その赤子 母の乳房に吸い付けず 母は気病みて 鬱に伏す 家に残れるてて親は 他家を廻りて 貰い乳 気の善いをみな等 赤子にも 吾が児と隔てず 乳与う 育て育てと乳与う 後に生れたる 鬼の子ひとり 鬱より戻りし母親に 背に赤子を括られる お前が背負えと括られる この家に生まれたをなご故 母も背負えと絡みつく それが運命と絡みつく 地を這うように鬼の子は 空も仰がず鬼の子は 赤子をあやし母の手引きて 逆風すさぶ荒野ゆく 母との別れも鬼の子に ひとつの救いも齎さず
生きてほしい、とは思っている。 だが、それは……。 北東北の山奥、ド田舎のさらに山の上。封建的な男尊女卑の家父長制が色濃く残る地域で「長男」として君臨するこの兄に対して、母親は過保護であり過干渉だった。そして兄から二十歳離れて生まれた末っ子の長女である私は、母によってこの兄へ捧げられたも同然だった。 陰に日向に世話をせよ、尽くせ、と。 今にして思えば、彼女には彼女なりの事情があったのだろう。だからと言って「すべてを許す」なんて心情には到底なれないが。 十二指腸潰瘍
指先に力を込め、半円形のカムスイッチを捻る。ブウゥゥゥンと長く余韻をひきながら、酸素発生装置は動作を止めた。ポン・ポン・シュー。リズムを刻みながらこの部屋を満たしていた音が消え、耳の底がしんとする。 午前三時半。この後、何をしたらいいのだろう? ああ、取り敢えず、この子に丁度いい箱を探してこなくちゃ。 連日の熱帯夜と、介護での寝不足が続いたせいだろう、少し頭が痛い。汗ばんだまま着替えて外に出るには出たが、探すあてなどあろうはずもなく、ただただふらふらと歩きまわる。誰も