なぜ、起こる?議長の短期交代
杉並区議会議長(任期4年)が、任期2年目に入っています。
議長の任期は、本来4年(議員の任期と同じ)ですので、当然と言えば、当然です。
しかし、実際には大半の議長が1年で次々に辞任し交代する「たらい回し」を続けてきました。法定の任期4年を全うした議長は、戦後(現行憲法の規定に基づく地方自治法の施行後)まだ一人もいないのです。
多くの場合、辞職するのは議長職のみで、議員としてはそのまま在職し続けます。法の定める大原則は運用によって死文化し、これまで例外ばかりが幅を利かせてきました。
このことは過去の区政リポートでその背景を解説したことがありますが、この区政リポートはネット未掲載のままでしたので、今回まずは当時の記事を紹介しましょう。
なぜ、起こる?議長の短期交代
地方自治体の議会は議長を一人選ぶ必要があります。
就任した議長は、自らの議員の任期(4年)の間、議長であることが法定されています(地方自治法103条2項)。
ところが、杉並区議会では初夏になると議長が辞任する「不思議な慣習」が長く続きました。
歴代の議長は、なぜか毎年同じ時期に「一身上の都合」と称して1年前後で辞任していったのです。
その結果、杉並区議会には、法の規定どおり「任期4年」を全うした議長が戦後一人も存在しない異常な状態になっています。
ヒラ議員と異なり重要な法定権限を有する議長
議長は議会を代表する立場から一定の決裁権限を有しているほか、事務局職員の任免権者(人事権者) であるなど、他の議員とは異なる重要な権限を有しています。
職員に対する人事評価などは、一定の継続した管理運用が不可欠です。毎年のように辞任・交代する「腰かけ議長」では人事上、職員を的確に管理し指揮監督することなどできません。
本来、区長と杉並区議会議長の関係は対等です。しかし、このような「腰かけ議長」では区長と対等に渡り合うことができず、その職責はすっかり形骸化してしまいました。お飾りも同然です。
「たらい回し」が発生する理由
このような議長の「たらい回し」は、なぜ発生するようになったのでしょうか。
議長は、その職責の重さから、ヒラ議員の約5割増の報酬を受けることになっています。交際費も議長にのみ認められている特権です。
議会を代表して表舞台に登場する機会も多いため、議長経験者は選挙にも有利とされていました。
議長の経験者は、春秋の叙勲における「旭日小綬章」の有資格者にもなります。
近年の「旭日小綬章」受章者といえば、北野武(ビートたけし) さん、西田敏行さん、市村正親さん、舘ひろしさん、寺尾聰さん、泉ピン子さん。作家の宮本輝さん、北方謙三さん。作曲家の三枝成彰さん、すぎやまこういちさん。このような「大物」が名を連ねています。
杉並区議会議長の経験者には、将来このような「大物」と同格の叙勲も待っているわけです。
モンスター首長を生み出す原因の一つにも
かくして頻繁に短期交代を繰り返す「腰かけ議長」が次々に誕生しました。
1年交代・短期交代を繰り返せば、それだけ多くの議員が議長に就任することができるからです。
近年、田中区長の居眠り、暴言、恫喝、パワハラなどが公の問題になっていますが、議長の力不足と無縁の話ではありません。
短期間に次々と交代するような単なる「箔付け議長」「腰かけ議長」では、区長や区民のみなさんから舐められて当然なのです。
堀部やすしの主張
現行憲法下の戦後70年以上(戦前から数えること80年以上)続いた議長「1年交代」が、昨年(注:2020年のこと)ようやく途切れています。現議長(女性)がいわば「ガラスの天井」を破った形でした。
杉並区には「法定された議長任期4年」を全うした議長が戦後まだ一人も存在しないのです。2年連続で議長を続けたケースさえ今回が初です。
議長ポストの「たらい回し」を続けた結果として、議長の職責が形骸化し、杉並区長の専横・パワハラを助長させることにもなりました。コンプライアンス軽視のたらい回し「議長の短期交代」には厳しい目を向ける必要があります。
(以上2021年の区政リポートから)
毎年のように「議長就任パーティー」が開催されていた時代も
かつては「議長就任パーティー」を毎年恒例行事のように開催していた時代もありました。それだけ晴れがましかったのでしょう。
しかし、ご本人や支持者の方々にとっては栄誉なことだったのでしょうが、実際には、単に毎年交代で(その多くは自民党内で)「たらい回し」をしていただけです。
議長から開催案内が届けば、区幹部職員など利害関係者も出席せざるを得ず、会場には職員も大勢来場していました。4年に一度ならともかく、毎年では大変です。
パーティーとなると、公職者は無料で有権者を招待することはできませんので、出席には会費の支払いも必要です。
特に深い感慨もなく、その都度お付き合いさせられる関係者は非常に可哀想でした。
平成初期に1年で辞めなかった議長は自民党会派から追い出された(1年3か月強で議長辞任)
かつて平成初期、議長に就任していたC議員(当時自民党)が、議長就任1年を経過しても職を辞さなかったことがありました。
C議長についても就任時に議長1年交代で内々に話がついていたらしいのですが、必ずしも公言されていたわけではなく、会派レベルにおける内々の話であったようです。
会派レベルの内々のルールが地方自治法の規定に優先されるわけもなく(強制的に議長職を辞めさせる手段もなく)、法定どおり議長を続けていたところ、C議員は自民党会派から追い出されることとなりました。
当時私は議員ではなかったので、必ずしもその様子を詳細に知っているわけではないのですが、当時在職していた元議員の複数から当時かなり生々しいやりとりがあったと聞いています。
当時、議長に就任する順番や時期は概ね事前に想定されていたことから、順繰りに進まないことに多くの議員が激高したそうです。
さすがのC議長(当時)も耐えきれなくなったのか、その秋に議長職を辞任されています。
人事をめぐる怨念は、簡単には解消しないようですね。
令和となった現在でも、この1年を振り返ると、現議長に投票しなかったと思われる議員から議長に恫喝とも思えるヤジが飛ぶことがありました。
誰しも何らかの異議を持つことはありますので、そのこと自体は問題ではないのですが、穏当ではない恫喝となると話は別です。
男性が複数で女性の議長を恫喝しているようにみえるのも、同じ男性として肩身の狭い思いです。
現議長は、そもそも1年交代を前提に議長に就任したわけではありませんので、今回自然に任期2年目に入っていますが、このような現状を見ていると、今後どうなるかわからないのかもしれません。
二元代表制・大統領制で議長1年交代の慣例があるのは世界的にも珍しい
同じ民主主義体制と言っても、地方自治制度は各国さまざまです。
しかし、議員が首長に就任する内閣制が採用されている場合は別として、二元代表制(大統領制)が採用されている民主主義体制の国において、議長1年交代たらい回しを通例とするケースは確認できません。
公選の大統領(知事・市町村長)が一人で数年間にわたって強大な権限を担いながら、これに対する議長が1年交代のたらい回しを繰り返していたのではバランスが悪いためでしょう。
日本と政治風土の近いところでも、台湾は議員の任期と同じ4年(法定どおり)議長を勤め上げるのが通常です。韓国でも概ね法定の2年が守られており、意図的な1年交代でたらい回しするような慣例は確認できません。
台湾の首都・台北市議会の議長には20年連続で議長を担っていた女性議員もいました(1998年12月~2018年12月)。
さすがに議長が20年間も固定されたままでは風通しが悪くなり好ましいとも思えませんが、一方で、杉並区議会のように1年交代のたらい回しばかりでは、執行機関(大勢の部下を抱えている公選の首長や教育委員会)の力が強くなりすぎてしまいます。
本来、議長は誰にでもできる職ではない
毎年めまぐるしく辞任する1年交代ばかりでは、行事・式典での挨拶や接客があたかも主要業務であるかのように日々が過ぎ去ってしまいます。
しかし、このような「あいさつ行為」は、何の公権力も行使していないことから、実は他の議員でも容易に代行できる仕事であって、そのために副議長が選出されているほか、各分野を所管する委員長なども存在しているのです。
一方で、議長に固有の公務は、職員の人事権を含む公権力の行使も含まれ、誰にでもできる仕事ではありません。
特に閉会中に議会を代表して一定の権限を行使することができるのは議長のみであって(議長を欠く場合のみ副議長)、会議の進行役が主要業務というわけでもないのです。
杉並区議会議長は、通常の議長公務のほか、東京二十三区清掃一部事務組合、特別区競馬組合などにおいても、重要な公の意思形成を担っています。
議長は、政党や会派レベルの都合によって、誰も彼もと1年交代で「たらい回し」をさせてよいポストではなく、その立場に相応しい適任者が(法定の4年間にわたって)首長や教育長と対等に役割を果たしていかなければならないポストなのです。
歴史の転換期には何かと激動が生じやすいものですが、これからも私は一党一派に偏らずチェック・アンド・バランスを働かせていくことで役割を果たしていきます。いつも応援ありがとうございます。