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企業不正の被害者は誰なのか〜ドラマ「DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機」

“オピオイド危機“という言葉は耳にしたことがあったが、あまりよく分かっていなかった。

改めて検索してみると、オピオイドというのは、ケシの実の成分から生成される薬品で、鎮痛効果がある。モルフィネなどが、その一種だが依存症を引き起こすリスクがある。言ってみれば医療用麻薬だが、依存症になるリスクと、痛みを和らげる効果を天秤にかけアメリカを中心に使用されている。

こうしたことはよく知られておりのに、なぜ“危機“と呼ばれる状況を作り出したのか。今年のエミー賞のリミテッド・シリーズ部門にノミネートされたドラマ、「DOPESICK」(ディズニー+)が描いているということなので、見ることにした。ちなみに主演のマイケル・キートンは主演男優賞を受賞している。

アメリカの製薬会社、大富豪のサックラー一族が支配するパデューファーマは、1980年代半ば、起死回生の薬品開発に乗り出す。オピオイドによる中毒を劇的に低減した鎮痛剤である。そして90年代半ば、パデューファーマは完成した薬品オキシコンチンを市場に投入する。

続いてドラマは2005年、医療関係者が陪審員に対して、この薬に関する検察官の質問に答える場面に転換する。 マイケル・キートン扮するフィニックス医師は、多くの患者が死亡したと語る。さらに時代は1996年に変わり、舞台はアメリカの鉱山の町である。フィニックスはそこで医院を営んでいる。高齢者、鉱山で働く人々、疼痛に苦しむ人も多い。

ドラマはこうして、時代を行き来しながら、オキシコンチンがもたらす様々な問題と、それに立ち向かおう人々、権益を守ろうとする会社側の人間を描いていく。

迫力のある人間ドラマ、しかも事実に基づくもので、見ごたえがあると共に、色々考えさせられる。そもそも、アメリカのような“成熟した“国、コーポレート・ガバナンスを声高に唱える社会で、なぜにこんなことが起こるのか。薬品については、政府当局、アメリカの場合はFDAが認可しなければ流通できない。行政は責任を果たしていなかったのか。

見始めた時、全8話も必要なのかと感じた。しかし、この長さが重要で、それによって問題解決の難しさが体感できる。

日本においても、企業不正の話題は絶えない。このパデューファーマの問題は、単に企業不正では済まされない、巨大な問題だ。ただ、その規模はどうあれ、企業不正で被害を受けるのは、力の弱い人々である。タイトルのDOPESICKとは、麻薬が切れた時に起こる禁断症状である。それに苛まれるのは、不正を働いた金持ちではなく、薬を服用した一般人だ。

企業不正で会社が傾く、責任もないのに苦しむのは従業員である。その規模が大きくなると、従業員に留まらず消費者や取引先に広がる。企業不正と括るのは若干乱暴だが、リーマン・ショックでピークを迎える金融危機では、世界中に被害がばら撒かれた。このドラマで描かれた企業不正は、アメリカ国内の問題ではあるが、かなりの広範囲に渡る。

「不正のトライアングル」という枠組みに当てはめてドラマを見るのも良いだろう。不正の3つの要素、“動機“、“機会“、“正当化“。これらが揃った時に不正が起こると言われるが、見事に存在している。

日本において、同様の問題は起こり得る。そのことは日々感じられている。罪のない被害者を増やさないためにも、また放っておくと危険な権力者に対する観点からも、本作品を反面教師とする要素が多々ある


なお、第1話および第2話は、映画「レインマン」等のバリー・レヴィンソンが監督している。原作はこちら(私は未読)。



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