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「クラフトビールづくりを自宅でできる未来をつくりたい」【HOPPIN’ GARAGE ブリュワー紹介 VECTOR BREWING 木水朋也さん

モノづくりの街として賑わう浅草橋。JR浅草橋駅から徒歩4分の場所にVECTOR BREWING(ベクターブルーイング)浅草橋工場はあります。ライナ株式会社が2013年に「Vector Beer」という国産クラフトビールを扱うビアレストランを新宿御苑に開業し、店舗拡大に伴い、2019年に浅草橋工場を新設。最大醸造量は1,000リットルから9倍の9,000リットルまで増量しました。

主力商品「ねこぱんち」「ベクターペールエール」など個性的なクラフトビールがつくられています。

写真2写真:VECTOR BREWING公式HPより

「ビールの民主化」を掲げるHOPPIN’ GARAGEでは、全国でビールづくりに精を出すブリュワー・ブリュワリーをご紹介していきます。

今回はVECTOR BREWINGの木水朋也さんにブリュワーとしての思いや「ビールの民主化」について聞きました。

地ビールの老舗「サンクトガーレン」での修業が今の自分の原点

木水さんがビールづくりに興味を持ったのは大学生の頃。当時は酒蔵の多い地域に住んでいたことから、お酒に自然と興味が湧いて酒蔵を見学していたといいます。

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「僕は広島大学理学研究科出身で、当時は生物の勉強をしていました。学生時代、大学の周辺に酒蔵が多くあったので、見学したり、飲みに行ったりして遊んでいました。お酒に興味があったので、卒業後は飲食店向けにお酒を卸す酒販店に就職しました。

就職して1年半ほど経ち、お酒を『売る』ことよりも『つくる』ことの方が好きなのでは、と思うようになったんです。当時、ワインにも興味があったのですが、ワイナリーの醸造家は1年の7割、畑仕事をしているんです。つまりぶどうをつくることが1年の大半を占める。一方、自分がやりたいことはシーズンに関係なくお酒をつくることだと思ってました。当時、オクトーバーフェストなどをきっかけにクラフトビールにハマっていたので、ビールづくりをしようと決断しました。」(木水さん、以下同)

その後木水さんは、厚木にある地ビールの老舗『サンクトガーレン』へ転職します。

「ちょうどサンクトガーレンで醸造の仕事を募集していたんです。当時サンクトガーレンは5〜6人の小さな会社でした。ビールのレシピは社長がつくり、実際の仕込みを他のメンバーが行う体制でした。そんな中、入社して半年後、先輩のブリュワーが急に辞めてしまったんです。それで醸造できるのが社長と僕ふたりになってしまい、実質僕ひとりで醸造する状態になりました。

ブリュワーがふたりしかいないことで、物理的に大変な思いをしましたが、一方で僕に仕事を何でもさせてもらえたことで、とても勉強になりましたね。イベントが土日にあると休みがなくてつらいときもありましたが、全部自分でやらせてもらえる環境を逆に楽しんでいました。社長は悩んだときに何でも相談に乗ってくれるし、今思うとサンクトガーレンには感謝しかありません」

前職のサンクトガーレンで、幅広い経験を積んだ木水さん。その後、今所属しているVECTOR BREWING(ライナ株式会社)に転職します。

「サンクトガーレンは社長が基本的にレシピを書く会社だったので、僕がレシピを書くチャンスは1年に1〜2回しかなかったんです。サンクトガーレンで働いて2年ほど経ったとき、ビールづくりの川上から川下まで、ある程度身についていました。そうすると、『自分が書いたレシピのビールをつくりたい』という欲が出てきます。そのころちょうど、ライナが醸造を始めると発表していたので、これはチャンスだと思って転職しました」

猫ファンの間で「ねこぱんち」が話題に

転職後、自分がつくりたいビールをつくり始めた木水さん。VECTOR BREWINGのビールは個性的なデザインの商品が並んでいます。今のデザインになった背景は何だったのでしょうか。

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「クラフトビールなので、安っぽくしたくなかったんです。当社のビールの場合、直売でも500円なので。かといって高飛車な感じにもしたくない。手に取ってもらいやすいカジュアルさは求めていました。『ねこぱんち』はデザイナーに依頼をしてできあがったデザインでした。

その後、ねこシリーズ含めさまざまな商品を販売していますが、ほとんどの商品は、当社のイラストレーションが得意なスタッフが自らデザインしたものになります。当初VECTOR BREWINGのロゴ推しで商品デザインをしていたのですが、『ねこぱんち』のバズから、今では猫推しの商品デザインが増えていますね。」

個性的なデザインの商品ラインナップがあるVECTOR BREWINGですが、「ねこぱんち」が爆発的に拡散されたことが、印象的な体験だったと木水さんは話します。「ねこぱんち」は発売からしばらくして、とあるユーザーがSNSで紹介したことで猫ファンを中心に話題を呼び、問い合わせが殺到しました。その後ももう一度バズを経験し、今や「ねこぱんち」シリーズはVECTOR BREWINGの人気商品となっています。

写真5写真左から、定番商品の「ねこぱんち」、今春発売予定の「春ねこぱんち」

「1度目にバズったときは、オンラインショップもオープンしておらず、お客さんの期待に100%応えられない状態でした。突然問い合わせが殺到し、スタッフ一同開いた口が塞がらない状態でしたね。2度目にバズったときはオンラインショップも整備しており、販売に繋げることができました。今ではシーズンごとに新商品を出しています。今春には『春ねこぱんち』が出る予定です」

クラフトビールの香りで、お客さんに驚きと感動を届けたい

さて、なんでも自分でやってきたからこそ、ビールづくりをさらに楽しめるようになった木水さん。木水さんがビールづくりにおいて一番大切にしていることは何でしょうか。

「やはり一番は香りです。クラフトビールって、原材料にフルーツを使っていないのにマスカットやバナナといったフルーツの香りがするんです。僕のつくるビールはよく『フルーティーな香りがするね』と言われることが多いのですが、そのもう一歩先、具体的なフルーツの名前、例えば『マスカットの香りがするね』と言ってもらえるようなビールをつくりたいんです。

例えば、『バナナシェイク』というビールがあります。これは原材料にバナナを使わずにヴァイツェンというイースト(酵母)を使っています。ヴァイツェンがバナナと同じ香りかというと、そうではありませんが、どれだけバナナの香りに近づけられるかに、チャレンジした商品です。お客さんが原材料を見て、『バナナを使っていないの?』と驚かれると気持ちが良いですね(笑)」

究極、家でビールをつくれる世の中になってほしい

HOPPIN’ GARAGEがテーマとして掲げる「ビールの民主化」。最後に「ビールの民主化」のために木水さんが果たす役割を聞きました。

「以前、オレゴン州のポートランドに行ったときのこと。ポートランドって本当にすごいんです! ビールの原料を量り売りしているショップがたくさんあって、一般の人が持ち帰ってビールをつくることができるんです。これ日本では考えられないですよね。まさにビールが民主化された状態なんです。

みんな好きな原料を買って、家で仕込んでつくる。仕込むための装置や測定器もあります。初心者向けには、A4のペラ1枚のレジピが置いてあったりします。ブリュワリーも街の至るところにあって。バドワイザーのような大衆向けのビールは、スーパーやバーで販売されていることも少ない。オレゴン州のビールが8割、残りの2割はオレゴン州以外のクラフトビールが置いてあります。クラフトビール文化が根付いているんです。

ブリュワーのひとりとしては、ポートランドみたいにビールづくりが身近になればいいなと思います。今、日本にあるクラフトビールのスタイルの99%はアメリカの模倣です。日本初の、日本に来なければ飲めない、日本から取り寄せないと飲めないビールをつくりたいです。究極、ポートランドのようにビールの原料を自家調達できるような場所を提供できるようになればと思います!」

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終始、笑顔で明るく、それでいて情熱的に話してくれた木水さん。木水さんの言う日本発祥のクラフトビールがいつか飲めるようになるのが楽しみです。また、VECTOR BREWINGでは、工場の2階のスペースを予約制で2時間貸し切りにしてひとり3000円でクラフトビール4種類飲み放題プランを実施中(料理は持ち込み。ホットプレートの貸出あり)。木水さんのような素敵なブリュワーさんの存在を感じながら、クラフトビールをたっぷり楽しんでみてはいかがでしょうか。


次回のブリュワー紹介もお楽しみに!


HOPPIN' GARAGE(ホッピンガレージ)は、「できたらいいな。を、つくろう」を合言葉に、人生ストーリーを材料としたビールづくりをはじめ、絵本やゲームやラジオなど、これまでの発想に捉われない「新しいビールの楽しみ方」を続々とお届けします。