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「お葬式」、“食“の次は“お金“〜伊丹十三監督「マルサの女」

本日(2月11日)、日本映画専門チャンネルの伊丹十三監督作品劇場の放送は、第3作「マルサの女」です。

1980年代半ばから後半にかけて、私は銀行の窓口で勤務していました。まさしくバブル景気の真っ只中、お金が踊っていました。印象的だったのは、千円札を大量に持ち込む顧客。100枚ごとに輪ゴムでまとめられていましたが、そのお札は決してキレイなものではありませんでした。

今からは考えられないのですが、当時は銀行口座の開設はいたって簡単でした。本人確認書類の提出など必要なく、愛犬名義の口座を作っていた人もいたと言われています。上司に、「あの1000円札を大量に持ち込んでいるお客さん、何者なんでしょう?」と尋ねると、「きっとパチンコ屋だよ」と。なるほど。

「マルサの女」が公開されたのは、まさしくその頃、1987年でした。 そして、この映画を観た時にわかりました、その1000円札の正体が。ここからは、私の推測ですが、パチンコ屋は売上の一部を“抜いて“、つまり税務申告から外して、別口座へと入金したと思われます。

伊丹十三は、監督第1作で誰もが経験する「お葬式」を戯画化し、第2作はこちらも欠かせない“食“をテーマに「タンポポ」を作りました。そして、第3作は“お金“です。

「タンポポ」は、伊丹十三の趣味満載で、とっ散らかっているけれど、愛すべき映画と書きました。この「マルサの女」は、エンタメの王道を行くかのように、映画の本筋とがっぷり四つに取り組んでいます。前半は、税務署員時代の主人公、板倉亮子(宮本信子)を描き、後半は彼女がマルサ(国税局査察官)へと昇進した姿を描きます。観るものを飽きさせない構成になっているとともに、前後が見事に繋がっていきます。

伊丹十三が、本気になって「受ける映画」を作った感もある「マルサの女」は、日本アカデミー賞の作品賞ほか、主要部門を総なめにしました。山崎努、津川雅彦始め、“伊丹組“の強力な俳優陣、今改めて見ると、「こんな人も出ていたのか」と感心します。

バブルの頃は、“お金“に振り回されていた人が多数いました。形を変えてはいますが、今もあまり変わらないのかもしれません。再見して、そんなことも感じました。時代は変わるけれど、本質は同じ。そんな普遍的なテーマを描いた「マルサの女」は、色褪せない名作です。

一つ思い出しました。当時、荻窪に行列のできるラーメン屋がありました。その店はある時、脱税で摘発され、写真週刊誌で報道されました。税務署員は、ラーメン屋に並ぶ客の人数を数え、さらに物証として出されたゴミを回収し、その中の割り箸の本数を数えました。結果、申告された売上との齟齬を指摘したのでした。

「マルサの女」は、現実に起こっていたのです


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