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祝!“最後の喜劇人“伊東四朗の誕生日〜6月15日の「熱海五郎一座」

先日、私の伊東四朗体験から、笹山敬輔著「笑いの正解」の感想を書いた。そして、その延長線上にあったのが、「熱海五郎一座」

2004年「伊東四朗一座〜旗揚げ解散公演」として始動、「熱海五郎一座」はそれを受け継いだものだが20年の時が経った。その「熱海五郎一座」が大箱の新橋演舞場に進出したのが2014年。その第10回記念公演として、今年は伊東四朗をゲストに迎えた公演「スマイル フォーエバー〜ちょいワル淑女と愛の魔法〜」が上演されている(6月27日まで全30公演)。

プログラムによると、座長の三宅裕司は2004年当時「演技のうまい役者さんを集めて喜劇の一座を創りましょうよ」と持ちかけたところ、伊東四朗は「いや、笑いを体で分かっている人達を集めましょう」と言ったそうだ。こうした初期の段階からいるメンバーが、渡辺正行、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東貴博(本公演では深沢邦之とダブルキャスト、15日は東が出演)。彼らに、スーパーエキセントリックシアター(SET)の面々が加わる。

“ちょいワル淑女“役が、ゲストの松下由樹。役どころは、東京都知事の大沼桜子。他のメンバーは、魔法使いと、その勉強をしている魔法使いのたまごという設定である。

幕開けから“喜劇人“伊東四朗が全開で、客席もその一雫たりとも逃さず吸収しようと、舞台からの発信をしっかりと受け止めている空気である。

ネタバレをするつもりはないが、これからご覧になる方は、この後はご注意を。

もちろん、伊東四朗の動きやスピードはかつてとは違う、しかしそのこと自体を芸に昇華し、共演者も見物も若干ハラハラしながら、彼の動き・セリフを追っている。伊東のセリフで間が開くと、三宅裕司が「間が空くとみんな心配するから〜」と突っ込む、伊東は「自分の間でやらしてくれよー」。

ほとんどが計算された芸だが、舞台であるが故にハプニングと演出の区別がつかない。これこそ、伊東と三宅が狙った線だろう。実際、他の演者において、セリフの間違いなどは起こり、それはそれでライブでしか味わえない笑いを誘う。

松下由樹もキレキレ。その演技力で、芝居の芯になりつつ、感情を爆発させるシーンでは、これでもかと熱いパフォーマンスを示す。

こんなゲストの二人に、熟練のレギュラー陣がからみ、SETのメンバーが盛り上げる。楽しい舞台にならないわけがない。

作家は吉高寿男、新橋演舞場に進出してから担当しているようだが、各メンバーの見せ場、ギャグ、楽屋落ち、華やかな場面などを入れ込みながら、芝居としての流れをしっかり構成している。手練れによるアドリブも含め、素晴らしい!

カーテン・コール、客席にいても感じられる、温かくリスペクトの込められた拍手。その中で、三宅裕司から、この日が伊東四朗の87歳の誕生日であることが告げられ、拍手が一層大きくなる。

メンバーは、伊東四朗ら先人たちの背中を見ながら、今やベテランとなった人達である。東貴博の父、東八郎と伊東四朗は盟友である。そんな彼らは、伊東と同じ舞台に立てたことを心の底から感謝している。

伊東四朗を“最後の喜劇人“と呼んだのは小林信彦。エノケン・ロッパを始めとする、戦後の東京喜劇を目撃してきた小林さんにとって、その流れを体現するのは伊東四朗が最後という意味だろう。

確かにそうだが、彼らのDNAは、伊東さんから三宅裕司ら“現代の喜劇人“には受け継がれている。
その先は……どうなるだろうか


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