部活動の記憶。
僕は野球少年でした(1969年生まれ、今は51歳です)。小学3年から中学3年夏まで。
小学校の思い出は、頭にも、心にも、たくさん残ってる。試合に出られたのは6年生からだったけど、本当にたくさんの記憶がある。
ちゃんとした練習が終わった後。外野の奥に石灰の白いラインを引いて、そこを越えたらホームランという遊びが、たまにあった。ラインを越えたら、アイスクリームがもらえた。すっごく楽しみだったし、遠くにボールを飛ばす面白さを、知らず知らずに体験できた。
いま振り返ると、たぶん、叩かれた記憶は一切ない。どんだけ思い返しても、思い浮かばない。
唯一、めちゃくちゃ苦しくて悔しかった記憶があるのは、めちゃくちゃバッティングが不振だった時期があって…監督さんから、「今日はずっと走ってろ」と言われて、ひらすらグラウンドの外周を走った。後にも先にも、たぶん、これが最後の「厳しい指導」の記憶です。
小学6年の僕は、148cm 68kg。どうみても、どっから見ても、肥満児。1時間か、2時間か…。もしかしたら、30分くらいだったのかもしれない。ともかく、ノックとかバッティングに取り組む仲間をよそに、僕は走らされた。人生で初めて「なんで自分だけ?」という悔しさを感じた。
ヘトヘトになった頃、監督さんから呼び止められた。
「打席に入れ!」
やっと、走らずに済む?
えっ? この状況で打つの?
(そんなことを考えたような記憶はあるけど…)
バットを持って打席に立ったら、監督さんがマウンドにいた。
「一球勝負やぞ」
(あー。打てんかったら、レギュラーから外されるんかもな)
ほんのわずかだけど、そんなことを感じたような記憶はあるんだ。つか、たぶん、これは後付けの記憶だろう。それくらい、ヘトヘトの状態で打席に立った。
打ったボールがどこに飛んだかとか、全く覚えてない。バットに当たったことすら覚えてない。
ただ、打った後に、「そう、それだ。そのバッティングだよ。今の感触を忘れるなよ。さ、この感触を忘れないうちに打とう!」
ここから先は、ほんと、全く記憶はないんだけど、めちゃくちゃ気持ちよくバッティング練習をさせてもらえた感覚だけが残ってる。
※※※※※
小学校最後の公式戦。
7回裏一死三塁。
打席に向かう僕は、たぶんスクイズのサインが出ると思ってた。後で聞いたら、保護者もみんなスクイズだと思ってたらしい。
監督さんのサインは「打て」だった。めちゃくちゃ嬉しかった。めちゃくちゃ、緊張が消えて、集中した記憶がある。普通にバットを振った。右中間に飛んでいった球跡はいまでも覚えてる。それが、犠牲フライだったのか、ヒットだったのか、まったく記憶がない。けど、旗は取った。優勝した。そこから先の記憶は、ほんとに、全くない。
その日だったのかな。しばらくしてからだったのかな。卒団式があった。監督さんからメダルなのかな、賞状だったのかな…なんか、1人ずつに言葉とともに、なんか貰った。
「信じてました。君なら打てると」
この言葉だけは、まがうことなく覚えてる。
そして、号泣した。それも覚えてる。
※※※※※
中学でも軟式野球を続けた。
練習の記憶も、試合の記憶も、ない。
嘘っ!ってほどない。
ただ、草むらに隠れたボールを探し、先輩にケツバットをくらい、顧問に叩かれて、一日練習なのに水を飲めず、昼間に沸騰したような米粒が入った弁当を食べた記憶しかない。
あんなに小学校では勝てたのに、楽しかったのに、中学では勝った記憶も、野球が楽しかった記憶もない。
そんなに野球がうまかったわけでもない。
あ、一回だけ褒められた。
僕は捕手だった。練習試合でキャッチャーフライが上がって、ボールに頭から飛び込んだ。捕った。柔道の前回り受け身みたいに体を丸めた。腰から、バックネットの下にあるコンクリートの基礎に激突した。アウトを取った。
試合が終わった後、相手監督が近付いてきた。
「ナイスプレー! その気持ちだよ!」
ただ一人だけ、褒めてくれた。
※※※※※
先輩たちが引退して、僕は、一つだけ。ケツバットはしないと決めた。
単純に、誰かを叩くことが怖かった。
同時に、いみしい先輩にだけはならないと誓った。
とはいえ、もしかしたら、何かの拍子に、後輩を傷つける行為をしていたのかもしれない。
人は、自分に都合のいいことを、強烈に記憶に書き込んでしまう。そして、その記憶は、年齢を重ねるごとに増幅してしまう。「成功体験」なんて、本人の記憶で、どうにでも書き換えられてしまうもんだ。
僕は、小学校最後の打席で、本当は三振だったのかもしれない。中学校でも勝った試合があったのかもしれない。ケツバットを後輩にやりまくってたのかもしれない。
記憶なんて、そんなもんだ。
でも、人は昔の記憶の上で生きていく生き物だ。
そして、記憶の上でしか挑戦できない。
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