今さら聞けない!?『医療DX』とは?
そもそもDXとは?
2023年の診療報酬改定でも「医療DX推進体制整備加算」というド直球なネーミングの加算が新設されるなど最近、医療業界でもよく聞く言葉「DX」。
まず、医療DXについてお話をする前に、そもそも「DX」とは何なのか?ということについて改めて確認しておきます。DXとは本来どういう意味なのでしょうか?
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略称で、組織などの文化を根本的に変革することや、人々の体験を改善したり、新たな価値を創出したり、そういうことだとされています。
ですので、これもよく言われていることですが、実はITシステムの導入や、業務のデジタル化だけではDXとは言えません。
単なるデジタル化とDXとの違いについて、私なりに例を挙げて説明します。
昔からあったレコードやビデオテープ、といったアナログのメディアが数十年前からデジタルになってCDやDVD、ブルーレイディスクになり取り扱いは楽になりました。ですが相変わらず媒体をプレイヤーにセットして再生するということは変わっていない。これは「デジタル化」であって「DX」では無いんです。
でも明確にDXであったと言えるのは、AppleミュージックやAmazonプライムビデオ、こういったものが登場したことによって、物理的に閉じたところの媒体の中のコンテンツを利用する形ではなく、場所や容量などの制約から解放されて、どこでもコンテンツを利用できるようになりました。
そして、デジタル技術によってコンテンツ業界のビジネスが変わりました。コンテンツの流通方法や収益モデルが根本的に変わり、何より私たち利用する側の体験もガラッと変わりました。
先ほど述べたように、人々の体験や価値が変わりビジネス・事業の在り方が変わりました。ということでDXとは単なるIT導入やデジタル化とは異なるものだということをまず皆さんと共有しておきたいと思います。
医療DXとは?
ということで、では、医療DXとは何なのか?
医療DXとは?このことにも実は今、二通りの解釈があるように感じています。
一つ目は様々な民間ベンダーや、医療機関が取り組んでいる新しい仕組みや製品のことを指して言う場合、そして二つ目は現在、国が進めている政策としての「医療DX」を指す場合、この二つがあります。
この二つがあることを認識せず、どちらかだけの意味で話をしてしまっていて、どうも話がかみ合わない、すれ違っているというシーンを見ることが結構あるように感じています。
例えば、ある医療機関の経営者の方があるベンダーの営業担当者に「おたくは医療DXへの取り組みはどう考えていますか?」という質問をした場合に医療機関経営者側は「厚労省の言っている来年度のあの件は対応できるのかな?」ということが聞きたいのに、ベンダー担当者側は「DXに関して当社ではこういう製品を出していまして」などと製品紹介を始めるといった状況です。
国の進める医療DX
ここでは後者の方の国の進める医療DX政策についてのお話をしていきます。というのも、様々な制度や規制が複雑に絡み合うこの医療業界において、国家レベルで進めるこちらを実現することで、より本来の意味でのDXを成し遂げることができると考えるからです。
国が進める「医療DX」関連の主な動きとしては、以下のようなものがあります。
2022年5月 自民党:「医療DX令和ビジョン2030」の提言
2022年9月 厚生労働省:「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム
2022年10月 内閣官房:医療DX推進本部
この中で最初から共通して掲げられている、これら3つの施策というものがあります。
全国医療情報プラットフォームの創設
電子カルテ情報の標準化等
診療報酬改定DX
ちなみに、こういったお話をしていますと、「医療DXなんて本当に進むのか?」「今までも国は計画だけ立てるけど現場ではそう簡単にはいかないんだ」というご意見も聞きます。
ですが、今回はコロナ禍を経ての国の本気度や危機感を感じますし、何よりもこれから先この国の社会保障をいかに維持するかという切羽詰まった課題があります。
先述した「医療DX令和ビジョン2030」にはこのように書かれています。
これは「極めて重要な国家事業」であるということ、「電子カルテ普及率の目標値」を「2030年までに100%」にするということ、それは、他の国に比べてのこの国の「周回遅れを認識」する必要があるからだとされています。
私たち一人一人も今、この社会課題に当事者として前向きに取り組まなければいけない時期であると私は考えます。
3つの施策
ということで、改めて先ほどの3つの施策について順番に説明します。
全国医療情報プラットフォーム
全国医療情報プラットフォームの全体像として、このような図が示されています。
この図を見ていくと左側に医療情報基盤、右上部に介護情報基盤、右下部に行政・自治体情報基盤がある形になっています。
右側の医療情報基盤の中には、「オンライン資格確認」や「電子処方箋」に加えて「電子カルテ情報共有サービス」というものがあります。
ということで、以前から提供されている「オンライン資格確認」や「電子処方箋」といったサービスは既に全国医療情報プラットフォームを構成している一部であるということが言えます。
そしてもう一つ、その一部として、ここで出てきている「電子カルテ情報共有サービス」とは何か?というお話ですが、これには3つのサービスがあるとされています。
文書情報を医療機関等が電子上で送受信できるサービス
全国の医療機関等で患者の電子カルテ情報を閲覧できるサービス
本人等が、自身の電子カルテ情報を閲覧・活用できるサービス
1つ目は今までは患者さんに持たせていたりFAXで送信したりしていた診療情報提供書つまり紹介状を医療機関同士で電子的に送受信できるサービス。
2つ目は全国のどの医療機関でもある特定の患者さんの病名やアレルギーの情報や検査結果が確認できるようになるサービス。
そして3つ目はそういった情報を患者本人がスマホなどで見ることができるサービスです。
ここでポイントになるのが先ほど述べたように、この電子カルテ情報共有サービスが動く全国医療情報プラットフォームは、その中にオンライン資格確認の仕組みが含まれているということです。
これが何を意味しているか?ということですが、このサービスで情報が共有されることに関しては当然ながら患者さん本人の同意が必要になります。
実は今までの地域医療連携ネットワークなどで難しかったのはそこの部分で、受診時に説明をして紙の同意書にサインをもらうなどの運用を考える必要がありました。
それがオンライン資格確認の仕組みを利用することで、マイナ保険証をカードリーダーに置いたときに患者本人自らによる同意を確実に取ることができるようになります。
このように国主導でデジタル技術を活用することで、今までできなかったことを実現して行きましょう、新しい価値、新しい体験、こういったものを創り出していきましょう、ということなのですが、でもこれ、よく考えてみるとこれだけインターネットが進化し、普及した今の世の中で、なぜ今まで実現出来ていなかったんでしょう?
なぜ今まで進まなかった?
この「なぜ今まで出来なかったのか?」というところを説明します。
先ほどの同意取得の話も一つの要因ではありますが、他にももっと大きな原因があります。それが先ほどお話しした国の医療DX3つの施策のうちの2つ目「電子カルテ情報の標準化」に関係します。
一人の患者さんが医療機関をまたいでの医療情報の共有を行おうと思っても、現状のこの国の電子カルテは各医療機関ごとにバラバラで互換性がないまま構築され運用されています。
例えばですが、私がAクリニックからB病院を紹介されて受診する、といった場面において、AクリニックとB病院で私の病名が別のコードで管理されているため、データとして共有しようにもできない。
もちろんこれは病名コードに限らず、ほぼありとあらゆるマスタやコードが互換性のない形で管理されていて、紹介状などの文書も医療機関毎にシステム内での記述方法が異なっている、そういうことが起こっています。
この問題を解消するために、国が主導でデータ交換のための標準規格を決めて扱うデータの形式も共通のものを使いましょうということで「電子カルテ情報の標準化」が必要となっています。
そして医療DX施策の3つ目「診療報酬改定DX」について。
この施策の目玉は2年に1回行われる診療報酬改定の際に医療機関とシステムベンダー双方に発生する手間を軽減しましょう。
そのために、ここについてもやはり共通のマスタ・コードを整備して、「共通算定モジュール」というものを国が用意するクラウド環境上に構築して、診療報酬や患者負担額の計算はそこで行い、各医療機関では窓口業務とレセプトの出力だけを行うことにしましょう、といったことが示されています。
医療DXとサイバーセキュリティの関係
ということで「医療DX」について解説してきましたが、実はこのことと合わせて考えなければいけないのが「サイバーセキュリティ」です。
順番に説明していくと、先ほど医療情報の共有がなぜ進まなかったのか?その大きな原因として標準化が進んで来なかったら、と述べましたがもう一つ大きな原因があります。
これまでは医療情報は特にセンシティブな個人情報であるため、外部とは接続しない閉じたネットワークを構成するべき、そのことこそが安全なシステム運用に繋がると考えられてきました。(実はこの考え方は今となっては不十分なのですが)
当然ながらこれでは異なる医療機関の間で情報共有をしようとしても、繋がりようがありません。これがもう一つの大きな原因です。
ただ、「医療DX」が今後進んで行ったらどうなるでしょう?全ての医療機関の情報がネットワークを通じて国のクラウド環境と常時オンラインで繋がるようになります。それぞれの医療機関の中の情報を守るということももちろん重要ですが、ある医療機関の脆弱性が全体の攻撃ポイントになってしまうようなことがあってはいけません。
私たち医療情報システムに関わる人間は、そういう観点でも今後、情報セキュリティ強化に取り組んでいかなければいけないのだと考えます。