ロルカン・フィネガン『ビバリウム』ネタバレ考察・感想・レビュー
家が欲しかっただけなのに…😭
郊外の住宅街に内見に行ったらそのまま帰れなくなって、更には知らん子どもの育児まで押し付けられる可哀想なカップルを描いた風刺系SFホラー。タイトル『Vivarium』の時点で既に不穏で、その不穏さをどこに見い出すかで幾重にも見え方を変える幅のある作品だった。
2000年代後半の金融危機でアイルランド経済が世界的に低迷した際に発生した「ゴーストエステート」が発想の出発点だったらしく、建設ブームで住宅が余ったために、購入者は不良債権を抱え込み、経済的にも精神的にも家に閉じ込められた姿を反映した側面もあるらしい。
本作のカップル(イモージェンプーツとジェシーアイゼンバーグ)がやって来た住宅街Yonderはミント色に全てが統一され、全く同じ型の家々が等間隔で延々と配置された「均衡の取れすぎた気持ち悪さ」を初見の時点で強烈に印象づけてくる。ルネ・マグリットの絵画『光の帝国』を参考にしたデザインは、街並みだけでなく空や雲からも人工物としての印象を強くし、決められた面積の土地上に如何に多くの家を建てるか…といった消費資本主義によって「押し付けられた理想郷」が若者の生活を支配していく様が描かれる。
真に求めるモノと、外部がニーズを決めつけ押し付けてくるモノ。その違い・ズレが「嫌」をどんどんと募らせていく。閑静な住宅街であり、食事を含めた物品類にも一切困らない、仕事や厄介ごとに邪魔されず夫婦揃って子どもを何不自由なく育てられるYonderは、外形的には郊外の住宅街として最高の環境。でも真に求めるモノとはズレている。そのズレを認識しつつも、外側から与えられたモノの中で暮らすことを強制されるのは、現実をデフォルメして投影したものだと言えるし、そんな虚構の中でも「仕事」や「子ども」に傾倒していく姿は、心理実験を見させられているような気分にさせられる。そういう点で、本作は『ファブリック』に近い。洗脳テレビな感じも。
若者が「器」として利用される感覚は『スワロウ』を想起させるし、その利用主はクソ夫ではなく、消費資本主義社会そのものであり、その存続のために「歯車の生産」だけを担わされる地獄をとことん見せつけるのもまた嫌〜な気分にさせられる。そういった存在がカップルを独占し、餌を求めてピーピー鳴く姿が冒頭のカッコウに戻ってくるのもまた悲しい。本来のモノ(精神)はテレビだったり何なりの「他」から植え付けられ洗脳されることで「歯車」と変えられ、生来である「本物の精神」を蹴落としていくのだということ。これマジで『ファブリック』じゃん。
俯瞰で街並みを捉えるときには、カメラをゆっくり回すことで上下感覚すらなくされていく迷宮感が面白いし、内容もブラックジョーク的で胸糞感ありつつも、どこかコミカルな雰囲気が癖になる。果たして主人公カップルは、このわけのわからないYonderから脱出することできるのか??そんなに期待してなかったのだけど結構面白かった!