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史上初、女性だけの寄席定席〜浅草演芸ホール3月上席夜の部

歴史的な場面には、できるだけいあわせたい。今月10日まで、浅草演芸ホールではそれが繰り広げられている。

史上初、寄席の定席において、女性演者だけで興行が行われている。題して「桃組」、主任は蝶花楼桃花である。私は2日目の3月2日、画期的な出来事を目撃するべく浅草を訪れた。

長らく落語は男性のものと考えられていた。代々、落語は男性の芸として受け継がれ、その芸・演出は男性が演じることを前提として練り上げられていた。そうした世界に飛び込み、真打にまで昇進したのが、この日も出演した三遊亭歌る多古今亭菊千代である。1993年、それほど昔ではない頃に、二人は初めての女流真打となる。

その後、多くの女性落語家が真打に昇進、上方でも桂二葉が台頭する中、人気者の春風亭ぴっかり☆が、真打に昇進、初代蝶花楼桃花となった。スター候補の誕生も後押しし、この日の興行となったのだろう。

落語家を志望する菊千代が「女性の落語家はダメですかね?」と聞くと、先代の柳家小さんは「難しい」が、「まあ、要はうまけりゃいい」と言ったそうだ。

漫才などの色物も含めてだが、この日の高座を通して、“上手い“と思った。そして、その上手さで客席は大いに受けていた。さらに、「絶対にこの芝居を成功させる」という熱意が、各演者から感じられた。

そして、女性ばかりの楽屋に身を置き舞台に上がることの楽しさ、精神的な開放感が感じられ、それが彼女たちの芸に現れていた。 素晴らしい企画で、ひな祭りの恒例として欲しい。

最初に、爆笑したのは“余興“と称した企画。登場したのは、すず風にゃん子・金魚の衣装で登場した、桃花と三遊亭律歌。 にゃん子・金魚が大好きだという桃花らが、トリビュート漫才を披露するのだが、これが本当にそっくりに演じる。芸人の凄さを感じる。

その後も、熱演が続くのだが、どの女流芸人も寄席、特に落語・講談における女性のハンデを克服すべく、自分の個性が光るような工夫を必死にやってきたことが分かる。また、華やかな流れの中で、菊千代「金明竹」(手話指導を含む)、歌る多「替り目」といったベテランが、押さえるところをしっかり押さえる。中入り後は、時代を担う柳亭こみちが「猿後家」でつなぐ。

トリの桃花を除くと、最も拍手が大きかったのは、講談の七代目一龍斎貞鏡だろう。今年真打昇進予定とはいえ、今は二つ目。通常の席であれば、滅多にない深い位置(トリに近い)での上がりである。浅草演芸ホールの高座に上がるのは初めてということで、私も初見であった。

まず、声が良い。腹から出る迫力のある言葉は、「黒田節の由来」、聴き手に響いてくる。姿も美しく、テンポも良い。 そのはずで、父が八代目一龍斎貞山、祖父が七代目貞山というサラブレッド。雑誌「東京人」2023年2月号は講談特集で、彼女のインタビューが掲載されている。それによると、本人も覚えていたなったそうだが、四歳で講談を読んだものが録音されていたらしい。既に人気の神田伯山が当年40歳、貞鏡が37歳、講談界が盛り上がってきた。そして、この桃組公演に講談枠を二枠(この日は、神田茜)を設けた番組もエライ!

ちなみに、講談界は1960年代から女流講談師が増え、「ポルノ講談」で物議をかもした、天の夕づるという女性演者も登場した。落語家に比べ、なり手がいなかったことも影響し、早くから女性が活躍したのだろう。

そしてトリで、本企画のプロデューサーでもある蝶花楼桃花、任侠映画好きを披露、藤純子の緋牡丹お竜を再現した。演目は新作落語、三遊亭白鳥作を改作した「老人前座ばば子」。熱演で場内を沸かせ、歴史的な興行を大団円に導いた。

一つ気になったのは、女性の入門者は減少しており、落語協会の女性前座は一人になっているらしい。この興行が入門の呼び水になればとも思う



2023年3月2日 浅草演芸ホール上席夜の部「桃組公演」

古今亭雛菊 庭蟹
春風亭一花 駆け込み寺
桃花・律歌 余興:にゃん子・金魚トリビュート漫才
林家きく姫 動物園
三遊亭律歌 権助魚
翁家小花 大神楽
神田茜 でもね
古今亭菊千代 金明竹
松旭斎美智・美登 マジック
三遊亭歌る多 替り目
中入り
林家つる子 スライダー課長
柳亭こみち 猿後家
ニックス 漫才
一龍斎貞鏡 黒田節の由来
柳家小菊 粋曲
蝶花楼桃花 老人前座ばば子


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