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遂に出た完全版〜光瀬龍/萩尾望都「百億の昼と千億の夜」(その1)

先月、萩尾望都がアメリカのマンガ賞、“アイズナー賞“で"コミックの殿堂入りを果たした“という報道があった。正式には、“The Will Eisner Award Hall of Fam“である。ちなみに同賞はおびただしい数の賞があり、アメリカのコミック界と日本の構造的な違いを感じるが、まずはおめでたい。

私は萩尾望都作品はかなり読んでいるが、数年前からデビュー作から年代順に読み返している。直近は、1980年から連載が開始された「メッシュ」を読んだ。連載当時、リアルタイムで読んでいるが、改めて読むと、なかなか深い作品である。

「メッシュ」は1984年に終了するが、この先にあるのが1992年から始まる大傑作「残酷な神が支配する」である。

さて、私の萩尾望都クエストは、電子書籍版限定で実施しているのだが、電子化されていない長編マンガがここまで2作あった。一つはジャン・コクトー原作の「恐るべき子供たち」(1979年)、もう一つは、1977年に萩尾が初めて少年誌に連載した光瀬龍原作「百億の昼と千億の夜」(以下、「百億千億」)だ。両方とも実家に紙の本はあるはずだが、取り寄せるほどではない。でも、やっぱり読みたい。

そうしたところ、「百億千億」のカラー頁やイラストを掲載した“完全版“が出版され、電子版も提供された。

当時の萩尾望都の状況だが、前年1976年、連作「ポーの一族」が“エディス“をもって一旦の結末を迎える。(当時は、40年の時を経てエドガーとアランが復活するとは誰も思わなかったと思う)一方で、「アメリカン・パイ」(これも電子化はされていないようだが、紙の本が手元にあった)という素晴らしいドラマを描く。

更に、本格SFマンガ「11人いる!」の続編、「東の地平・西の永遠」を発表する。さらに、1977年に入ると、レイ・ブラッドベリのSF小説マンガ化をスタートする。

こうして、少女マンガの世界でSF的な作品を定着させた萩尾望都は、追いかけてきた手塚治虫や石ノ森章太郎のホームグラウンド、少年誌(「少年チャンピオン」)においてSF作品を連載する。光瀬龍のSF小説「百億千億」のマンガ化であり、よりにもよって難解な作品に挑戦することとなる。

この“完全版“には、光瀬龍、萩尾望都のエッセイ、萩尾望都のインタビューが掲載されている。

光瀬はそのエッセイの中で、萩尾のマンガ化について、<実際、よくやったものだと思う>、そして<できあがったものににじんでいる、苦渋と悲惨な思いは、まさに戦いを感じさせた>と書いている。

インタビューで、萩尾望都は光瀬龍の作品の魅力について、<切なくて、絶望的で、取り返しのつかないところ。それに、耐えているところ。耐えるところに、矜持と哲学があるところ。>と答えている。

萩尾の「百億千億」、今あらためて読むと、原作の奥深さ、それを視覚化した萩尾の凄さを再認識する。

この作品を言葉でレビューする自信はあまりないが、明日少しだけ試みる。

蛇足だが、「恐るべき子供たち」の電子化を期待する


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