見出し画像

おばあちゃんの味

 私はおばあちゃんの炊くひじきが大好きな小学生だった。甘くて濃くてご飯と最高に合うひじきを6年間で100キロは食べた気がする。中学生になる頃にはすっかり「ひじき=美味しい」が出来上がっていたから、スーパーの惣菜コーナーで見かけたひじきにも当然手が伸びた。

 そして、家に帰って皿に出して食べてみて「あれ?」と首を傾げた。

 あんまり美味しくない……⁇ というか、知ってる味と違う!

 あのときのひじきの味は、世の中のひじきは全てあの味だと思っていた私にとってはあまりに衝撃的な出来事で、今でもはっきり思い出せる。他にも同じ中学生の頃、友達と弁当のおかずに入れてもらっていた卵焼きを交換して互いに

「味が全然違うね……」

と言い合ったこともあった。なんとなく友達の家の卵焼きはだしの味がした。友達曰く私の家の卵焼きは甘かったらしい。同じ卵焼きを食べていても味は全然違う。私は甘い卵焼き、友達はだしの効いた卵焼きを食べて大人になっていく。私と友達は仲が良いけれど、全く別の人間なんだなという実感が急に湧いた。

 おばあちゃんは最近YouTubeで料理動画をよくみているようで、食卓にはまれに知らない料理があがるし、知っている料理の味は少しずつ変わっている。おばあちゃんは鹿児島県出身で濃い味付けをよくしていたから、私は少し物足りなく感じている。有名なYouTuberのレシピの分量通りらしいが、フォロワー0人のおばあちゃんの味の方が私は美味しいと思う。

 惣菜の味も料理系YouTuberの味も、私にとってはしっくりこない味だった。私の中ではおばあちゃんの味が一番で、それはきっと今後も変わらない。ただ、おばあちゃんの料理を食べられる期間はきっともう長くない。いつか私は当たり前のようにおばあちゃんの味じゃない味を食べて生きていくようになる。仕方ないことだけど、時々とても寂しくなる。思い出の味、おふくろの味に涙する大人を昔のテレビ番組で見たことがあった。
 たかが味、されど味。この人が生きていなければ食べられない味。

この味を一生覚えていようと強く思いながら私は今日も晩御飯を食べる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?