歌舞伎町は完全に向いていなかった

私は先月バーでアルバイトを始めた。

歌舞伎町にあるバーで(ミックスバー?というジャンルらしい)、バーテンダーとかがいる訳では無い。

ホストやキャバクラのように卓ごとに接客がついて、「担当」という制度もある。

もちろん私は向いていなかった。つまらない話の聞き手に周り、気遣いを押し売りする接客は、一人っ子の私には辛い。

タバコの火は自分でつければいいし、グラスの飲み物が無くなったら自分で注げばいい。そう思ってしまう。

何故そんな私がそこで働くことになったかというと、間違えたのだ。

私はカジュアルなバーのカウンタースタッフがやりたかった。仕事中ずっとタバコを吸っている店員が羨ましかったのだ。

そしてバイトルで適当に探したら、その店がオープニングスタッフだったので応募した。

バーという言葉の範囲が広すぎる。全然イメージと違った。あそこまで違うなら何か違う名称をつけて欲しい。店員は男女どちらもいるが、接客はキャバクラのような感じなので、「無性キャバクラ」とかでいい。

その世界は知らないことが多すぎた。缶ビールが2000円することも知らなかったし、消費税が25%なことも初めて知った。歌舞伎町にあり、緊急事態宣言真っ只中でオープンすることからある程度予測はついたが、文字通り治外法権だった。

中でも一番腑に落ちなかった言葉は「風紀」であった。

これは「従業員同士が恋愛をすること」を指すらしい。するつもりは無かったから詳しくは聞かなかったが、あんまり良くないことっぽいニュアンスだった。

だとしたら「風紀を乱す」が適切だ。「風紀」という言葉は、「ルール」とか「規則」に近い。

なので「従業員同士の恋愛は禁止」というルールが「風紀」であり、「従業員同士が恋愛をすること」は「風紀を乱す」である。

もしかしたら歌舞伎町では50年前くらいから使われていた言葉で、「風紀を乱す」という言葉が長いから略して「風紀」になったのかもしれない。

その可能性は大いにあったが、歌舞伎町er1日目の私には気持ちが悪かった。

当時はその気持ち悪さは我慢して頑張って働いていこうと思っていた。

しかし、今の私はフリーターからニートにランクダウンしている。風紀以外にも気持ち悪いことがあって一日で飛んだ。

それは、給料だ。

面接時は時給1500円と聞いていた。また、交通費支給、研修費支給と書いてあった。

しかしオープン初日になって時給が手のひらを返した。

初日に、日当8000円、交通費研修費ナシと告げられた。

YouTuberの普及により面白くないノリが一般化されたこの現代の中でも一番面白くない言葉ではあるが、さすがに言わせてくれ

エグゥ。

日当8000円は8時間勤務だから時給1000円。夜勤で。もちろん最低賃金以下だ。

まぁ緊急事態宣言を守らない店が、小池都知事が決めた最低賃金や、従業員との約束を守れるわけがなかった。

しかも勤務時間と聞いていた8時間は実は営業時間で、勤務時間は10時間あった。休憩無しで。つまり時給は800円だ。

さすがに働けない。コンビニの方がマシマシだ。

そして世界史をしっかり勉強した私は、ハンムラビ法典が一番素敵だと知っていたので飛んだ。

失礼には失礼で返すべきという正義が私にはあった。じゃないと相手は自分の失礼に気づかない。

一日働いたぶんの給料が貰えないことに一瞬躊躇したが、この条件で今月のシフトを消化しなければならない苦痛にはかえられなかった。

他にも飛ぶ人いるだろうなと思い従業員に聞くと、半分以上が飛ぶと言っていた。ただでさえ激務だったのに人数が半数の5人になってしまう。

さすがに一瞬罪悪感が芽生えた。しかしものの数分で飛ばない人達にイライラしてきた。

なんでこの条件で働くのかがわからなかった。

最低賃金より時給が400円は下回っていて、休憩なしの10時間激務。仕事内容もとてもじゃないが楽しいとは言えない。

それなのに続ける人がわからなかった。恐らく理由は「なんとなく」だろう。脳を家でアルコールに漬けっぱなしにしてきてしまったのだ。

そして何よりも、これで皆が続けてしまったら「この経営は正しい」とオーナーが勘違いしてしまう。人件費をガリガリで立てなくなるまで削り、利益をこそぎとる「ジャイアン経営」でいけると思わせてしまう。

そうならないために、これは間違っていると学ばせるために、次ののび太を生まないために、我々は無礼に飛ぶべきなのだ。



根が真面目な私はここまで自分に言い訳をしてやっと飛べた。

飛ぶわwwといって即日全員の連絡先をブロックしていた従業員の精神が羨ましい。

何が言いたいかと言うと、「バイトって全然飛べるよ」ということだ。

根が真面目な人達は参考にしてほしい。

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