見出し画像

非営利組織の経営基盤強化事例: 株式会社パパゲーノと共同で公益財団法人YMCAせとうちの会員管理業務の改善に取り組みました。

株式会社和平ホピン(本社所在地:福岡県福岡市、代表取締役CEO 阪田直樹、以下「和平」)は、株式会社パパゲーノ(本社所在地:東京都渋谷区、代表取締役CEO 田中康雅、以下「パパゲーノ」)と共同で、公益財団法人YMCAせとうち(所在地:岡山県岡山市、代表理事 正野隆士・太田直宏、以下「YMCAせとうち」)の業務改善に取り組みました。
のべ約16時間のご支援で、年間約50時間かかっていた業務の自動化ができました。


実施背景

NPO(非営利団体)の多くは、間接費のジレンマに直面しています。これは、ノンコア業務にリソース(人材や資金)が割かれ、コア業務に集中できない状況を指します。ノンコア業務とは、NPOの本来の目的やミッションから外れた、事務作業や経理業務などを含む業務のことです。

近年、クラウドファンディングなどを通じて、受益者を想像しやすく、その用途が理解されやすい直接費の調達は容易になってきました。
しかし、受益者やその影響を想像しづらい間接費を使途とした資金の調達は依然として困難です。

  • 直接費...特定のプロジェクトやサービスに直接関連する費用を指します。

  • 間接費...オフィスの維持費や管理費など、特定のプロジェクトに直接関わらない費用を指します。

多くのNPOは間接費を切り詰めたり過少報告したりしており、その実態よりも少なく計上されています。実際、NPOの間接費は企業の間接費と比べて10〜20%少ないとされています。
その結果、NPOの受益者への価値提供にかける時間が減少し、非効率な既存業務の改善が最優先課題となっています。非営利セクターは、ノンコア業務に従事する時間の削減が進まないことの結果、長時間勤務が余儀なくされることで、やりがい搾取が指摘されやすく、サービス残業が蔓延している分野でもあります。

このような間接費のジレンマを解決するために、NPOの業務改善を通じた経営基盤の強化に取り組むことにしました。具体的には、業務時間を削減し、直接的な価値提供に割く時間を増やすことが目標となります。
ノンコア業務を縮小し、コア業務に集中できるようにすることで、受益者がより多くの恩恵を受けられるようになります。

この取り組みでは、現場感と専門知識を持つ人がNPOの課題を精査し、解決方法を提示します。さらに、その解決方法の実装までサポートすることで、持続可能な運営と受益者への価値提供を両立させることを目指しています。

会員情報の転記に年間100時間

公益財団法人YMCAせとうちは、地域社会に貢献するための様々なプログラムを提供する団体です。約70年に渡り、野外教育活動・健康教育事業・国際教育事業など、岡山の地でYMCA運動を行なっています。毎年、野外教育活動の一環で、地域の子どもたちを対象としたキャンプやイベントを開催したりしています。

YMCAせとうちでは、キャンプやイベントに参加する子どもたちや保護者の方々からの受けた参加申込や、会員情報を管理するために、Google Spreadsheetを用いています。
参加者管理・会員管理をするにあたって、参加申込フォームの情報を参加者管理用のシートに転記したり、参加費請求をするシートに転記したりする作業に、年間100時間を費やしていました。人手が少ない中でコアメンバーがこのような業務に時間を割かなければならないため、本質的な価値提供にかけられる時間が少なくなってしまう上に、コアメンバーのモチベーションにも悪影響がありました。さらに、手作業であるがゆえに転記ミスなども発生し、受入可能なご家庭にタイムリーな情報を提供できなかったことで、イベントに参加できたはずの子どもたちを受け入れることができなくなったり、参加費が誤って請求されるなどのトラブルも発生していました。

こうした問題を解決するために、これまでSalesforceなどのシステム導入を試みましたが、専従の職員配置は不可能なうえ、操作が複雑で維持管理が難しかったため、団体内での活用が困難でした。
そこで、所属メンバーにも馴染みがあるGoogle Spreadsheetを用い、関数を駆使して効率化を図ってきましたが、それでもなお大量の時間を必要としていました。

転記が発生する業務の全体像
赤矢印の部分で大量の手作業が発生していました。
(図はYMCAせとうちと和平で会話して整理)

代表理事の太田さんは、当時の状況について次のように振り返っています。

会員情報の管理には膨大な時間がかかり、ある程度まではできていたのですが、ボトルネックとなる部分の解決が自分たちの能力では不可能でしたので、なんとか手作業でカバーしていました。
その結果、本来の活動に充てるべきリソースが奪われていました。この状況を何とか改善したいと考えていました。

そこで、今回プロボノの手を借りて、会員管理業務を自動化できるSpreadsheetへの改善を依頼することにしました。

ヒアリングから課題を洗い出し、改善策を提案

業務フローの整理と課題の洗い出し

業務改善を進めるにあたり、まずは課題の特定に取り組みました。
実際にYMCAせとうちで参加者管理や会員管理に使用しているスプレッドシートを見せてもらいながら、現状の業務フローや使用しているスプレッドシートの関係性を図解して整理しました。これにより、どの部分が非効率であり、どの部分が改善可能かを明確に把握することができました。
次に、理想状態を設定しました。理想状態とは、どの業務がどのように自動化されると良いかを具体的に描いたものです。この理想状態に基づいて、業務フローやスプレッドシートのどの部分が対応し、どのように改善・自動化されるとよいかを確認しました。

今回のSpreadsheet改善の全体像
紫矢印部分を自動転記する関数を、パパゲーノと和平で共同で実装しました。

課題の確認と解決策の提案

その後、3者で打ち合わせを行い、どの転記作業を、どのようにSpreadsheet上で自動化するかを議論しました。転記が発生している業務の全体像の図解をもとに現状の課題を確認した後、どのようなシート構成にすれば自動化ができそうかの議論をしながら、今回実装する範囲を決定しました。

一部でも手作業での転記が残ると、業務の総量を大きく削減することができず、またミスの発生の原因にもなるため、参加申込フォームに応募があった時点で自動的に各シートに転記が為されるような構成を心がけました。また、今後のメンテナンスをなるべく容易にするため、Google Apps Scriptなど専門的な知識が必要な技術は使用せず、Google Spreadsheetの関数のみを使用しました。

改善策の実装

その後、パパゲーノ・和平で協力して上記のシートの実装に取りかかりました。非同期での作業も含めて2人合わせておよそ10時間ほどで実装が完了しました。

提案段階から実装段階までで各社で要した工数

実装完了後、改めてYMCAせとうちのお二人と打ち合わせを実施し、これまでの業務が問題なく行えるかの確認を行いました。また、実際にシートを使用されるスタッフの皆さんに伝えるべき操作方法や注意事項についてすりあわせを行いました。

この改善により、年間100時間かかっていた作業が95%以上削減されることとなりました。

取り組みによる社会価値と投資対効果

和平・パパゲーノにおける社会価値と投資対効果

今回の取り組みでは、課題の整理から解決策の実装までおよそ16時間の工数を要しました。仮に作業者の時間単価を5,000円と仮定すると、YMCAせとうちの業務改善に対して80,000円の投資を行ったと言えます。(A1-b)

そしてこの結果として、YMCAせとうちにおける参加者管理・会員管理の業務を自動化して年間100時間分の業務のうち95%(年間95時間分)以上の削減に成功しました。仮にスタッフの時給を2,000円と仮定すると、年間
で、190,000円のコスト削減
ができたことになります。この業務改善の効果が波及する期間を5年と仮定すると、950,000円分の社会価値を創出したことになります。(B-a)

よって、生み出した社会余剰(※社会価値の利益に相当)は870,000円相当と考えられます。

和平・パパゲーノの社会価値計算書

YMCAせとうちにおける社会価値と投資対効果

今回の取り組みで、2社から16時間分のボランティアを受け入れたため、80,000円分の収益を得たと捉えることができます。(A1-a)

また、今回の取り組みの準備等に、YMCAせとうちではおよそ8時間の工数を要しました。仮にスタッフの時給を2,000円と仮定すると、16,000円分の投資をしたと考えられます。(A1-b)

短期的に見れば差し引き64,000円の経済価値が生まれていると言え、さらに5年間で950,000円分の業務削減ができることから、長期的に見ればさらに950,000円分の経済価値を得ることができると考えられます。

また、このコスト削減分は、本質的な価値提供への投資やスタッフの働く環境の改善に充てられることになります。YMCAせとうちの有安さんによれば、これまでスタッフが所定時間外で行っていた業務が削減されたことで、残業時間の削減に繋がったとのことです。
また、今後さらに業務が効率化・削減されていくことで、所定時間内に本質的な価値提供にかけられるようになると、さらなる社会価値が生まれることが期待されます。(B-a)

これらのことを踏まえると、経済価値だけでも合計で1,014,000円相当の価値が生まれており、さらに社会価値も生まれていくと考えられます。

YMCAせとうちの社会価値計算書

生み出した社会余剰の総計

今回の3者による取り組みで、社会全体に生み出した価値や社会余剰は、次のようになりました。経済価値のみでも934,000円(A1-cとA2-cの合計)生み出しております。
さらに、今後YMCAせとうちがより本質的な価値提供に時間を割けるようになったり、スタッフの環境が改善されることにより生まれる新たなインパクトについては、現時点では計測ができませんが、今後も注目していきたいと考えております。

連結社会価値計算書=3者による社会価値の合計
※1: A2-bで認識済みなので、二重計上を割けるため、人件費削減相当額はここには計上していません。

今回実施してみての感想

YMCAせとうちからのコメント

代表理事 太田直宏さん
なんとかコストをかけずに自分たちの力で解決しようと長年努力をしていました。「誰かとタッグを組んで解決へのチャレンジができないか」と言う思いもずっとありましたが、実際に繋がりのある方もおらず、困っていました。
そんなタイミングでこのプロジェクトと出会わせていただき心より感謝しています。当初は半信半疑でしたが、プロジェクトを成し遂げた今は満足しかありません。やはり餅は餅屋ですね。まだまだ順調に問題だらけですが、希望の光が見えています。

有安紀さん
数年前からネットを通じたキャンプの受付業務を行っていたのですが、内部で受付表を作成していたので、慣れない作業に時間が取られてしまう上、しばしばヒューマンエラーが起こっていました。今回、ご協力いただいたことで、業務の効率改善を図ることができ、今後のシステムについても大きなヒントが得られました。
この度はありがとうございました。

パパゲーノからのコメント

千葉真希さん
今回のプロジェクトは、団体様の業務効率化はもちろん、地域活動に参加される子どもたちやご家族のユーザー体験向上にも繋がるものだと感じています。このような魅力ある事業の一部に貢献できたことを嬉しく思います。

代表取締役CEO 田中康雅さん
DXは善意ある行動を、現場で働く人の善意に依存した形ではなく、持続性・再現性のあるものにしていく上で「非営利セクターにこそ必要」だと思います。一方で、予算の少ない非営利組織のDXは「儲からない」という理由でなかなか進んでいないのが現状です。
この難問を解こうとする和平さんの挑戦を心より応援しております。

団体情報

公益財団法人YMCAせとうち

代表理事 正野隆士・太田直宏
URL: https://setohime-ymca.org/
所在地:岡山県岡山市
事業内容:
YMCAせとうちは1953年に「岡山YMCA」として発足しました。2013年4月1日に「公益財団法人」として認められ、「YMCAせとうち」に名称を変更し、岡山のみならず、香川県を中心とした四国地方での働きを行い始めました。また、2018年に起こった西日本豪雨災害以降、真備・平島地区のこどもたちや家族の方を中心にリフレッシュのキャンプを継続的に行なっています。約70年に渡り、野外教育活動・健康教育事業・国際教育事業など、岡山の地でYMCA運動を行なっています。

株式会社パパゲーノ

代表取締役CEO 田中康雅
URL: https://papageno.co.jp/
本社所在地:東京都渋谷区
事業内容:
「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指して、精神障害に関するリカバリー(自分らしい生き方の追求)を広める神奈川県立保健福祉大学発ベンチャー企業です。障害福祉やメンタルヘルスの最適解を研究と社会実装の両面でリードできることが強みです。企業のDX支援、精神障害により働くことが困難な方の就労支援、アートプロジェクト「100 Papageno Story(ワンハンドレッド・パパゲーノ・ストーリー)」を運営しています。
※神奈川県立保健福祉大学発ベンチャー称号記の授与について https://www.kuhs.ac.jp/shi/news/details_01930.html

株式会社和平

代表取締役CEO 阪田直樹
URL: https://www.hopin.co.jp/
本社所在地:福岡県福岡市
事業内容:
「複雑な市場の相互作用を紐解く」をミッションに掲げ、国際系NPOの理事を務めた阪田・中島が2020年に共同創業。企業によるボランティア・寄付活動を推進するプラットフォームcivicship(シビックシップ)の開発や、NPOの業務改善に取り組みながら、「データを活用としたソーシャルビジネスの共創」をテーマに事業開発支援サービスを提供しています。