日本はフランスより労働生産性が低いって?
日経新聞に「フランスに学ぶ働き方改革」という記事が載っており、その中で「日本の労働生産性はフランスより低い」という記述がありました。
一般に「日本の労働生産性は、先進国の中では低い方だ」とよく言われますが、これは本当なのでしょうか?日本人は一般に仕事で成果を出す能力(?)がそんなに低いのでしょうか?
国際比較では確かに低い日本の労働生産性
主要な各国の労働生産性の統計はOECDが毎年公表しており、日本では、日本生産性本部がその結果をまとめて整理し、わかりやすい解説つきでウェブサイトに掲載していますので、この資料をもとに考えてみましょう。
これによれば、労働生産性には「時間当たり労働生産性」と「1人当たり労働生産性」があります。これがどのように計算して導かれるのかは、後で確認しましょう。
データを見ると、日本の時間当たり労働生産性は46.0ドルで、OECD加盟国35か国中20位。また1人当たり労働生産性では、81,777ドルで、35か国中21位。確かに低い方だといえそうです。
このうち1人当たり労働生産性の方を使ってフランスと比較してみると、フランスは104,345ドルです。こうしてみると、フランス人は平均的に見て、日本人の120%~130%程度も仕事ができるということになるのでしょうか?
(上記の日本生産性本部資料より抜粋)
そもそも労働生産性はどうやって計算するの?
ここで労働生産性の定義を確認すると
「1人当たり労働生産性」=GDP÷就業者数
「時間当たり労働生産性」=GDP÷(就業者数×労働時間)
とされています。
(GDPとは国内総生産。これは国別の比較をする場合です。企業ごとの労働生産性を見る場合はまた違ってきますが、ここでは立入りません)
ここでは前者の方を中心に検討してみることにします。
GDPが同じなら失業者が増えるほど労働生産性は高くなる?!
実際の計算に使われた日本とフランスのGDPや就業者数のデータは上記の資料には記載されていないのですが、まずは一般論で考えてみましょう。
例えばGDPが1億ドル、就業者数が2万人の国があるとすると、1人当たり労働生産性は1億ドル÷2万人=5,000ドルということになります。
ここで注意しなければいけないのは、2万人というのは「就業者」ですから、失業者は含まれていないということです。
では仮に同じ国が、GDPを維持したままで失業者を(無理やりに?)雇い入れて、就業者を2万5千人に増やしたらどうなるでしょうか。労働生産性は1億ドル÷2万5千人=4,000ドルに減ってしまいます。しかし、労働生産性が下がったからといって、別にこの国の人間の仕事の能力が劣化したというわけではないことは明らかです。
逆にその国が、GDPに貢献していないような労働者を一斉解雇して、就業者を1万人に減らしたら?労働生産性は1億ドル÷1万人=10,000ドルに逆に跳ね上がりますが、もちろん労働生産性が上がっても、この国の人間の能力が上がったわけではありません。
この例から考えると、日本の1人当たり労働生産性がフランスより低いからといって、日本人の仕事の能力がフランス人より低いことを意味するとは必ずしも言えないでしょう。
「国民1人当たりGDP」なら日本とフランスはほぼ同じ!
ここで日本生産性本部の資料を見てみましょう。最初のページに、各国の国民1人当たりGDPという指標も掲載しています。これは「就業者1人当たり」ではなく「国民1人当たり」であることに注意して下さい。働かない失業者や赤ん坊なども含まれているわけです。(「就業者1人当たりGDP」なら、さきほどの1人当たり労働生産性になります。)
これは日本は41,534ドル、フランスは41,490ドルで、日本が若干上回っていますがほぼ同じです。つまり日本もフランスも、国民1人当たりの「豊かさ」はほぼ同じということです。
一方、日本とフランスの失業率を比較すると、2017年については、日本は2.88%、フランスは9.44%で、フランスの方がはるかに高失業率の国です(IMFデータベースより)。
以上の結果はどう見たら良いのでしょうか。
経済学の専門家でもないのでここで理論的な分析ができるわけではありませんが、直感的にいうと、何パターン化の説明ができそうに思われます。例えば:
①1人当たり労働生産性が高いフランス人は、日本人より仕事の能力が高い。よって日本より失業率が高くても、日本と同じくらいの国民1人当たりの豊かさを産みだすことができる。
②日本はフランスよりも雇用を維持する傾向が強く、GDPの割には、より多くの労働者が雇用されていて失業率が低い。よってGDPを就業者数で割った1人当たり労働生産性は、就業者を多く抱えている日本の方が小さくなる。
これだけでは明確な結論が出せるわけではありませんが、日本の方がフランスより1人当たり労働生産性が低いからといって、必ずしも日本人の方が能力が低いことを意味するとは限らないことは、上記からもわかるのではないでしょうか。
一般に「日本人は国際比較で労働生産性が低い」ということは、「日本はGDPの割に多くの人間を雇用して働かせている(=みんなで仕事を分け合っている?)」ということかも知れないのです。
例えば、GDPに影響しない労働者を大量に解雇したら、(GDP÷就業者数の分母が小さくなるから)日本の1人当たり労働生産性は上がるでしょうが、それは望ましいことなのでしょうか。
★この記事では国別の労働生産性について考えてみましたが、企業別の労働生産性はまた別な計算式で定義されています。改めて別な機会に検討してみましょう。
よろしければお買い上げいただければ幸いです。面白く参考になる作品をこれからも発表していきたいと思います。