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「木挽町のあだ討ち」、あれは“憑依芸“だったのか〜神田伯山x永井紗耶子の対談

昨日、永井紗耶子の小説「木挽町のあだ討ち」について書いたが、講談師の神田伯山が運営するYouTube「伯山ティービィー」に二人の対談がアップされていた。

まず驚くのは、永井氏と伯山の奥様、古館理沙さんが結婚前からの友人だったということ。理沙さんは、かつて出版関係の仕事をしていて、その関係で知己があったとのこと。

永井氏は、江戸時代の知識を高めるべく、落語会などに通うようになるのだが、その橋渡しをしたのが伯山夫人。彼女は演芸興行の事務所を運営していて、その縁で永井氏は落語会に通うようになり、高座のみならず五街道雲助から直接教えを受けるに至った。

本作を読むと、歌舞伎のみならず、落語・講談の香りが漂ってくるが、その裏側にはこうした出会いがあったのだ。本の帯には、神田伯山のコメントも刷られている。

<大切な人を命懸けで守ることが「忠義」ならこのあだ討ちは、間違いなく本物だ 講談師 神田伯山さん>

こうした話からスタートする対談は、とても面白いものになっているし、「木挽町のあだ討ち」の魅力が立体的に感じられることだろう。

その中で、面白かったのは、本作の登場人物の口から紡ぎ出される様々なエピソードは、彼らがひとりでに話してくれたというのである。伯山は、「“憑依芸“だったんですね」といった反応をしていた。

講談師が張扇を叩き本題に入るような気分で、永井紗耶子がキーボードに向かう、すると登場人物が彼女に憑依したかのように、彼女の頭の中では彼らの声が音を発し、作者はそれを打ち込んでいったのだ。

立川談志が「居残り佐平次」を演じた時、「演者の意識を乗り越えて、佐平次が勝手に動き話した」と言ったことがあった。そうした時の高座は名演となるのだが、「木挽町のあだ討ち」もまさしく書き手の意識を超越して作中人物が存在したのである。

なお、この対談は新潮社の月刊情報誌「波」に掲載されており、5月号の前篇はネットでも読める。ここでは、“憑依芸“の件は登場していないで、6月号掲載の後篇に入るのだろう。YouTubeと共に、テキスト版もおすすめである


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