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音楽という魔物に挑む一人の女性〜ケイト・ブランシェット主演「TAR/ター」

アカデミー賞作品賞・主演女優賞始め、複数部門でノミネートされた映画「TAR/ター」がようやく公開された。

結果的には無冠に終わったが、個人的には「エブエブ」のミシェル・ヨーよりは、この映画のケイト・ブランシェットの方が圧倒的に凄かった。(ゴールデングローブ賞では主演女優賞受賞)

映画の中に登場する言葉を借りると、音楽は人間の複雑な感情、言葉では到底表現できないような心情を表現する。それを創り出すことは、簡単なことではない。それは、作曲という行為においても、過去の巨匠が想像した楽曲を、彼らに寄り添い再現する演奏においても同様である。

ベルリン・フィルの首席指揮者を務めるリディア・ター(ケイト・ブランシェット)は、世界的に有名なマエストロ。マーラーの交響曲5番の演奏と、自作の創作の両面において音楽を創り出そうとしている。さらに、ドイツとニューヨークを股にかけ、ジュリアード音楽院での指導、自著のプロモーションなど多忙な日々。

そんな彼女には、さまざまな出来事が降りかかってくる。

観る人の解釈に相当程度委ねられた映画のように思った。何が真実なのか、それは必ずしも明かされない。

ただ、はっきりしていること。それは、一流オーケストラの指揮者の地位を獲得し維持するのは、並大抵のことではないという事実。それが一人の人間にどのような影響をもたらしていくのか。音楽にはとてつもない力がある一方で、作用には必ず反作用がある。

反作用の大部分を引き受けたマエストロを、ケイト・ブランシェットが素晴らしい演技で表現する。彼女なしには、この映画は成立しなかっただろう。

公式サイトを見たら、この映画について<この映画のラスト、どう見た? “Happyエンド“ “Badエンド“>というアンケート結果を表示している。過半が“Badエンド“と回答しているが、私は“Happyエンド“だと思う。

その下には、トッド・ フィールド監督の言葉が掲載されている。

<映画をどのように解釈するかについての権利は 観客にあると私は考えている>

よかった、監督の意図もそうだったのだ。

ついでに書くと、週刊文春5月18日号の“Cinema Chart“。この映画について、批評家5人中4人が満点の五つ星。作家の斎藤綾子だけ、ラストの<XXXを堕落とする描き方が不愉快千万>と書いている。XXXはネタバレになるので伏せるが、私はこれには違和感を抱く。

音楽の素晴らしさ、オーケストラの内幕を楽しみつつ、見終わったあとちょっと悩んでしまう。
そんな映画、オススメします。159分の長さを覚悟して楽しんでほしい



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