歌舞伎「桜姫東文章」〜名コンビの放つ”色気”

歌舞伎座を沸かせた、”孝玉コンビ”という時代があった。言うまでもなく、”孝”は片岡孝夫、現在の15代目片岡仁左衛門、”玉”は坂東玉三郎である。私が大学の頃であり、幸運にも二人が演じた、「助六」を歌舞伎座で観た。1983年3月、助六演じる孝夫39歳、揚巻役の玉三郎33歳である。

髭の意休には、孝夫の父、13代目片岡仁左衛門、白酒売り実は助六の兄曽我十郎に2代目中村扇雀、昨年他界した坂田藤十郎である。13代目はその時すでに人間国宝、残りの3人も後に人間国宝となる、なんとも豪華な配役である。

この「助六」を観なければ、歌舞伎を好きにならなかったかもしれない。絢爛豪華、伝統美の中にもユーモラスな場面もある楽しい舞台、古典ではなく現代に通じるエンターテイメントであることを知らされた、衝撃の舞台だった。

あれから40年近くが経ち、仁左衛門も玉三郎もキャリアの集大成というフェーズに入っているが、その一つとして、36年ぶりに鶴屋南北作「桜姫東文章」上の巻が上演され、4月7日夜の部を観劇した。

桜姫は、押し入った盗賊に襲われ、子を孕み産み落とす。その一夜の体験から、目に入った入れぼくろ以外は、正体の分からない悪漢、権助に桜姫は思いをはせ、ついには再会することとなる。この再会の場面が、序幕第二場“桜ケ谷草庵の場”である。

これが凄かった。玉三郎扮する桜姫は、仁左衛門演じる権助の入れぼくろを見て、権助があの時の盗人と知る。盗人から辱めを受けたことに、桜姫は「逢ふて心に恥づかしい。又、その中にどうかして、逢ひたいことも折にふれ、たとへよからぬ営みを、する人とても姫御前は、一度なりとも肌ふれて」(夕陽亭文庫より)とその思いを語り、いつか逢えた時の為にと、自分の腕に同じ入れぼくろを入れたと見せる。

とんでもないお姫様である。そして、お姫様自ら権助に迫り、女の手で権助の着物を脱がせる、そして自分も着物の帯を解き。。。。というところで草庵の御簾が降りる。とんでもないエロティシズム、二人の溢れ出る色気、場内見物は息を飲む。こんな空気を作れる役者は、この二人をおいていないだろう。

この行為によって、姫、さらに罪をかぶる僧侶・清玄(仁左衛門の二役)は咎めを受ける。桜姫は、姫に想いを寄せる清玄の運命は、権助はどう絡んでくるのか、というところで上の巻は幕となり、6月に上演される、下の巻へと続く。

楽しみは続く

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