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\あなたの「好き」をぶつけてください【番外編】/滝ガールとおらゑもんの「滝」と「サル」が好きすぎて 第3回

人生は一度きり。
そう、一度きり。
だから、
たくさんの人と知り合いたいし、たくさんの場所に行きたいし、たくさんの本を読みたいし、いろんな食べものを口にしてみたいし、知らないスポーツに挑戦したいし、聴いたことの無い音楽に耳をすませたいし、似合わないはずのファッションにも挑戦したいし……と、なんとまあ欲が多い。

知らない世界をどんどん知りたい! と、日々、動くものの、やはり自分の興味関心、趣味嗜好の枠内からはみ出すのは難しい。

そこで、みなさんの「好き」を「好きなんじゃー」とぶつけていただこうと思い、「好き」を募りはじめました。嬉しいことに「好き」をぶつけてくださる方がひとり、またひとりと現れました。そこで、みなさんからいただいた「好き」をインタビュー形式で深堀りしていくシリーズ「あなたの‘好き’をぶつけてください」がはじまりました。

今回は、【番外編】。「あなたの『好き』をぶつけてください」で「サルが好き」な気持ちをぶつけていただいている、おらゑもんさんのインタビュー記事に、「滝が好き」な滝ガールさんが共感をしてくれたことをきっかけに、今回の番外編鼎談が実現しました。さて、「サル」と「滝」への「好き」な気持ちはどのようにぶつかりあい、また、溶け合うのでしょうか。数回にわけてお届けします。


第2回ではおふたりの「なつかせる」ことへの葛藤を掘り下げ、それぞれが導かれた「道」の先に広がっていった世界へと話題が及びました。第3回ではどんな話題が続いていくのでしょうか。


「らしさ」の土台

 滝ガール「おらゑもんさんが紹介してくれたエピソードの中で、千葉市動物公園で暮らすゴリラ、『自分を人間だと思っている』ローラのことを考えていたら、なんだか泣けてきました。自分が何者なのかが分からなくなる。鏡を見ることができて、仲間とコミュニケーションを取れるヒトであっても、自分が何者なのか分からなくなる時があるのに……。その想像力だけは本当に失いたくないと思えました。」

なかむら「卵が先か鶏が先かみたいな話になってしまうのかもしれないのですが、『ローラが自分を人間だと思っている』という感覚も、『人間ありき』ではないんじゃないかな、とわたしは思います。
最近、南方熊楠からのつながりで、雑誌『動物文学』の創刊や、イヌ・オオカミ類の研究で知られている平岩米吉の関連資料を読み進める機会があったのですが、こんな言葉に出会いました。

まったく耳なれなかった動物文学ということばも、いまは、あたりまえのようにもちいられています。
《中略》
しかし、動物文学の本当の意味――動物の生き方を、ありのままえがいて、われわれの生きかたをも正しくしようとする動物文学の意味が、まだ、だれにもわかったというわけではありません。
《中略》
人間だけができるとおもっていることが、いがいにも、動物のすることのなかにあったり、ただ動物がうまれつきの性質でやっているようにみえることを、われわれも、ちゃんとやっていたりします。人間の世の中のおきては、人間だけの力でつくりあげたものではなく、鳥やけもののいきるおきての中から、だんだんにそだってきたものなのです。(平岩米吉『動物文学集』)


鳥やけものが生存競争の中で育んできた感覚が人間の中にもあって、それがだんだん『人間らしさ』になっていって。
そんな観点から動物界を見ると、鳥やけものが土台にしてきた『生きる掟』にも、ヒトに相通ずるものが見えてくるのかなぁと。」

滝ガール「ローラの中にわたしたちの方が『人間らしさ(動物から育った)』を見出している、という部分もあるかも知れませんね。答えはわからないけれど、関係性を考えようとする気持ちは無くしたくないと思わされました。」

おらゑもん「『らしさ』ってなんだろう?と、すごく普遍的な問いに繋がっていきますね。『動物文学』と聞くとシートンや椋鳩十、もっと広げれば宮沢賢治を連想しますが、動物の世界そのものを描くことによって人間の有り様を考えさせるだけではなく、『正す』という立ち位置は確かに今まであまり出会ってこなかったかも知れません。
在野でこうした動物を主題にした文化・表現活動を長年続けてきた先達がいたことに正直驚いています。『われわれの生きかたをも正しくしよう』というやや強い表現は、混沌とした戦前戦中の時代背景もあってのことなのかな、と感じました。 」

なかむら 「在野でこのように熱い活動をすることができるのは、やはり『好き』という気持ちが大きく原動力になっていたのだろうなぁ。『正す』という気持ちにまでなるのは、おらゑもんさんのおっしゃるとおり、時代や文化的背景が大きく関係していそうです。
何を『好き』になるか、何に寄り添って生きるかというのは、個々人の人生や興味関心に加えて、どんな『時代』に生を受けたのかも要因の一つなのかもしれません。
わたしが南方熊楠のことが好きなのは、もしかしたら、わたしが明治に生まれたのではなく、昭和、平成、令和という時代に生きているからかも。」



滝ガール「わたし、実はおらゑもんさんの話に出てきた『動物園は禅だ』ってフレーズが衝撃的でした!わたしを『滝ガール』としての発信の道に導いてくださったのは、実は禅の師匠なんです。人生の虚無感に行き詰まっていた時に、あなたには滝がある、そこに答えがある、ブログで発信しなさい、って導いてくれたんです。誰しも好きとか夢中になるものには必ず理由があって、それは禅、見えない真実につながっているということなのかなって思いました。」

なかむら「これまでの対話の中でも『禅』についてたびたび出てきたと思います。わたしはまだまだ、禅への理解が薄いのですが、心が集中する場所としての禅なのかなぁ。」

滝ガール 「30歳の頃、ひょんなことから4日間坐禅をひたすらし続けるという修行に参加したんです。わたしにとっては人生の転機となる重要な体験だったのですが、あまり人に話してきたことがありません。その修行中は、しゃべっちゃダメ、読んじゃダメ、書いちゃダメ。ひたすら坐り続ける。修行が進んで、3日目くらい?にアリが行列を作っている様子を眺めながら、自分が人間であることに、ホトホト嫌気が差してきたんです。『人間という存在になんの意味があるんだ。アリは無心で行列を作って宇宙の秩序のまま暮らせているのに、人間は秩序を乱してばかりじゃないか』って。
そしたらその晩、師匠はわたしの気持ちを汲んでくれたかのように(しゃべってはいけないのでわたしからは伝えられない)、『この時代、人間として生まれた意味があるんです』と言ってくださって。その言葉が、じわじわと本当に薬みたいに、わたしを癒していく感覚がありました。人間でいいんだ、と……。
人間として生まれた意味、その時のわたしは『遊ぶこと』『感動すること』だ、と思いました。宇宙の秩序にとってはたぶん迷惑で役に立たない、でもその秩序のなかで遊んだり感動する存在もいてもいいかもよ、そのほうが豊かじゃん、と。師匠は修行後に『滝のブログをやればいい』とおっしゃって、それは確かに自分らしく生きる第一歩になりそうだな、って納得したんでした。」

おらゑもん「すごく『禅』の真髄に触れるような体験ですね……!自分で言及しておいてなのですが、禅そのものを深く掘り下げたことがこれまでの人生であまりなかったかも知れません。にもかかわらず『動物園は禅だ』という表現が出てきたのはなぜだろう。
ひとつ言えるのは、動物園は『集中する』『没入する』と同時に、ヒトならぬ生きものたちに想いを寄せる場だから、ヒトの世のよしなしごとをひと時忘れるのに適した空間だと思うんですよね。
動物園にいると、いきものたちを鏡/鑑として、『お前は生きものか』と答えのない問いを突きつけられる。だから、考え込むのではなく頭を空にしてこころを研ぎ澄ますことが暗黙のうちに求められていると思うんです。……うーん、十分に表現できているか自信がないのですが、ここまでお話してきたイメージを一語に集約するとやっぱり『禅』に行き着く気がします。」

滝ガール「『禅』については、わたしの場合まずは、自らの内面に立ち返ること、とシンプルに捉えています。おらゑもんさんは動物園では『頭を空にしてこころを研ぎ澄まそうとすることが求められる』と仰っていましたが、滝も同様に『頭を空にしてこころを研ぎ澄まそうとすること』に適した場所です。滝好きさんの中でも滝のどこに魅力を感じるかは本当に人それぞれだと思うのですが、わたしにとっては内観を促してくれる場所として滝のありがたさを日々感じていますね。」

おらゑもん「『内観』、とても的確な表現だと感じました。空っぽになること。他者に引きずられすぎないよう鏡の前で立ち止まる機会はとても大切で、わたしにとっての鏡になってくれたのは他ならぬ霊長類たちだったといま改めて思います。
同時におふたりとの鼎談を通じ、『我』から始まって『没我』の境地へと至る道は猿の道だけではないということが腑に落ちました。『好き』というどこまでもわたし的で個人的な感情から出発してここまで深く普遍に至るお話が深められたことに、わたし自身驚いていますし、おふたりの導きあってのことだと感謝しています。 」

          


                           次回につづく。



プロフィール

滝ガール
坂崎絢子(さかざき・あやこ)
東京都生まれ、2022年より山梨県北杜市在住。大学生の頃から日本全国の滝めぐりに熱中。滝歴は約20年。「滝ガール」と呼ばれるようになり、2013年からウェブサイト Takigirl.net を運営。「滝文化の研究」と「滝の魅力の啓蒙活動」を軸に、ウェブや新聞でのコラム連載のほか、イベントなどで滝鑑賞ガイドも行う。滝から地球の平和を伝える「WaterFall & Peace」がモットー。滝のほかに好きなものは、ハロプロ、パフェ、さかなクンなど。本業ではビジネスやライフスタイル系の雑誌ライター・編集者を10年、資産運用会社での社長秘書兼マーケティング・広報を4年、2020年からフリーに。現在は「滝あやこ」の別名義にてホロスコープ鑑定士としても活動中。

滝ガールの活動報告サイト :https://takigirl.net/

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おらゑもん
動物園・水族館を通して見える生きものとヒトの社会の在り方に関心があり、個人的な趣味として探究しています。霊長類に特に強く惹かれています。
twitter:@weiss_zoo
note:https://note.com/nostalgia_zoo

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中村翔子(なかむら・しょうこ)
本屋しゃん/フリーランス企画家
「本好きとアート好きって繋がれると思うの。」そんな思いを軸に、さまざまな文化や好きを「つなぐ」企画や選書をしかける。書店と図書館でイベント企画・アートコンシェルジュ・広報を経て2019年春に「本屋しゃん」宣言。千葉市美術館 ミュージアムショップ BATICAの本棚担当、季刊誌『tattva』トリメガ研究所連載担当、谷中の旅館 澤の屋でのアートプロジェクト企画、落語会の企画など、ジャンルを越えて奮闘中。下北沢のBOOKSHOP TRAVELLRとECで「本屋しゃんの本屋さん」運営中。新潟出身、落語好き、バナナが大好き。

https://honyashan.com/

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