スペシャルティブレンド宣言
突然ですが、スペシャルティコーヒーを駆使して風味を創造していくブレンドを「スペシャルティブレンド」と呼ぶことをここに宣言します。
それは、優れた品質の素材(生豆)を手にすることだけに満足せず、様々な焙煎を通してスペシャルティコーヒーの素晴らしさを伝えてきた堀口珈琲が、その先の新たなコーヒーを目指し続けるという宣言でもあります。
スペシャルティブレンドは、限られた素材しか手に入らなかったスペシャルティ以前の焙煎・ブレンドを駆使したコーヒーと、素材の品質に力点を置いたスペシャルティコーヒーとを融合する取り組みと言えます。堀口珈琲がスペシャルティコーヒーの発展と歩を合わせながら、常に試みてきた取り組みです。
先人が築き上げてきた技術・文化の土台にスペシャルティコーヒーという新たな要素が加わることで、日本初の珈琲文化に昇華させていく取り組み、といったら大袈裟でしょうか。
スペシャルティブレンドならでは
コーヒーにおいてブレンドする理由は様々ですが、スペシャルティブレンドでは“ブレンドならではの風味の創造”、この一点に尽きます。
では、ブレンドならではの風味とはどんな風味でしょう。単純な問いですが、この問いについて深く考えたことのあるロースター・ブレンダー、明確に回答できるロースター・ブレンダーは少ないのではないでしょうか。
私はシンプルに“複雑さ”と答えます。香り・酸味・テクスチャーなどスペシャルティコーヒーの風味を構成する要素(詳しくはコーヒーコラムNo.4参照)のいずれか、もしくは全てにおいて、シングルオリジンではなし得ない“複雑さ”が感じられること。これこそ私がブレンドに求める“ならではの風味”です。
スペシャルティブレンドを作る
スペシャルティブレンド作りの手順を見ていきましょう。要約すると次の4ステップで、スペシャルティを積み重ね作っていきます。
各ステップにあるどの要素が不足してもスペシャルティブレンドには辿りつけません。
せっかくなので全てのステップを細かく解説したいところですが、今回はシングルオリジンに仕立てるStep 2とブレンドに仕上げるStep 3に集中して深掘りしていきます。
Step 2 :シングルオリジン作り
シングルオリジンは言葉の響きから“生豆”だけに関心が向きがちです。しかし、コーヒーを楽しむためには、消費地(私達であれば日本)における“焙煎”が欠かせません。
これはとても重要な点です。なぜなら、焙煎は生豆に劇的な変化をもたらす加工であり、たとえスペシャルティな生豆であっても焙煎次第でそのポテンシャルが引き出されないまま台無しにされてしまう可能性があるからです。
様々な生豆を経験してきたスペシャルティロースターが適切に取り扱うことで、スペシャルティな生豆は産地の個性を発揮し、“シングルオリジン”として楽しむにふさわしいコーヒーに仕上がるのです。
余談ですが、このことが消費者の方々に浸透し「堀口珈琲のシングルオリジン」「〇〇コーヒーのシングルオリジン」といった捉え方が一般的になれば、“シングルオリジン=浅煎り”といった誤解も解消され、シングルオリジンはより多様性を広げ、コーヒーは嗜好品としてまた一歩階段を登ることができるでしょう。ワインに例えると、「ネゴシアン・ホリグチのクロ・ド・ラ・ロカ」といった捉え方です。
Step 3 :ブレンディング
シングルオリジンを組み合わせ“ブレンドならではの風味”を創造するのがスペシャルティブレンドです。この創造は想像から派生します。すなわち、ブレンドならではの風味を想像し、実際のブレンドとして創造するのです。
想像の経路は大きく分けて2つあります。
1つは、あるシングルオリジンをテイスティングした時に「これを使ってブレンド作りたい」と想像が膨らんでいく経路です。
もう1つは、これまで経験してきたコーヒーを頭の中で見渡し、“ブレンドならでは”に仕上がる組み合わせを検討していく経路です。
どちらの想像の経路も辿るために必要な道具があります。シングルオリジンの風味地図です。もう少し簡単に言うと、このコーヒーの風味のポジションはこの辺で、このコーヒーはあの辺といった地図です。これを自分の中で構築しておかないと想像のしようがないのです。風味地図が精巧であればイメージの精度は高まっていきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回はスペシャルティブレンドの先駆けとなった堀口珈琲の9つのブレンドが、どのように進化していったのかをお話ししたいと思います。
そしてこのコーヒーコラムも最終回となります。
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このコラムは2021年11月25日配信のニュースレター「HORIGUCHI COFFEE Letter No.6」を再編集したものです。