見出し画像

2009年ハイドパークのブルース・スプリングスティーン(その3)〜アーカイブからの再掲

(承前)

「London Calling」が終わると、今回のツアーの最多オープニング曲「Badlands」に入ります。45000人のコーラスが後方から響いてくる素晴らしさは、最前列でこそ味わえる体験です。ケビンが「ファンタスティック!」と興奮気味、そしてたたみ掛けるように「Night」に入っていきます。ブルースのコンサートの素晴らしさの一つが、この導入部分の勢いです。一気にエンジン全開して、客席を非日常の世界にあっという間に連れて行ってくれるのです。「Night」はワーキング・クラスの人間が、沈滞した昼間の労働から、夜の街へと解放されるさまを歌った楽曲ですが、まさしく非日常への導入曲としてはピッタリのものです。

ぐっと曲調が替わり、「Night」同様、アルバム「BornTo Run」から、「She's The One」、そしてニュー・アルバムからの「Outlaw Pete」。無法者Peteの生涯を描くこの曲は、1本の映画にもなりそうなイメージ。ブルースの、“Outlaw Pete, Can you hear me?”という問いかけがロンドンの空に吸い込まれていきました。

そして、必殺の「Out In The Street」に入ります。観客参加型のこの楽曲で、遂にブルースは長い階段を降りてきて、バリア前を動き始めるではありませんか。“When I'm out in the street”、“Oh-Oh-Oh-Oh”、目の前ををブルースが通り過ぎる、手を伸ばすが空振り。ブルースが長い階段を上って、ステージに戻ろうとしますが、途中ちょっと足を踏み外し「俺は、もう60だぞ。エレベーター持ってきてくれ!」

新曲「Working On A Dream」がスタートしました。観客は、両手を左右に振りながら、合唱します。

I'm working on a dream
Though sometimes it feels so far away
I'm working on a dream
And how it will be mine someday

45000人が、それぞれの夢を胸に秘めながら、歌い、そして手を振る、これまでの疲れがふっとび、明日に向けて元気がみなぎる瞬間でした。


皆で夢をシェアしあった後は、ぐっと趣が変わります。後で、この日のコンサートを振り返ると、コンサートのへそのような時間、又は全体を4楽章制のソナタに例えると、第2楽章、緩徐楽章にあたるパートがここからの3曲です。

別にスローな曲という訳ではありません。ただ、スプリングスティーンの歌の持つ重厚さ、我々が本来直面している現実を、改めて再現する内省的な曲目だったと思います。僕にとってはLiveで初めて聴くことになる「Seeds」、家族を抱えて流浪する男の絶望の歌です。「Johnny99」、自動車工場が閉鎖され解雇され、職を見つけられず、殺人事件を起こして懲役99年を言い渡された男の歌です。ジョニーは裁判官に訴えます、「正直な人間には返済できない金額の借金があり、銀行は抵当権をたてに自分の家を取り上げようとしていたのです」、今のアメリカ、イギリスがまさしく直面している現実です。(注:当時は、サブプライム問題の真っ只中でした)「Youngstown」、オハイオ州鉄鋼業の街、“タンクや爆弾を作るための鉄を精錬し、それで戦争には勝ったけれど、朝鮮やベトナムに送られた息子達は何のために死んで言ったのだろう”と歌われます。

がらっと雰囲気が変わり、軽快なバック・グラウンドと共に、リクエスト・タイムの始まりです。再び、ブルースがステップを降りてきます。皆、用意してきたリクエスト・ボードを掲げます。僕はというと、心の落ち着きを取り戻し、カメラ撮影と、ブルースにタッチする事に集中します。そして、こんな感じでした。


さらに、こんな画像がYoutubeにアップされていました。帽子をかぶった男性(これが、ケビンです)の後ろにいる、黒いTシャツが小生です。接触箇所は、アーム・バンドとジーンズでした。

まずは、「Good Lovin'」ラスカルズの曲のカバーからスタート、そして数多くからのリクエストから選ばれたのは、「Bobby Jean」、友への別れの曲です。その中で、ブルースは“We liked the same music we liked the same bands we liked the same clothes”と歌います。別れの曲ですが、会場にはこのフレーズと共に、新しい出会いがあります。続いて、「Trapped」。80年代から、ブルースが演奏してきているジミー・クリフの曲です(注:初来日時にも演奏されました)。"Trapped!(捕らわれた!)”とシャウトする、ブルースと我々、解放へのエネルギーが高まってきます。

Gaslight AnthemのBrian Fallonがステージに呼ばれスタートしたのは、「No Surrender」。自身の曲に続き、ブルースの曲で共演できるなんて幸せなヤツです。僕が、後から勝手に名づけた、今日のコンサートの第3楽章、スケルツォの締めくくりは、「Waiting On A Sunny Day」です。45000人が、手を振り合唱、ラッキーな少年はこの映像の様にブルースからソロで歌わせて貰いいます。こうして、コンサートはフィナーレへと入っていきます。

閑話休題
コンサート中盤から、暑さと疲労と飲酒で、退場者が出現します。完全にパックされている状態の中、体調が悪くなった観客は前方に運ばれ、柵を乗り越えさせて、係員に渡すというもの。僕も数人の人を持ち上げる羽目になりました。私のように、最前の柵の近くにいる人には、紙コップで給水されたので助かりました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?