Small, Slow but Steady

僕は「ケイコ 目を澄ませて」が去年観た新作映画の中で一番好きだったのだけど、その英語題が「Small, Slow but Steady」なのを昨日知って、「なんて良いタイトルなんだ……」と感動してしまった。そしてこのタイトルを単語一つ一つに分解して、もう一度味わってみたりする。Small。Slow。Steady。そういう風に芝居をしていけたらな、なんて考えたりもする。

3,4年前からジャズ喫茶という場所に足を踏み入れるようになって、個性とこだわりがあり、そして小さくとも経済的に独立していることってなんてカッコいいんだと思うようになった。こんな生き方をしていけたらなんて漠然と思ったこともあるし、「ジャズ喫茶みたいに演劇をしたい」とよく分からないことをぽやぽや考えたこともある。色んなジャズ喫茶を一括りに出来ないことは重々承知の上で、それは僕の中では「Small, Slow but Steady」という言葉と何かしら響き合うものがある。

今日「水中の哲学者たち」という本を読み終わった。哲学者であり、色々なところで哲学対話というものを行なっている永井玲衣さんのエッセイ、なのかな。一つ一つのエッセイ(だと思う)に柔らかさと可笑しみがあって、とても良かった。そしてこの本も僕の中では「Small, Slow but Steady」と反射しあっている。もし「ケイコ 目を澄ませて」の英語題を知ったのが5日前とかだったら、僕がその時読んでいた本はエルヴェ・ル・テリエの「異常」であり(2020年のゴンクール賞受賞作で、フランス始め色んな国で話題になったと聞き読んでみた)、SF要素が多分に含まれて、殺し屋や大統領なんかも登場する「異常」では「Small, Slow but Steady」という言葉が僕の中で反射する回数は少し減っていただろう。さらにその前に読んでいたのは夏目漱石の「門」で、「異常」と比べたらそっちの方が多かったかもしれないけど、やっぱり「水中の哲学者たち」にはかなわない。あ、これはそれぞれの読書体験の質とは全く関係なくて、特に「門」はめちゃくちゃ面白く読んだのだけど(3,4年前に読んだ時はあまり面白さが分からなかったのに)、ただこの英語題を知ったタイミングで僕が読んでいた本が「水中の哲学者たち」であったことを、僕が勝手に面白がっているだけであります。でもそんな偶然が僕には嬉しい。ちょっぴり興奮もしてしまう。

照明も音響も最低限でいい。舞台美術もなくて良いし、衣装も普段着でいい。
でも面白い脚本と魅力的な演技があって、目の前で”真実”のようなものがふわふわと浮かび上がってきたり、パシッとはじけたりする。
それが2500円とか3000円とかで観られる。そんな演劇、を作る妄想をついしてしまいます。そういえば、去年やった一人芝居「ゴドーは待たれながら」もそんなところを目指していた。
Small, Slow but Steady。

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