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久方ぶりの「三越落語会」(その1)〜“箱入り娘“から古今亭菊之丞

かつて落語は寄席で聴くものだった。今もそれは続いているが、“ホール“で聴く落語、“ホール落語“というもう一つの形態がある。

好きな落語家、いわゆる名人だけを、じっくり聴きたい。ネタ出しがされていれば、聴いてみたいと思っていた演目に出会える。

こうしたニーズに応える形で、“ホール落語“が出発した。その最初が1953年に始まった「三越落語会」。主催は三越伊勢丹で、日本橋本店内にある三越劇場が会場である。

2024年9月25日は、第634回の公演となった。

随分昔に何度か行っているが、久方ぶりの「三越落語会」。演目は決まっており、中にお目当てがあったからだが、それはおいおいと。

三越劇場は、1927年に開場された。1・2階計514席、時代を感じさせる内装は素晴らしいものがある。“百貨店“という場所が“ハレ“の場であった時代を感じさせる。

通常の落語会に比べると、やはり観客の年齢層が高い。外商(こんな言葉も死語になりつつあるのだろうか)の顧客もいるようで、三越の営業担当が挨拶している姿も目にする。

さて、落語会の方だが、トップバッターは、今年真打に昇進した林家つる子。マクラで海老名の女将さんが使った、“お天塩(おてしょう)“という言葉を紹介する。天塩皿・小皿のことだが、分からない人も増えている。

演目の方は「箱入り」。私もそれなりに落語は聴いているつもりだが、演題すら知らない噺がまだある。これがその一つ。箱入り娘で世間知らずの娘が、嫁入りの為に行儀見習いに出かけ、そこで起こすドタバタである。古典落語のようでもあるが、新作だった。ここでも言葉のギャグが登場する。「大根を千六本に」と頼まれたお嬢さん、大根を切りながら一生懸命数えている、ひょっとしたら現代の“アルアル“かも(笑)。古典落語かとも思わせる快作である。

続く三遊亭遊喜「加賀の千代」。この噺、前回はどの演者で聴いただろうと検索したところ、新宿末廣亭、同じ遊喜で聴いていた。

古今亭菊之丞、着物は師匠の形見を寸法直ししたと言う。臙脂色の生地に赤い襟がのぞく。圓菊師匠の明るい高座姿が思い浮かぶ。こうして、師匠の記憶をつないでいく、大事なことだ。

演目は「三味線栗毛」。大名・酒井雅楽頭(うたのかみ)の次男・角三郎は、父親と折り合いが悪く、年100石という扶持で下屋敷で暮らしている。そんな境遇でも、角三郎は腹が座っており、愚痴をこぼすことなく、日々過ごしている。

そんな角三郎と療治を通じて昵懇になるのが、盲人のあんま錦木。この二人の友情・出世を描いた一席。
菊之丞の高座は、マクラで言及した圓菊師匠の華やかさを継承し、この“ちょっといい話“を引き立てるものだった。

この「三味線栗毛」は「錦木検校」という題名でも演じられる。菊之丞のバージョンとは少し違い、“感動“を前面に出した人情噺のような型となる。

私が持つ「三味線栗毛」の音源は菊之丞の大師匠・古今亭志ん生のものだが、「錦木検校」の方は、本日のトリ、柳家喬太郎の口演である。

私のお目当て喬太郎については、また明日


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