見出し画像

坂東玉三郎の神々しさ〜三月大歌舞伎「髑髏尼」「吉田屋」

久方ぶりに歌舞伎座へ。

三月大歌舞伎第三部、お目当ては坂東玉三郎である。

最初の演目は、「髑髏尼」。明治後期から昭和にかけて歌人・著作家として活動した、吉井勇の作。最後に上演されたのが1962年、主演は六代目中村歌右衛門。これを、玉三郎が自身の演出で上演する。また、1962年は武智鉄二補綴・演出によるものだったが、今回は原作に近づけての再演となる。

平家を滅ぼした源氏方は、血を絶やすべく平家の公家狩りを実施、多くの子供を刀にかける。平重衡の忘形見、壽王丸もその犠牲となる。母の新中納言御局(玉三郎)は仏門に入るが、泣き子の髑髏を離さないため“髑髏尼“と称される。幽玄な演出の中で、舞台に浮かぶ玉三郎は、この世のものとは思えない。

もう一人の重要な登場人物は、尼寺の鐘楼守、七兵衛。その容貌の醜さから、人からはうとまれる。ノートルダムのせむし男のような存在である。彼は、自分の顔の醜悪さを認識し、「これが宿命というものか! ならばいっそ」と叫ぶ。七兵衛は密かに髑髏尼に心を寄せていた。

七兵衛を演じるのが、中村芝翫・三田寛子の次男、中村福之助。難しい役どころを好演している。平重衡の亡霊に片岡愛之助,僧印西に中村鴈治郎。重衡は,東大寺などを焼くという仏罰に値する行為を働いている。それが,その子にも及んでいるのだろうか。幼い子供たちの命を奪った,源氏に天罰は下らないのだろうか。

後半は,ガラッと変わって毎年のように演じられる,「吉田屋 廓文章」。舞台は大阪の廓・吉田屋。やってくるのは遊びが過ぎて藤屋を勘当された若旦那,伊左衛門。着物を着ることもできず,身を包むのは和紙でできた紙衣(かみこ)、演じるのは片岡愛之助。恋する遊女夕霧に会いたい一心です。

家をしくじった若旦那がお茶屋などを訪ねる、落語でもよくあるシチュエーションで、私の大好物である。

そして太夫の夕霧は、もちろん玉三郎。登場した瞬間に放たれるオーラがすごい。神々しいばかりの美しさで、これまた人間とは思えない。そして、夕霧伊左衛門の口舌(くぜつ)と言われる、恋人同士の口喧嘩が始まるのだが、チャーミングな両者が素晴らしい。「吉田屋」は、片岡仁左衛門・玉三郎コンビの当たり役だが、愛之助の伊左衛門も魅力的である。上方歌舞伎の和事の継承者として、愛之助には期待大である。

吉田屋の主人に中村鴈治郎、妻おさきは上村吉弥の予定が体調不良で、片岡千壽が代演。大阪の揚屋の空気を再現してくれていた。

2023年3月18日 歌舞伎座



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?