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「愛と希望の街」の静かなる怒り〜大島渚の監督デビュー作

小林信彦「日本映画ベスト50」クエスト。細々と続けている。大島渚監督の「愛と希望の街」である。小林さんは、<そして、一九五九年大島渚が出てくる>と始め、<双葉さん(注:映画評論家の双葉十三郎)が、『イデオロギー性、テーマ性がよく論じられるが、実は技術的に非常に腕のいい映像的話術をもった人なのである』と書いている>。そして、この作品が<大島渚の出世作>とする。

大島渚が監督/脚本の1959年作品だが、彼は「鳩を売る少年」というタイトルでシナリオを書いた。ウィキペディアによると、松竹が「題名が暗くて地味」ということで、「愛と希望の街」に変えたとのことである。個人的には「鳩を売る少年」の方が良いと思う。どう転んでも地味な作品なのだし。

靴みがきの女性が並んでいる。私が就職した頃は、東京駅の前でも普通の光景だった。ただ、ほとんどは男性だったと思う。丸の内/大手町側は八重洲側より、値段が100円高かったのが面白かった。それもいつの間にかなくなった。

そんな光景が、様々な場所にあり、そうした商売で家族を支えていた人が沢山いた時代である。まだ戦後が残る時代、父親がいない家庭も多かっただろう。その靴みがきの女性に混じって、鳩を売る少年がいる。彼は、病気で靴みがきを休まざるを得なくなった母親を助けるべく、鳩を売っている。

そこで鳩を買う女性・京子を演じるのが、富永ユキ。彼女の家庭と少年の家には、格差がある。そして、少年の売る鳩は。。。。

京子の兄を演じるのは、若き日の渡辺文雄。彼らに、少年の担当女教師も加わり、当時の社会状況が、ある種淡々と描かれる。余計なドラマが排除されている分、現実味がのある作品になっていると思う。鳩という小道具が、ドラマの狂言回し的に登場し、善悪について見るものに問いかける。けれん味は無い映画だが、大島渚の静かな怒りがただよっている。

小林さんは、<大島渚の出世作>と書くが、この作品は本格的な監督デビュー作でもある。

私は、大島渚の映画を観ていなかった。これが最初かもしれない。もう少し診てみようか。小林さんによると、<そして、「青春残酷物語」「太陽の墓場」「日本の夜と霧」の三本が六十年に出た>。

小林さんが日本映画ベスト50に選んだのは、この「愛と希望の街」と、社会的問題ともなった「愛のコリーダ」。後者は、<大島渚の最高傑作>と評している


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