弁護士ほり
なぜ「保守」「革新」という言葉のイメージが正反対になったのか?
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なぜ「保守」「革新」という言葉のイメージが正反対になったのか?

弁護士ほり

(★一部増補しました)

参議院選を踏まえたNHKのクローズアップ現代+

 7月21日の参議院選挙を踏まえて、23日に放送されたNHKのクローズアップ現代+は、「1票に託したホンネ 参院選 有権者の“新潮流”と題して、有権者の意識を分析していました。(内容は上記リンク参照)

 その中で興味深かったのは、関西学院大学の稲増一憲教授が授業で学生たちに対して行った調査の紹介でした。

政党を「革新」と「保守」の順番に並べたら?

 稲増教授は、学生たちに、一方の端に「革新」、もう一方の端に「保守」と書いた直線を書いて、その直線の上に、政党の名前を並べるように指示したのです。つまり最も革新的だと思う政党から順番に名前を並べるようにさせたわけです。

 その結果、学生が「革新的」だと思う順番は

  維新→自民→公明→国民民主→立憲民主→社民→共産

となりました。つまり共産党が最も「保守的」な政党だと認識していたわけです。

番組で紹介されていた学生の声としては

「日本維新の会は、大阪に住んでいると都構想とか何か新しいことにチャレンジしようというのが耳に入ってくる印象があって。」
「自民党は憲法を変えるという意味で革新であるかなと考えていて、共産党は昔からのイメージで革新かなと思っていました。」

 というものでした。

若い世代にとっての「革新」「保守」とは?

 これは従来使われてきた「保守」「革新」という言葉の意義と正反対ですが、別に若い世代の人たちが間違っているというわけではなく、言葉の意味が過去の経緯とは切り離されて、現時点での観点から解釈されているというだけのことでしょう。

 これらの若い世代にとっては

 「革新」=「日本の国家や経済を強化するために構造改革を行う(と主張する)立場

 「保守」=上記の「革新」に反対して、何らかの現状を残させようとする立場

 ということだと考えられます。過去の用語法はおいておいて、余計な先入観なしで「革新」「保守」という漢字のニュアンスだけを眺めて考えるなら、こういう使い方は別におかしなものとも言えません。

従来的な意味での「革新」「保守」とは?

 それでは逆に、一般的に「正しい」とされてきた、従来的な用語法としての「革新」「保守」とは、どういう意味なのでしょうか。

 これは、一般には自民党が「保守」、共産党や立憲民主や社民が「革新」ということになりますが、その分ける根拠は、戦後の政治の図式を踏まえないとわかりにくく、言葉で説明すると長くなりますので、以前別な記事でも使った図を使ってシンプルに示してみましょう。

 これが、これまで長い間使われてきた「保守」「革新」の意味の概要です。つまり大雑把にいえば

 「革新」=「大日本帝国、皇室、軍備強化に相対的に批判的で、労働者優先の国家介入の経済政策を主張する立場」(図1の「C」)

 「保守」=その反対(但し経済政策では、基本的に企業優先型の国家介入であり、長い間、規制緩和や市場競争を重視しない傾向が強かった)(図1の「B」)

という使われ方だったわけです。

 この意味では、基本的には「自民党=保守」・「野党(主に社会党、共産党)=革新」という図式を疑う人はいませんでした。

 
「古い・新しい」の着眼点

 なぜ上記の図1の「C」が「革新」と呼ばれたかと言えば、例えば社会に残る「古い」大日本帝国的な要素に対して批判的で、また戦後の現行憲法で「新たに」定められた憲法9条の護持を主張して軍備強化に反対するという点で、まさに「新しい」=「革新」と考えられていたからです。

 さらに言えば、企業優先の「古い」資本主義経済を批判して、労働者の保護や生活保障のための国家介入を主張するという点で「新しかった」ということでもあります。(逆に図1の「B」が「保守」とされたのは、まさにその反対の理由ということになります。)

なぜ若い世代は「保守」「革新」の分類が変わったのか?

 それでは、若い世代は、この「保守」「革新」の分類がなぜ変わったのでしょうか。

 この理由はいろいろな説明が可能でしょうが、さしあたり考えられる例としては

 ①終戦後、長い年数が経過しており、若い世代の視点には、太平洋戦争や大日本帝国についての認識が非常に弱くなった
  ②上記の反面として、軍備(防衛力)増強についての抵抗感が薄れ、むしろ防衛力増強は「新しい、未来のための施策」のようにとらえる傾向が強まった
  ③日本国憲法は、大日本帝国憲法を否定して作られた「新しい憲法」というより、制定後何十年も経過した「古い憲法」というイメージでとらえる傾向が強まった
 ④
経済面では、市場競争・規制緩和を推進するべきという意識が強まった

…などが挙げられるのではないでしょうか。この傾向は、90年代以降、特に2000年以降の小泉政権成立以降に顕著になったと考えられます。

これをまた図に示してみると、次の図2のようにまとめられるのではないでしょうか。さきほどの図1と比べてみて下さい。(これはあくまで若い世代の観点から見てこう映っているだろう、という切り口で作成した図です。)

 最近の若い世代の人が、「自民や維新=革新、野党=保守」と考えるのは、例えば「古い」憲法9条を改正して防衛力や安保体制を増強し、また「古い」様々な規制や制度(その中には労働者保護や社会福祉のためのものも含まれるのですが)を変革して、規制緩和や市場競争を徹底しようとする(と主張する)点で「新しい」と感じられるからでしょう。

 つまり若い世代から見て、自民党や維新は図2の「B」にあたりますが、これが「革新」と考えられているというわけです。

昭和戦前の「革新」は、また違う意味だった!

  以上見たとおり、「保守」「革新」の前提となる「古さ」「新しさ」の要素が、最近の若い世代にとっては従来とまったく違う切り口で捉えられているようなのですが、最後に一点、歴史の皮肉というべき事実を付け加えておきましょう。

  実は昭和戦前の大日本帝国の時代は、「革新」という用語は、戦後のこれまでの用法ではなく、また違う意味で使われていたのです。

  具体的にいうと、1930年代に中国との戦争の展開に伴い、政府が強力な計画的な経済統制を行い、戦時体制を支えるべきだという主張が一定の官僚たちの中で有力となっており、これらの人々は「革新官僚」と呼ばれていたのでした。

 国家体制を政府が改革して強化するという意味では(但し市場競争の強化ではなく、政府統制の強化という方向ですが)、最近の若い世代が自民党を「革新」と呼ぶのに通じるものがあるとも言えるでしょう。

 ちなみにこの革新官僚の中で有力だった人物の1人が、安倍首相の祖父の岸信介元首相でした。


 


 

 

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弁護士。著書『13歳からの天皇制』http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/sa/1076.html 記事についてのご意見等はhorishinb@gmail.com かhttps://twitter.com/ShinHori1 まで