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杉並区ボートマッチ騒動の教訓/安易に「口利き」で委託業者を決めるなかれ

「区⾧選、区議選について、区独自で、候補者の公開討論会を開催します」

岸本聡子杉並区長が当選前に示していた公約<さとこビジョン>対話から始まる みんなの杉並構想には、このように記載されていました(未実施)。

後にメディアでも話題となり、最終的には頓挫する「投票マッチング(ボートマッチ)事業」が考案された発端は、ここから始まっています。

杉並区「投票マッチング(ボートマッチ)事業」
❶ボートマッチとは、インターネット上で複数の設問に回答することにより、自分に考え方が近いと思われる候補者を知ることができるサービスです。
❷低迷している投票率の上昇をめざして杉並区選挙管理委員会(政治的中立を確保するため設置されている行政委員会)が「選挙時の啓発事業」として、このサービスを提供することを決定しました。
❸区民意見を反映させながら選挙管理委員会の責任において20個の設問を作成するなど「自治体初の取組」と注目を集めました。
❹しかし、不手際が続いて説得力を欠き、最終的には総務省が発出した通知(技術的助言)を踏まえて杉並区議選での実施は中止されました。

「投票マッチング(ボートマッチ)事業」について、すでに業務委託契約を締結し公金を支出していながら実施を断念したのは、昨年2月でした。

その後、決算も終え、12月には選挙管理委員会も改選となりました(4人のうち3人が交代)ので、ここで経緯を振り返っておきましょう。

区議選での実施中止を発表した杉並区公式ページ


公開討論会実施の代替として考案された「投票マッチング(ボートマッチ)事業」


令和4年/2022年7月11日の区長就任後、公開討論会の検討は、選挙管理委員会で進められていました。

実施に向けて具体的に区長サイドで検討を行ったとする状況を確認することはできませんでした。区長が自ら開催を検討したのでは中立性を欠く可能性が高いため、これは妥当な判断であったというべきでしょう。

そこで、選挙管理委員会での検討経過を確認してみます。

以下、その記録から順に抜粋します(少し長くなりますので、お時間のない方は、次に出てくるアケボノスギの写真まで読み飛ばしてください)

❶令和4年7月27日選挙管理委員会

江川事務局長 若年層啓発の一環として公開討論会について、事務局で今後検討を考えております。
本橋委員 それは次の区長選からを見越しているのですか
江川事務局長 可能であればそうですが、区議会議員選挙ですと候補者が60名から80名となるので、どこまで実効性や効果が見込めるのかを含めて検討を始めてみようかと考えています。
本橋委員 もし、実施するとなれば、単発ではなく、その次に実施される区の選挙である区長選挙や区議会議員選挙でも実施することが前提ですか
江川事務局長 そのような内容で検討していきます。
小井委員長 実際に実施するとなると、より多くの候補者が参加されないと実施する意味が薄くなるのですが、現職や元職の区議会議員の方など、選挙に立候補された経験がある方のご意見も参考に聞くことが必要ですね
本橋委員 参加する・しないは、候補者が任意で選択できるのですよね
江川事務局長 公平公正な立場で政策や主義主張を訴える場の提供を模索している中の一つが公開討論会です。当然ですが、参加する・しないも含めて各候補者の判断となります。
本橋委員 わかりました。他の自治体の取り組みなども調べていただき、検討内容の報告をお願いします。
小井委員長 その他ご質問やご意見はありませんか。では、公開討論会については引き続き検討課題とします。では、今後の日程の確認をお願いします。

令和4年7月27日杉並区選挙管理委員会


公開討論会については、区長就任直後、その公約を踏まえて「検討課題」と位置づけている事実を確認することができます。

しかし、その後、調査を踏まえた議論においては、行政機関(選挙管理委員会)主催での開催に慎重な意見が相次ぐことになります。

❷令和4年8月24日選挙管理委員会

江川事務局長 (第27回に引き続き、公開討論会について検討結果報告)
小井委員長 公職選挙法に抵触しない方法をみつけ、かつ、費用対効果が見合う形式での実施を目指さなければならない。
與川委員 公開検討会について検討していくことはいいことであるが、来年4月の区議会議員選挙で実施するには期間が短く、調査・研究を行う時間が足りないのではないか。選挙管理委員会が実施する以上、失敗してもいいから、取りあえずやってみようという内容での実施はすべきでない。
委員一同 若年層への啓発は重要だが、急ごしらえで検討すべきではないか、来年の区議会議員選挙で必ず実施しなければならない理由があるのか
江川事務局長 実施するならば、いつからと目標を定めた方がタイムスケジュールなども見えてくるので
小井委員長 実行委員会形式をとるにしても、委員会主導ではなく候補者の声を聴きたいと有権者の意思に基づき発足されるのが理想形だと思います。
小井委員長 その他ご質問やご意見はありませんか。では、公開討論会については引き続き検討課題とします。

令和4年8月24日杉並区選挙管理委員会


公開討論会について、公職選挙法に抵触しない方法をみつける必要があること、さらには準備期間が短いことなどが指摘されています。

仮に公開討論会を実施するとしても、選挙管理委員会が主催となるのではなく、民間ベースで立ち上がる実行委員会が主催者となり、これを支援する方向性に転じている状況が読み取れます。

❸令和4年9月1日選挙管理委員会

小井委員長 本日の議案等は以上ですが、その他で事務局からありますか。
無いようでしたら、1件私からご報告があります。8月29日月曜に、委員長と岸本区長との意見交換を行いました。区長は、区長選に約6割が投票に行っておらず、その方々の声も聞いてみたいという内容の発言をしており、投票率向上に関心を持たれています。
 区長は、学生など若者が中心となって公開討論会を開催するような選挙のイメージをお持ちであった。お互い立場は違うが投票率を上げるために、やれることから取り組んで行きましょう。という内容でした。

令和4年9月1日杉並区選挙管理委員会

岸本区長 低投票率の原因は、若い世代の投票率が低いことにあり、彼らが地域の政治を考えるきっかけとして、地域の中で政策について討論する公開討論会の開催を支援するほか、情報公開、住民参画と協働を推進し、区民との対話と理解を深めていくことにより、投票率の向上へつなげていきたいと考えております。

令和4年9月14日杉並区議会本会議

❹令和4年9月14日選挙管理委員会

江川事務局長 (別紙のとおり、第3回区議会定例会の一般質問について説明)
その他、区長に対しても投票率に関する意見が求める質問があり、区長は、区政への関心を高め投票率向上に努めていくと答弁をされていました。
(中略)
江川事務局長
 3点目は、公開討論会についてですが、先日、区長と別件でお会いした際に、公開討論会の話が出まして、公開討論会に思うところがあるようでした。前回は委員長とのお話しでしたが、もしかしたら次は委員4名と一緒にお話しする機会が今後あるかもしれません。
與川委員 区長は具体的なイメージをお持ちなのですかね
江川事務局長 その時に区長と話した内容は、区や選挙管理委員会が主体的に実施するのではなく、街の若者が中心になって実行委員会を組織して実施していく様なイメージで、それに対して何か支援できることがあるのではないかというような感じでした。
小井委員長 我々の考えと基本的な部分は一緒ですね、そのために我々も若年層啓発に力を入れて、土壌を作る取り組みを行っているのですから
江川事務局長 種をまき芽が出て花が咲く頃に実施する。そのために若者向けに新たな啓発手法に取り組んでいく。今回の区長選挙でも、農芸高校の生徒に協力してもらい投票の仕方を撮影して、YouTube で放送していますので、今後も多様な仕組みに取り組んでいきます。
與川委員 冊子を配ったり、模擬投票や生徒会選挙に協力したりと地道にやっていますから。
本橋委員 若者は紙媒体より、ネットや SNS で情報を取得すると聞きますからね
そして、自分たちで撮影して情報を発信するのも得意ですからね。
江川事務局長 様々な仕掛けをしながら芽が出るのを待つことも大切です。
本橋委員 そうはいっても、待ってばかりで芽が出ませんでした。という訳にもいかないので、一定程度は何らかの成果も出していかないとなりませんね。
小井委員長 ネットを活用した何かをやってみることも考えてみてはどうか。
與川委員 ただ、ネット一辺倒はどうかと思います。まだ馴染みのない高齢者もたくさんいるので、高齢者向けの啓発を止めることには抵抗があります。
江川事務局長 従来の啓発を止めて、ネットに切り替えるのではなく、従来の啓発プラスαの試みの話ですので。
小井委員長 何か新しいことに取り組んでいかないといけませんね。
本橋委員 区長と話すのも大切ですが、我々選挙管理委員会の中で、区議選に向けて話し合っていきましょう。

令和4年9月14日杉並区選挙管理委員会


公開討論会については、執行機関(行政機関)相互の総合調整権・予算編成権を持つ区長の意見を受け、選挙管理委員の間でも民間での実施を支援していくイメージが改めて再確認されています。

また、選挙管理委員会としては、従来の取組に加えてネットを活用した新たな試みを模索する方向に検討の主眼が移っていることもわかります。

ここで考え出されたのが、投票マッチング(ボートマッチ)事業でした。

❺令和4年11月16日選挙管理委員会

小井委員長 議案第57号 杉並区議会議員選挙選挙時啓発事業について事務局から説明をお願いします。
江川事務局長 (別紙のとおり、杉並区議会議員選挙選挙時啓発事業について説明)
本橋委員 執行計画の中の一つである啓発事業だけを先に抜き出して、先に行う理由と正式には来年度の予算が付いたらが前提で、新しい試みは主に若年層向け啓発として取り組む配布するカードと投票マッチング、それに街頭宣伝カーを走らせる期間を3日から2週間に延ばすというものですか。
江川事務局長 啓発事業は、先に決定していただき、それを執行計画へ記載しております。近年作成しておりましたウエットティッシュから、カードと花の種に変更しております。以前、與川委員より「区内の全ての高校に配布できる物を」とご意見をいただいており、何かよい物があればと検討しておりました。今回、投票マッチングを実施するにあたり、そのサイトへのアクセスが簡単にできるよう、カードに二次元コードを印刷し、区内の全ての高校三年生を対象に配布します。
本橋委員 7月から懸案事項となっている、若年層を対象とした啓発事業を投票マッチングにするということでよろしいでしょうか。そして実行委員会を組織すると説明がありましたが本当に必要なのでしょうか。
江川事務局長 選挙管理委員会の下に実行委員会を組織し、区民参加のもと基本構想・実行計画を基準に各候補者の考え方がわかる質問を作成してもらおうと考えています。実行委員会には若い人の参加を想定しています。
小井委員長 若い方の意見を吸い上げる取り組みはいいことだと思います。
本橋委員 新しい取り組みなので、2月実施予定の立候補者説明会などで、立候補予定者へ新事業(投票マッチング)の説明が必要だと思いますが、それまでに問題は間に合う見込みなのでしょうか。
江川事務局長 間に合わせる予定です。たとえ質問を示せなくても、投票マッチングの実施と問題が完成した際の回答を依頼します。
與川委員 立候補者への周知は分かりましたが、選挙人への周知はどのようにしていくお考えですか。
江川事務局長 区公式ホームページの区議会議員選挙特設ページや区の公式SNSの活用を始め、選挙公報、ポスター掲示板に二次元コードを印刷します。また、先ほど新規の取り組みで、区内にある高校の3年生宛に配布するカードにも二次元コードを印刷することで、スマートホンやタブレットからのアクセスを容易にすることで、まずはゲーム感覚で試してもらうのが狙いです。
與川委員 質問は、偏りが出ないように作らないといけませんね。
江川事務局長 基本構想等を基に広い視野でバランス良く作ってもらうようにします。
本橋委員 若年層啓発といっても、若い方が関心のある質問に偏らないようにしてください。
江川事務局長 選挙管理委員会も事務局として加わりますので、質問を通じて区の取り組みを知ってもらえるような質問も盛り込むようにします。
小井委員長 回答者の情報に対するセキュリティはどうなっていますか
江川事務局長 氏名や性別・連絡先などの情報は収集しません。
小井委員長 その他、ご質問やご意見はよろしいですか。
 今回の議題は令和5年執行の区議会議員選挙の選挙時啓発についてですが、詳細については今後も検討が必要な事業もありますが、方向性としては、私は賛成なのですが皆様はいかがでしょうか。
本橋委員 今後も実行委員会のことや、投票マッチングに使用する質問項目については、別途報告などがいただけるのですよね。
江川事務局長 はい。適宜報告します。
本橋委員 そうでしたら、私も方向性としてはよろしいかと思います。
一同 了承。
小井委員長 それでは、杉並区議会議員選挙の選挙時啓発事業については、決定とします。

令和4年11月16日杉並区選挙管理委員会


投票マッチング(ボートマッチ)事業については、選挙管理委員の受け止めに個人差があるようにも感じられますが、最終的には「啓発事業」の一環として実施することが決定されています。

❻令和4年12月1日選挙管理委員会

小井委員長 続いて報告事項41-2 区議会議員選挙投票マッチングについて事務局から説明をお願いします。
江川事務局長 (別紙のとおり、区議会議員選挙投票マッチングについて説明)
與川委員 若年層に向けた試行的な取り組みとはいえ、選管が実施するのは、全国的にも類がないらしいので、とてもいい取り組みだと思います。せっかくなので高齢者の利用もあるといいですね
江川事務局長 この事業は、主に若者に向けた啓発ではありますが、年齢などの利用制限などはなく、公営ポスター掲示板や選挙公報などを活用して周知してまいりますので、どなたにも参加していただけます。従来の選挙時啓発も引き続き行い、幅広い世代に対して投票を呼びかけてまいります。
小井委員長 実行委員会は、何名くらいを想定されていますか。
江川事務局長 10名以内と考えております。
小井委員長 そこで作成された質問が全て採用となるのでしょうか。
江川事務局長 いいえ、若い方々が中心に質問を考えていただき、最終的には選挙管理委員会へ諮り、決定してまいります。
本橋委員 実行委員会という名称は決定なのでしょうか。せっかく集まっていただき、意見を聞かせてもらうのだから、様々な啓発についての意見も聞けるように、例えば、杉並区投票率アップ企画委員会などいかがでしょうか
江川事務局長 実行委員会という名称は決定ではありません。委員会で決定していただければその名称を使用します。
小井委員長 現在、杉並区投票率アップ企画委員会という名がでましたが、皆様いかがでしょうか
一同 (異議なし)
小井委員長 その他、ご質問やご意見はありませんか。無いようでしたら本件は報告了承とします。

令和4年12月1日杉並区選挙管理委員会


このように、杉並区議選における公開討論会の実施は、当選前の<さとこビジョン>に掲げられていた公約の一つではありましたが、早々に断念されていたことがわかります。

毎回70人前後もの候補者が登場する杉並区議選の執行において、選挙管理委員会(行政機関)が主催する形で公開討論会を実施するとなると、中立性・公平性・公正性を確保する観点から課題が多く、その実現が困難であることが理由でした。

一方で、区長が選挙前に示していた<さとこビジョン>の存在などを考えると、選挙管理委員会として新たな取組を進める必要性があることについては強く意識されており、それが投票マッチング(ボートマッチ)事業の実施決定に結び付いていったこともわかります。

公開討論会の実施を断念したまま放置するのではなく、積極的に代替措置を講じるところまでは決して悪くなかったと思います。問題は、この後でした。

区が管理している都内有数規模のアケボノスギ/阿佐ヶ谷駅南口

ボートマッチの実施にあたり、なぜかプロポーザル選考なく特定業者と特命随意契約を締結していた杉並区


以上のような経緯から、選挙管理委員会は、特に若年層への啓発事業として「投票マッチング(ボートマッチ)事業」を企画することになりました。

その内容も画期的であったことから報道され、耳目を集めることになったわけですが、問題は委託業者の選定でした。

事業の実施にあたって、なぜか特定業者と不自然な形で随意契約を締結し、取組を進めていたのです。

自治体として実施した前例のない初の取組であることを踏まえると、プロポーザル方式による選考を実施するなど公正で透明性の高い選考手続を通じて適切な委託先・適切な実施方法を模索していくべき必要があったにもかかわらず、なぜかよくわからない経緯で選ばれた特定業者が最初からリードする形で事業が進められていたのです。

自治体には「投票マッチング(ボートマッチ)事業」を実施した経験がなく、そのノウハウも持ち合わせていません。

システム構築からWebサイトの運営まで民間の力を借りる必要がありますが、ここで公正かつ透明性の高い選考が全く行われていなかったのです。

安易に「口利き」で委託業者を決めるなかれ


この点については、JC(東京青年会議所)関係者と意見交換を行った際に、業者の紹介を受けた事実がわかっています。

この事業者は、政治家などへのアプローチも激しく盛んに営業活動を行っていることで有名で、関係者の間ではよく話題になる業者でした。確かにボートマッチに取り組んだ経験もあります。

しかし、ボートマッチは、この業者が先駆者だったわけでも長年の実績があったわけでもありません。

もともとは報道機関や学術機関において研究や取組が積み重ねられ、ノウハウが蓄積されてきたものなのです。

日本では、佐藤哲也氏(当時東工大助手/静岡大学元准教授)が2001年の参院選を通じた取組がその先駆けと言われ、その後、インターネットを通して日本版ボートマッチの取組が進むようになっていきました。

選挙に関心の強い方であれば、過去に読売新聞、朝日新聞、毎日新聞などが学術機関と協働するなどしてインターネット上で実施していたボートマッチを一度は目にしたことがあることでしょう。

日本版ボートマッチは、これらが草分けとなって実績を積み重ねられてきたものです。

ところが、このように長く実績を積み重ねてきたところが選考対象や検討対象に含まれることは一切なく、なぜか紹介を受けた特定業者のみと交渉し、委託契約が締結されていたのです。

その後、この業者に所属する者がボートマッチの設計における中立性には限界がある旨公言していた事実が明らかとなったほか、事後検証が必ずしも容易とは言えないアルゴリズムをマッチング率の算出にあたって用いる検討が行われていたことなども明らかになりました。

語るに落ちるとはこのことで、これらが大きな混乱を招く原因となっていきました。

総務省が通知を発出して技術的助言を行ってきたのも「むべなるかな」という状況に陥ってしまったのです(もっとも、技術的助言に法的拘束力はありません)。

安易に「口利き」を端緒に話を進めず、公募型プロポーザル方式による公正な選考を通して慎重に実施主体や実施方法を煮詰めていれば、また異なる結果になっていたのではないか、そう思わずにはいられない展開でした。

契約を締結し公金を支出しながら、あまりにも脇の甘い形で取組を進めてしまったために、最終的に実施に至らない不幸な結果を生んでしまいました。

新区政でも「不可解な業者指定」が続いている


この業者がなぜ選ばれたのか、長い実績のある報道機関や学術機関などが選考対象にさえ入っていなったことを考えると、JC(青年会議所)から紹介を受けたこと以外に決定打があったとは思えないところです。

(1)過去に自治体において全く実施した前例のない事業であるだけでなく、(2)民間で過去に実施した実績のある事業者が複数存在し、(3)しかも実施にあたって安易に随意契約とすることのできない価格水準の契約が必要であったことを考えれば(契約事務規則)、公募型プロポーザルなどを通して公正かつ透明性の高い選考を進めていくことが不可欠でした。

実施手法や実施主体さえ間違えなければ、ボートマッチは決して違法ではないと考えられるところ、安易な取り組み方をしてしまった結果、画期的な取組はすっかり台無しとなってしまったのです。

なお、中止を決定した令和5年2月15日時点で委員長職にあった與川委員(令和4年12月21日委員長就任)は、責任を取る形で、同年3月1日に選挙管理委員を辞職されています。

與川氏は元区職員。若くして管理職となり、山田宏区長時代の4年間に教育長を務めていた方でした(その退職から12年後、再び公職に復帰され、選挙管理委員に就任されていました)。長い間お疲れ様でした。

中止決定後に掲載された区長コメント/杉並区公式ページ

ところで、岸本聡子区長は、区長当選の直前2か月前まで外国在住であり(約20年間)、それ以前も杉並区民であったことが一度もありません。

このため、当時の選挙管理委員会においても現区長と関係の深い選挙管理委員はおらず、その中立性は従来に比べても高い状態にありました

当時の選挙管理委員4人のうち議員出身も1名のみで、それも自民党の元区議(岸本区長と対立感が目立つ党派)です。区長のシンパに有利になるようにボートマッチを導入するというような不純な動機が選挙管理委員会にあったとは考えにくいところです。

しかしながら、今回の失敗は、今後に極めて大きな影響を与えるはずです。

法定の選挙管理委員会と異なり、実施内容や実施者について必ずしも透明性が高いとは言えない民間主催のボートマッチへの参加率は今回低迷し、ここにも大きな課題が残りました。

欧州の民主主義先進国でボートマッチを取り入れた取組は少なくないと聞いていますが、今回の顛末によって、日本での実施は従来よりさらに厳格さ(公正性・透明性・中立性・公平性・平等性)が求められるようになったと考えられ、実施のハードルが上がったといえるかもしれません。

委員4人のうち3人が交代 新たな選挙管理委員会


一方で、区長選であれば、候補者70人にも及ぶ区議選とは異なり立候補者数が少ないため(概ね3~5人程度)、充実した公開討論会の開催その他新たな取組が成立する可能性があるといえます。

次の区長選挙は、令和8年(2026年)夏。2年半の準備検討期間もあります。

もちろん、それも今回関係者の「口利き」によって安易に特命随意契約を締結した反省を踏まえたうえで慎重に対応していくことが不可欠です。

今後は、区長部局のみならず、選挙管理委員会をはじめとする独立行政委員会においても、健全な内部統制を機能させていかなければなりません。

杉並区選挙管理委員会は、ちょうど昨年12月27日、委員4人のうち3人が入れ替わる新体制となりました(区長に人事権はなく議会の選挙で選出)。

人事が刷新されたところで、課題解決に向け検討が加速することを期待しています。

ご意見は堀部やすしLINE公式アカウントへ


今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

震災を受けて元旦から慌ただしい日々となりましたが、無事に2月を迎えられそうです。2024年もよろしくお願いいたします。

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