見出し画像

クィーンを通した英国現代史〜「エリザベス女王〜史上最長・最強のイギリス君主」

買っても読んでいない“紙の本”、いわゆる“積ん読“は、本棚からあるいは本の山から、物理的にモノが目に入るのでそれなりのプレッシャーになる。

一方、電子書籍の問題は、それが端末内に埋もれ、所持していること自体を忘れることである。一応、“未読“のフォルダーを作り(Amazon Kindleでは‘コレクション‘と呼ぶ)、管理しているが、積極的に覗きにいく必要がある。整理しながらも能動的に見にいかないので、結果的に意識から消える。

プラチナ・ジュビリーを前にして、思い出した本がある。君塚直隆著「エリザベス女王〜史上最長・最強のイギリス君主」(中公新書)である。もともとは、Netflixのドラマ「ザ・クラウン」(昨日の式典中継で、王室記者が「事実に反するとして、女王はこのドラマを観ていない」と話していた)を観ている時、この本の存在を知り買ったのだ。調べてみると2020年に購入し、埋もれていた。

書いている君塚氏は、昨日紹介したNHKの番組にも登場した、イギリス政治外交史などの専門家である。昨日の式典中継でも解説者として、驚異的な“英王室オタク”ぶりを披露していた。もちろん、良い意味である。

そんな方が書いたこの本はお勧めである。面白くて、一気に読んだ。語り口が分かりやすい上に、エリザベス女王を軸に書かれているので、とても分かりやすい。女王を通じて、英国現代史について、一定の理解も得られる。

NHKの番組も、この本をかなり参考にしたと思われ、番組でも取り上げられた、女王訪日の際のコメントも引用されている。日本訪問で最も印象深かったことについて、女王は<「それは陛下(昭和天皇にお目にかかり、教えを受けたことです」>とし、その内容について語る。

同書ではさらに、昭和天皇が皇太子時代に訪英し、<女王の祖父ジョージ5世から「立憲君主とは何か」を様々なかたちで学んでいた>ことに触れ、ジョージ5世→昭和天皇→エリザベス女王と、関係が繋がっていることに触れる。 こうした皇室外交が、戦争などの様々な困難にさらされる国と国の関係をつなぎ留めていたことが分かる。

この本を読むと、エリザベス女王の脅威的な活動量が見える。即位当初は多くの植民地が残っていたが、次々に独立し英連邦ーコモンウェルスを形成する。さらに、その中にはオーストラリアやカナダといった、女王を国家元首としている。

こうした国々を頻繁に訪問するのだが、英国を中心とするピラミッド型の連合から、フラットな組織へと歴史が動く中で、この国家連合をつなぎ止めるための訪問でもあり、決して儀礼的なものではないのだ。結果、現在54カ国からなるコモンウェルスは、女王をその長として認めており、その中の15カ国が英連邦王国(Commonwealth realm)としてエリザベス女王を国家元首としている。

この本を読んで改めて感じるのは、エリザベス女王の政治家・外交官としての力量、ぶれない姿勢(例えば人種差別については徹底して反対の立場を取る)に加えて、変化に対する対応力である。

戴冠式を初めてテレビ中継したことに始まり、世の中の変化に王室がどのように動くことが、国民に受け入れられるかを考え続けた。その象徴的なものが、ロンドン五輪の開会式だった。ダニエル・クレイグ扮する007にエスコートされ、ヘリコプターからダイブしスタジアムに登場した演出は、忘れることができない。

日本の天皇制、「立憲君主とは」を考える上でも、参考になる良書である



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?