自由でもユルくても、「それも人生」
2023年2月からスタートした、「ホッピンフレンズ プロジェクト」。
HOPPIN' GARAGEで取り上げた魅力的な人生ストーリーを全国各地のブルワーと共有し、それぞれの表現力で自由にビールをつくってもらう新しい試みです。第2弾はコピーライター・石井つよシさんが主人公です。
HOPPIN’ GARAGEから2023年4月に発売された「それが人生」は、苦くて、つらいことがあってこそ人生だという、昭和ノスタルジーを彷彿とさせる人生の苦さに寄り添うビールとして、石井さんのコピーとともに醸造されたビール。
これに対してホッピンフレンズでは、それが人生と対になる人生観として、苦くなくても、自由でユルくても、どんな人生でも肯定する令和時代の空気感を含んだ「それも人生」という新しいコンセプトでビールをつくることに。
石井さんが「それも人生」をテーマに3種類のコピーを書き下ろし、コピーから得た着想をもとに3名のブルワーがビールを醸造しました。今回のホッピンフレンズセットは4商品とも言葉から生まれたビールのセットなのです。
ホッピンフレンズプロジェクトに参加したのは、兵庫県神戸市にある六甲ビールの景山さん、石川県能美郡川北町にあるわくわく手づくりファーム川北の大久保さん、岩手県八幡平市にある暁ブルワリーの中林さんの3名。
「HOPPIN’ GARAGE それが人生」担当ブルワーのサッポロビール・蛸井さんも交えて、言葉をビールにするという新しいビールの作り方、完成したビールについての座談会を開催しました。
<座談会参加者>
■六甲ビール 景山翔太さん
■わくわく手づくりファーム川北 大久保一樹さん
■暁ブルワリー 中林悠さん
■サッポロビール 蛸井潔さん
完成した「それも人生」ビールは、3社とも偶然「セゾン」スタイル!
──今日はよろしくお願いします! 今回つくったビールについて、特長や工夫したポイントを教えてください。
景山さん:六甲ビールが製造したビールは、「LIFE is BEER」。六甲ビールの枠に囚われない姿勢や挑戦心をビールで表現したかったので、一般的なビアスタイルにはない、ホワイトエール×セゾンスタイルのビールをつくりました。
小麦の使用比率を大幅に増やしたことが一番の特長です。小麦由来のほのかな酸味と、セゾン酵母由来のフルーティで華やかな香りがミックスして、今まで味わったことのない風味ができあがったと思います。
大久保さん:わくわく手づくりファーム川北のビールは「ユルメのたしなみ」です。ビールをつくる上で大切にしたかったのが、いろいろな境界線を超えていけるような自由なマインド。
私たちもセゾン酵母を使っています。セゾン酵母由来のハーバルでスパイシーでさわやかな香りを出しつつも、ホップの部分でIPAやアメリカンペールエールで使われるような柑橘系やトロピカルな香りのする品種をセレクトして、多国籍なイメージに仕上げました。
中林さん:暁ブルワリーがつくった「未来図」もセゾンを使ったビールなんです(笑)。暁ブルワリーのモットーである、「人に 自然に やさしく」という姿勢を大切につくりました。
自然を未来につなげていけるようにという願いを込めて、昔ながらの森の香辛料である山椒を使用していることが一番の特長ですね。ブナの森で深呼吸をしているような、さわやかなセゾンになったかと思います。
──みなさん偶然にもセゾンなんですね!
景山さん:びっくりしました(笑)。
中林さん:三社ともセゾンだけれど、三社三様になっているのがおもしろいですね。
コピーを書いてもらうことで、ブルワーの姿勢が浮き彫りに
──今回は、みなさんそれぞれが石井さんと対話してコピーを書いてもらい、それをもとにビールをつくっています。コピーができた背景や、そこからビールに落とし込むまでの過程について教えてください。
中林さん:私たちが石井さんに書いていただいたコピーはこちらです。
「暁ブルワリーらしさ」を石井さんと話していて、やはり自然環境に配慮した原材料を使っているところが一番の特長だという話になりました。
一番はそこなのですが、コピーの中にある「じぶんはじぶん」という部分もポイントです。他人の人生を肯定するためには、自分自身がまず芯を持つ必要がある。その「芯の強さ」を表現するためにも、ピリッとした強さのある山椒を使うことを決めました。
大久保さん:すごく景色が浮かんでくるコピーですよね。自然の中で、暁さんのつくったビールを飲めたら最高だろうなあ……。
中林さん:ありがとうございます。「美しい森のなかを一本の川が流れていくようなビール」というコピーは、私たちが大切にしていることが端的に伝わってすごく気に入っていて。決して急流や濁流ではない、サラサラと流れているような美しい川がイメージできて、石井さんには本当に感謝しています。
──「ユルメのたしなみ」は、どのようなコピーをもとにつくったのでしょうか。
大久保さん:私たちのコピーは、こちらです。
「日本ともアメリカともヨーロッパとも隣接しているという、ある架空の国のビール」。私たちの在り方をこんな風に落としこんでいただいて、感動しました。
石井さんとの対話で、「日々生活している中で、無意識のうちに国境を超えていることが多いよね」という話になったんです。私は日本生まれ日本育ちで、海外も数回しか行ったことがないのですが、趣味が登山やジャズで、イギリスの洋服が好きだったりする。その「自然と国境を超えている」感覚がすごく現代的で、表現したいポイントだと思いました。
このコピーをいただいて、いろいろな国の原材料を使ったビールをつくろうと決めたんです。コピーのおかげで頭の中が整理されて、迷わずに方向性を決められた気がします。
中林さん:原材料や香り、スタイルなど、各地域のいいところが全部混ざり、それが黒くなるのではなく七色のまま残っているような、そんなイメージが浮かびました。早く飲みたいです!
──「LIFE is BEER」はいかがでしょうか?
景山さん:私たちのコピーは、「人類が、陸に上がり、木に登り、はじめてもぎとった果実のフレーバーがするビール」。
六甲ビールでは、挑戦心や、ひとつのことにこだわらず日々アップデートしていく姿勢を大切にしています。僕自身も、学生時代にアメフトをしたり、就職してすぐにブルワーの道へ転職をしたりと、今までの人生では自分がドキドキする方を選択してきました。そういう精神を総合的にビールとして表現できればと思い、今回、想像もできないセゾンとホワイトビールをかけ合わせてビールをつくりました。
大久保さん:すごくキャッチーで印象に残るコピーですよね。セゾンとホワイトビールのかけ合わせはたしかに想像できません……! 飲むのが今から楽しみです。
同じセゾンスタイルでも、印象が大きく異なる各社のデザイン
──それぞれのビールのデザインも素敵です。缶デザインについて、工夫したポイントを教えていただけますか?
大久保さん:ご覧の通り、「ユルメのたしなみ」はとてもシンプルなデザインです。今回はコンセプトが「国境を超える自由なマインド」なので、絵の具のようなグラデーションで、境界線を行ったり来たりする様子を表現しました。色合いも、時間帯が朝なのか夕方なのかわからないようにしています。
あまりビールとしての情報量を入れないようにも工夫しましたね。コピーも、国名などの情報は省いて、この缶ビールを実際に飲んだ人の想像力が膨らむように意識しました。
中林さん:「未来図」は、先ほどコピーの説明でもあったように「自分たちの在り方」を示したかったので、それをラベルにストレートにデザインしました。
このイラストは、暁ブルワリーの未来の敷地図です。私たちの理想の未来図を社長に描いてもらいました。下の方にある山は岩手山。その横には、「龍の伝説」がある湧水を描いています。
大久保さん:このデザインを見ると、実際に暁ブルワリーさんに行って「未来図」を飲みたくなりますね……!
中林さん:ありがとうございます。
景山さん:「LIFE is BEER」のデザインは、ベースは六甲ビールの缶商品にすべて採用している「山ラベル」。ただ、いつもは山の中に色をつけるのですが、今回はあえて白色にしました。
缶の上部にはスケッチブックのようなあしらいを入れていて、「枠に囚われない」「自由な発想をしよう」といった意味を込めています。飲んでいただいたお客さまに、それぞれの色付けをしてほしいので、あえて白色のデザインなんです。
──蛸井さんは、ホッピンフレンズのみなさんの完成したビールを見てどう思いましたか。
蛸井さん:令和ジェネレーションの多様性を表現しようという「それ『も』人生」というお題だったんですね。なるほどと思いました。
無地の白いキャンバスを小麦の「ホワイト」で表現しようという「LIFE is BEER」、原料もつくり方もデザインもゆるやかにうつりかわる雰囲気を表現した「ユルメのたしなみ」、未来の森との共生を感じさせる「未来図」。どれも楽しんでつくっている感じがとてもいいですね。
──:サッポロビールが製造したのは、「それも人生」ではなく「それが人生」という、人生の苦さを表現するビールですよね。製品の特長を教えていただけますか?
蛸井さん:最初に石井さんとお話ししたときに出たキーワードのひとつが「昭和」でした。「それが人生」は、当時の資料も参考に、仕込工程での熱負荷を高め、苦味をやや強めた、ブルワーとしては直球勝負のピルスナー。つくるのに時間と熱をかけていることが特長です。タイムパフォーマンスなどと言われる今の時代からすると、それに逆行するようなレシピに「昭和」っぽさがあるように思います。
──昭和を表現する「それが人生」と、令和の空気感を表現する「それも人生」。どちらもはやく飲みたいです!
ビールづくりのおもしろさ、ホッピンフレンズの回を重ねて思うこと
──今回、中林さんはホッピンフレンズに初参加です。この取り組みに対しての感想や思いを聞かせてください。
中林さん:これまで「人生をテーマにビールをつくる」という話は聞いたこともやったこともなかったので、すごく刺激的でした。各社の色やつくる人の性格がより濃く出るのはホッピンフレンズだからこそですね。今回、三社ともセゾンをつくるというまさかのことになって、その上で三様のセゾンができあがったのが一番おもしろかったです。
──景山さんと大久保さんはホッピンフレンズプロジェクトに参加するのが2回目でしたが、回を重ねてみてどうでしたか?
景山さん:前回は建築家・岡啓輔さんの人生をもとにつくらせていただきました。今回は、私たちの人生と石井さんのコピーを合わせてつくったという面で、また違ったアプローチ。ホッピンフレンズの大元のコンセプトは一緒だったとしても、それぞれの回ごとに変化があることが興味深かったです。
大久保さん:コンセプトになる人生ストーリーが変わることによって、企画自体の進み方も変わる。今回は私たちの人生がビールになったような形だと思いますが、それも石井さんがコピーライターだったからこそ起きたことですよね。
人ひとりにフォーカスして、ものごとをみんなでつくり上げるということは、毎回まったく違うものづくりになるんだなと2回参加して思いました。新鮮味があって、2回目もすごく楽しかったです。
──最後に、サッポロビールの蛸井さんはホッピンフレンズの取り組みに対してどう思っていますか?
蛸井さん:大手メーカーにいると、クラフトビールのブルワーの方々と交流する機会はあまりありません。みなさんとお話できるだけでもおもしろいのに、共作までできるなんて、楽しいことが始まったな、と思いました。
「人生ストーリー」に対して、他のブルワーさんによるレシピへの落とし込み方を五感で体験させてもらえる機会もなかなかないと思うので、お互いにいい刺激になればといいなと思います。これからもよろしくお願いします!