上げられたていたので、時代の流れに沿ったPRを合わせることでCACを下げることは重要
プロダクトロードマップの公開など透明性を持ってユーザーとコミュニケーションしながらプロダクト開発をするのは新しいし、勇気もいるがブランドや信頼性を育てることに大きく貢献する
なんらかの形で試したい
難易度は高いが、「希少性」を活用してバイラル効果を作るのはあり
この辺りは物理プロダクト(カード)とセットという強みも生きた気がする
ネットワーク効果は日本でどこまで再現性があるのかは不明
そもそも大多数か特定のコミュニティ内で普及してないと利便性が発揮されない
日本では初期のKyashやpaymoなど「割り勘」軸からスタートしてペネトレイトした事例がない
PayPay、LINEPayが唯一そのポジションを狙えるのかなと思うと、決済を取ってからP2P送金な気がする
「家族」は確実にネットワーク効果がある
B/43は明確に「個人」「夫婦、カップル」「子供」といった文脈でアプローチできる
最後に
当時のブログにも書きましたが、実際にMonzoのオフィスに訪問させてもらい、デザイナーや採用マネージャーとも話をしてました。
現地のMonzoを利用してるイギリス人にもユーザーインタビューもさせてもらいましたが、当時で既に大学のゼミの同級生の半分以上はMonzoを使っているという、まさに送金のネットワーク効果がバリバリに働いている部分を目の当たりにしたこともあり、今回のエントリーからも裏付けがされていて大変感慨深かったです。
国が変われば環境も変わるので、応用できない部分もあるとは思いますが、B/43も同じような「資金移動口座+プリペイドカード」というモデルなので、是非、参考にしていきたいと思います。
最後にグロービスの深川さん、ZVCの湯田さんと海外のチャレンジャーバンクのPMFやグロースの考察をするイベントを開催するので是非、ご参加ください!
ではまた。
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