見出し画像

芸歴四十周年「立川談春独演会2024年」6月22日昼(その1)〜絶品の「粗忽の使者」

今年の1月から有楽町朝日ホールで続いている、立川談春芸歴四十周年記念興行「立川談春独演会2024」、3回に1回程度足を運んでいるが、今月選んだのは6月22日土曜日の昼公演。お目当ての演目は「妾馬(めかうま、めかんま)」。

登場した談春は、自身の母親の話をした。母親は中学校時代、授業の一環で牧場の牛を写生しにいく。人を喜ばせることが好きだった母は、友人を喜ばせる話をしながら歩いていたところ、肥溜めに落ちてしまう。「臭い」と言われながら、水で全身を流してもらい、給食を食べて帰った母だが、以来中学には行かなくなった。結果、談春曰く、漢字はおろか、ひらがなもロクに書けず、知識も乏しかったという。

これまで肉親の話をあまり聞いたことがなかったので、ちょっと珍しいと感じた。

そして入ったのが「三人旅」から「おしくら」。「三人旅」は、大師匠の五代目柳家小さんが演じ、談志にも受け継がれているが、“発端“〜“びっこ馬“〜“鶴屋善兵衛“までであり、「談志百席」にもその部分が収録されている。この後、「おしくら」になるのだが、三遊亭圓生が演じており、談志は談春に圓生をもとに演じるように言った。

談春は「そうした大事な話」として演じた。談春は“飯盛女“という言葉を紹介した。宿場で客に給仕する女性だが、宿場女郎という意味もあった。“所変われば品名が変わる“で、「三人旅」で三人の男が旅した場所では、“飯盛女“を“おしくら“と称した。三人に当てがわれた“おしくら“は。。。。

一度引っ込み、羽織を着て登場した談春、二席目はネタ出しの「粗忽の使者」。柳派らしいネタであり、五代目小さんも得意とした。談春は、「圓生独演会に、小さんがゲスト出演した感じだね」。

談春の「粗忽の使者」は、昨年9月にも聴いているのだが、その時は談春〜三三の「牡丹灯籠」リレーで、集中力を使い果たしてから聴いたように記憶する。

今回は、こちらの心技体も揃っており、絶品の「粗忽の使者」を堪能した。

落語世界の大名は赤井御門守(あかいごもんのかみ)。談春は、ここで赤い門について説明する。大名は将軍家から奥方を迎えた際、門を朱塗りにしたそうだ。東大の赤門は、加賀前田家のそれである。

御門守に仕え、可愛がられたのが地武太治部右衛門(じぶたじぶえもん)。これがとんでもない粗忽者で、普通の人としての行動ができない。それでも殿様は、なんとか手柄を上げさせようと、地武太を起用する。

この日は他家への使者を送る用があり、周囲の不安をよそに、御門守は地武太にその大役を仰せつける。

この地武太治部右衛門が繰り広げる行為の馬鹿馬鹿しさは尋常ではない。それ故に、聞き手を「そんな人いるはずはない」と現実に戻らせていはいけない。そのためには、話術とともにテンポが重要で、談春のそれは見事なもの。

さらに、治部太に対峙し振り回されるのが他家の家臣、こちらはいたってまともな御仁。この二人の対比が可笑しいのだが、演じ分けが難しいだろう。これを一人の演者が、左右に首を振り、具現化する。落語という芸の素晴らしさである。

客席は大いに沸いて、後半へとつながる



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?