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クラフトビールに決まりはない。その人の「つくりたい」を応援【HOPPIN’ GARAGE ブリュワー紹介 OGA BREWING 小笠原恵助さん】

都会と緑豊かな自然が調和する公園都市、三鷹。JR三鷹駅から徒歩15分ほど歩くと、住宅街の一角にOGA BREWING(オージーエーブルーイング)があります。

ブリュワリー&カフェとして誕生したOGA BREWINGでは自家醸造ビールの販売や、個人や企業からの委託醸造を請け負っています。

写真1左から、主力商品「三鷹ペールエール」「三鷹ウィートエール

「ビールの民主化」を掲げるHOPPIN’ GARAGEでは、全国でビールづくりに精を出すブリュワー・ブリュワリーをご紹介しています。今回はOGA BREWINGオーナーの小笠原恵助さんにブリュワーとしての思いや「ビールの民主化」について聞きました。

ビールの“ジャケ買い”を広めていたら、ビールをつくりたくなった

広告代理店経営のかたわら、OGA BREWINGの経営もしている小笠原さん。過去にさまざまな仕事を経験してきたといいます。ビールづくりに関わるようになったきっかけは、何だったのでしょうか。

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「高校卒業後、岩手から上京して最初に就いたのは建設業でした。そのあと長距離ドライバーとして運送会社で働いていたのですが、デザインに興味を持ち始めてデザイン会社に就職。その後2004年に、飲食に特化したデザインの会社を自分で興しました。

ビールに携わるようになった転機は2007年。クラフトビールのラベルデザイン依頼があったんです。

当時、日本のクラフトビールラベルは商品説明やアルコール度数など専門的な内容の記載がメインで、個性的なラベルが少なかった。味やブリュワーの思いはラベルで表現されていなかったんですね。

僕はレコード世代ですが、中身ではなく気に入ったデザインでレコードを買う“ジャケ買い”という言葉がありました。クラフトビールのラベルデザインも同じだと思っています。多くのブリュワーはラベルデザインに力を入れていない印象で、すごくもったいないと思いました」(小笠原さん、以下同)

商品コンセプトを明確にしたラベルにすれば、商品の魅力がもっと伝わるはず。そう考えた小笠原さんは、思い切った行動に出ます。

「ある商品のラベルをうちで勝手に新しくデザインして、商品に張り付けてみました。それをメーカーに持っていって『このデザインの方がいいですよ』と企業にプレゼンしたんです」

小笠原さんの飛び込み営業。そんな大胆なことをして、企業に怒られなかったのでしょうか……。

「『うちはうちの考えでつくっているんだよ!』と、案の定気分を害されました(笑)。でもなかには『おもしろい提案だね』と賛同してくれる企業もあって。ラベルからクラフトビールの仕事に携わり始めたのですが、これだけでは儲けになりません。本格的に収益化するには自分の拠点が必要だと思い、ビアバーを始めたんです。

さまざまなビールを仕入れて、ラベルデザインをしながらクラフトビールを広める活動がスタートしました。ジャケ買いの楽しさを伝えていくうちに、伝えるだけでは物足りなくなってきて、ブリュワーになりたい……それならビールメーカーになろう! と決心したんです」

ビールは「コミュニケーションツール」

ラベルデザインの仕事がきっかけだったとはいえ、自らがブリュワーになるには、強い動機付けが必要だったのではないでしょうか。小笠原さんにとって、ビールとは?

「僕がビールを飲めるカフェをオープンしたのは、コミュニティセンターのような場所をつくりたかったからなんです。地域のみんなが集まってビールを飲みながらワイワイ楽しめる場所を提供したかった。

僕はカフェバーに来てくれるお客さまにどんどん声をかけていくタイプなのですが(笑)、話しかけると皆さんビールに興味を持ってくれるんですよね。話しているとお客さまから『こんなビールもあるみたいだよ』と教えてくれることもある。

僕の場合、ビールはコミュニケーションツールなんです。乾杯で盛り上がったり、趣味で世界中のさまざまなビールを楽しんだり、おしゃれ好きな人には相手に合ったラベルのクラフトビールを贈ったり……コミュニケーション時におけるビールのパワーが、僕のビールづくりへの興味を深めてくれたのかもしれません」

三鷹の大麦で完成した、「北野の杜ビール」

小笠原さんは「これからやりたいことがありすぎる」と話します。その表情はまるで遠足を前にワクワクしている子どものようです。

「現在、三鷹の北野地区で農地を借りて、自分たちで大麦を栽培しています。昨年栽培・収穫を行い、今年発売したのがこのビールです。

写真3北野の杜ビール」。三鷹市で栽培された大麦を使用。大地と風を感じるゴクゴク飲みやすいライトエール

ビールの主原料は麦、ホップ、水、酵母ですが、今年農地を広げてホップの苗も植えました。これで麦とホップの準備が整いました。水も農業法人の方に頼んで何十年も昔からある井戸を復活させてもらい、三鷹の地下100mから汲み上げています。麦とホップと水ができれば、あとは酵母。今培養中です!

今回農地を貸してくれたのは、学校給食や地元のパン屋に小麦を卸している農家さん。農地を借りる前に、『麦を仕入れさせてもらいたい』とお願いすると『私たちの麦がビールになるのね!』と驚き、喜んで受け入れてくれました。それがきっかけで、今度は大麦をつくろう、次はホップ、と農地を貸してもらえることになったんです。

地元の土地で原料をつくり、自らビールをつくる。お客さまに、三鷹で生まれ育ったビールをこれから届けていくのにすごくワクワクしています!」

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委託醸造で思いを形に。「つくりたい」を応援

HOPPIN’ GARAGEがテーマとして掲げる「ビールの民主化」。最後に「ビールの民主化」のために小笠原さんが果たす役割を聞きました。

「ビールをつくりたくても、設備や技術、人や場所が必要なのでひとりではできない。そんな人たちの思いを委託醸造(OEM)で叶える存在でありたいです。

お酒づくりに関わる人は職人が多いので、皆さん思いや信念があります。ただビールづくりにおいては『こうでなければ』という前提はあまり必要ないと僕は考えています。新しいビールはその方が生まれやすくなると思うので。『こんなビールをつくりたい』という思いのある方は、僕に気軽に相談してください(笑)」

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気さくで飾らない小笠原さん。そんな実直さがビールづくりの賛同者を増やしているのかもしれません。オリジナルビールをつくってみたい! そんな方は小笠原さんに相談してみるのも良さそうです。

次回のブリュワー紹介もお楽しみに!

HOPPIN' GARAGE(ホッピンガレージ)は、「もっと自由にビールづくりができる世界」を目指し、お客様とサッポロビール醸造技術者(ブリュワー)の共創によるビールづくりを中心に、ビールを学べる講座やビールでつながる交流会などの体験づくりを行っています。