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アルゲリッチ/クレーメル@サントリーホール(その1)〜世界を想い聴くべき曲

2022年6月5日於サントリーホール、マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)、ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)、待望の来日コンサートである。

初めてアルゲリッチのライブを体験したのは、1994年11月6日、サントリーホールでのクレーメルとのリサイタルだった。ホールのHPによると、演奏曲は、
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ2番
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ2番
シュニトケ:ヴァイオリンとピアノのためのロンド
ベートーベン:ヴァイオリン・ソナタ10番

ベートーベンの熱い演奏が印象的で、今回のプログラムの言葉を借りると、まさしく<個性をぶつけあうデュオ>だった。その後、アルゲリッチはロンドンで数度、協奏曲の演奏を聴けた。2000年BBC Proms、シューマンのピアノ協奏曲が凄かった(指揮マイケル・ティルソン・トーマス/サンフランシスコ交響楽団)。ただ、ソロのリサイタルはやらなくなっていたし、室内楽もロンドンでは機会がなかった。

それが、遂に東京でしかもクレーメルとの演奏が聴けるというのは、私にとっては事件以外のなにものでもない。

まずクレーメルが一人で登場。拍手の圧が尋常ではない。1曲目はジョージアの作曲家イーゴリ・ロボダ(1956ー)の“レクイエム(果てしない苦難にあるウクライナに捧げる)“。2014年、ロシアがクリミアを併合したウクライナ紛争の犠牲者に捧げられた曲。この曲は歴史の記憶ではなく、リアルタイムの鎮魂となっている。残念ながら。

続いて、ウクライナの作曲家シルヴェストロフの“セレナード“。1937年生まれ、現役の作曲家はプログラムによると、3月にキーウから脱出しベルリンで暮らしているそうだ。

そして、クレーメルとアルゲリッチが登場。ホールのテンションがさらに上がる。演奏したのは、ヴァインベルクのヴァイオリン・ソナタ5番

ヴァインベルクは、現在のモルドバに<ルーツを持つユダヤ人>。曽祖父・祖父を1903年のユダヤ人迫害により虐殺されている。ヴァインベルクはワルシャワで育つが、ナチスのポーランド侵犯により、単身ベラルーシ、ウズベキスタンで難民生活を送り、その後、モスクワに移る。しかし、ここでもユダヤ人迫害にあい、さらには両親と妹が収容所で死亡したことを知る。

そんな彼の音楽は、人の心の奥底に訴えかける。“不安“、“迷い“、こうした感情が積み上げられていき、全てを総括するような、素晴らしい最終楽章へとつながっていく。今、聴くべき音楽を、クレーメルとアルゲリッチがつむいでいた。

休憩の後は、アルゲリッチのソロ。当日になっても曲名は発表されない。一体、何が演奏されるのだろう

*Apple Music:ルガーノ・フェスティバルでのライブ(ヴァインベルク Vnソナタ5番収録)


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