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覚書:「あなたの人生の物語」

”…そもそものはじめからわたしは自分の運命を知っていたし、当然のものとしてそのルートを選びもした。けれど、わたしがめざしているのは歓喜の極致なのか、それとも苦痛の極致なのか?わたしは最小と最大のどちらを成就するのだろうか?…”


映画を観てこの作品を知った僕は、やはり「あなたの人生の物語」に惹きつけられた。
人と言語の関わり。ドラスティックに環境を変えることで、そのあり方を描いている。

大学でドイツ語の講義で、ネイティブの教授が
「ドイツ語には日本語の『懐かしい』に該当する言葉は存在しない。」
という趣旨のことを言っていて、4年たった今、ドイツ語なんて1つも覚えていないけれど、この言葉だけは忘れることができない。

人は言語を生み出しながら、言語に支配されている。
言語が変われば、世界への眼差しが変わる。
その眼差しの変化は時間という概念すら超越する可能性も秘めている。

僕自身、人が世界を認識する視点をズラすことができたら、なんて考えている。
日常に対する知覚の感度を変えることができたら、当たり前の景色なんていうものはなくなるんじゃないか、と。
その文脈で、言語、という人間の頭の中にインストールされた世界の認識方法の強固さと、それをズラすことの可能性をこの作品から読み取った。


SFというジャンルは、あえて極限状態を設定することで、どんな環境でも変わらない「ひと」という生きもののあり方を描こうとするものなのかもしれない。
その意味で、テッド・チャンの環境設定の仕方、描こうとするひとへの眼差しは、深く、広い。

映画「メッセージ」の原作となった表題作を含む全8編。
文学の役割を仮に、筆者とともに考えることだと設定するのであれば、この本に収録されている8編は、ぼくにとってどれも傑作だ。

ちなみに、僕は文学は人を中心として、愛と死を描かずにはいられないものだと思っていたのだけれど、テッド・チャンの17年ぶりの新作、「息吹」の帯をには、人が存在しない世界が描かれているという文言があった。
こちらを読むのも楽しみで仕方がない。


ほんや徒歩5分店主

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