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昭和20年代の男たち

「昭和20年代のあの男たちは、ほんっまに人の話を聞かへんなあ!」
 と、ギリギリ昭和30年代生まれの祖母が愚痴る。私からすると昭和20年も30年も大差ないように思えるけど、どうやらそんなことはないらしい。
 祖母の愚痴が増えているのは、どうやら最近祖父が足の冷えで悩んでいたところに銭湯仲間から
「A先生に手術をしてもらってから同じ症状が治った!」
という情報を聞いてからすっかり自分も手術する気になってしまい、A先生は外来に出ていないにも関わらず「紹介状を書け」の一点張り状態だからである。
「外来に出てない先生にどうやって紹介状を書けって言うねん」
 そう言われ、最初は祖母の話に納得したような祖父だったが、後日例のお友達にその旨を伝えたところ
「俺が伝えといたるから大丈夫!俺の名前出せばええねん!」
との、返事をもらったらしい。
 その友達、何者〜?
 私の祖父は別に医療関係者でもないし、お友達にそういう現場に顔が効くような立場の人がいるかと言われるとそうではない。ごく普通のおじいちゃんたちである。ただ、誰1人として人の話を聞かないが。あまりにも自信満々なお友達の振る舞いに、一瞬「おじいちゃん、ヤクザと繋がってる説」が家族ネットワークを駆け回ったが、銭湯仲間だから大丈夫なはずだという一言で一旦取り下げられた。
 彼らは(特になんの権限も繋がりもないけれど)自分が頼めばやってもらえると思っているのである。平成に生を受けた私からすると飲食店で店員さんにタメ口で注文することすら躊躇われるのに、そのお友達は痺れを切らしたのか先日病院に突撃し、あろうことか「先生に会わせろ」と受付で言い放ったらしい。先生は手術中(本当かどうかは定かではない)で会えなかったが、師長に頼ん、だから、とにかく大丈夫だ、との、こと……??
 私も祖母も、ポカンである。師長が出てくるって、厄介客扱いそのものでは……?
 それをなんだか、そのお友達は誇らしいことと思っており、祖父も「友達を思ってそこまでしてくれるなんて、なんていいやつ!」と思っているのである。私からするとすっごい世界観である。昔の男子、本当に甘やかされて育っている。
 だいたい執刀医と普段診察してくれる先生は違うかもしれないのに……。とか、なんか色々思いながら、結局書かねば気が済まんのやろなとついに祖母が折れた。
 果たして祖父はA先生に診てもらえるのだろうか。というかそもそも祖父は手術を受けるのだろうか。というかそもそもそもそも祖父はお友達と同じ病気なのだろうか。
 祖父の想像力の豊かさと頑固さに昭和の風を感じながら、果たして友達の嘆願やいかにと今後の展開が気になって仕方ない孫なのである。

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