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“大丈夫“ってだいじょうぶ?〜いくつかの辞書を引いてみた(その1)

日本経済新聞、6月4日付夕刊一面の「あすへの話題」コラム、“「大丈夫」“というタイトルで、鳥飼玖美子がこう書き始めていた。

<9歳の女の子に食べ物を勧めたら「だいじょうぶ」という答え。どういうことが分からず本音を聞いた。どうやら苦手な食材で食べたくなかったらしい。小学4年生にして、断る際に相手の気持ちを傷つけないよう婉曲表現を使っているのかと驚いた。>

この「大丈夫」、私も時折自分で使っているのだが、しばしば「この表現って、だいじょうぶ?」と自問していた。

コーヒーを注文する、「ミルクとお砂糖は?」と訊かれて、「大丈夫です」と応える。“正しい使い方か?“、“ください“ or “いりません“、相手は分かったのだろうかと気になる。前述の記事でも例に出しているが、コンビニで「お箸いりますか?」と聞かれ、「大丈夫です」と私も答えている。

鳥飼氏は、女の子に<「大丈夫」だけでは断りだと理解されないこともありそうなので、「欲しくない時はその気持ちをちゃんと伝えて大丈夫だよ」と話した>。

ふと思い立ち、辞書で“大丈夫”を引いてみた。

広辞苑第七版(2018年)は、<①(ダイジョウフとも)立派な男子>と、おおもとの意味をあげた後、<②しっかりしているさま。ごくけんごなさま。あぶなげのないさま。>、<③間違いなく。たしかに。「大丈夫、勘定は払うよ」>と続き、“いりません“という意味は掲載されていない。さすが広辞苑である。

それではと、一番ものわかりの良さそうな、新明解国語辞典の第八版(2021年)にあたった。こちらは、まず、“だいじょうふ【大丈夫】“という見出しがあり、<金銭の誘惑に負けたり権威に屈したりしない、志の高い男子。「だいじょうぶ」とも>。広辞苑では“立派な“とした表現について、なかなか具体的に書いている。

“だいじょうぶ【大丈夫】“という見出しが続き、こちらには<①危険や損失・失敗を招く恐れがないと断定できる状態だ。>、そして、<②よい結果になることを請けあう(信じて疑わない)様子。(感動詞的な意味合いを含むことが多い)>。

これは興味深い。新解さん(新明解の愛称)は、友人から「大丈夫!勘定は払うよ」と言われたきり、踏み倒された経験があるのだろう。

そして、ここにも“いりません“の意味は掲載されていない。やはり、辞書的には使ってはいけない“大丈夫です“なのだろうか。

明鏡国語辞典第二版(2010年)を見る。ありました、ありました。3番目の語釈としてこう書かれている。

<【一】③〔俗〕相手の勧誘などを遠回しに拒否する語。結構。「『お一つ(ひとつ)いかが?』『いえ、大丈夫です』」「『砂糖は二個?』『いえ、大丈夫です』」[表現]そんな気遣いはなくても問題ないの意から、主に若者が使う。危なげがない場面で使う用法で、本来は不適切。>

例文がまた色っぽいではないか。しかし“本来は不適切“とはっきり書かれている。なお、第三版が2021年に出ているが、特に変更はない。

ついでに2022年に出た三省堂国語辞典第八版を調べてみた。新解さんと同じ出版社だが、載っていた。<【一】③〔俗〕よろしい。けっこう。「おさらをお下げしても大丈夫ですか・『レジぶくろは大丈夫〔=ご不要〕ですか』『はい、大丈夫です〔=いりません〕』」>

さすが2022年、例文が今どきである。そして、“不適切“とは書かれていない。ただし、誤解がないよう丁寧に説明が付され、“よろしい“、“けっこう“に置き換えるべきと、やんわり諭しているようにも見える。

明鏡国語辞典にも“結構“が語釈として付されている。

明日は、この“結構“、“けっこう“を考えてみる。“もう、けっこう“と言わず、お付き合いして欲しい


(続く)


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