#今月の平台 を振り返る。一回目。

今年も様々な本との出会いがあり…などと、堅苦しい前置きはナシにして、今年度から、とある企画に参加させていただいている。
講談社文芸第二出版部の公式Twitterが毎月初旬にツイートしている、
全国書店員さんに聞きました。“今月一冊だけ平台に置くとしたら?”
ハッシュタグは#今月の平台だ。

企画に参加しているのはそうそうたるカリスマ書店員の皆様で、読書好きなら店頭のPOPや文芸書の書評などで一度は目にしたことのある名前が…いやまぁ、そんなん言うてもPOPにコメントが載っている書店員の名前なんていちいち記憶していませんよね。私も憶えていませんでした、書店員になるまでは。

今月一冊だけしか置けない、それならばこの本を置きたいとカリスマ書店員の皆様に思わせるような本。今月これだけはハズせない、チェックすべき一冊がズラリ8冊並ぶ。(他の方の選書はツイートされるまで選者にもわからないので、カブることもあるが)
一読書好きとして次に読むべき本を選ぶ参考になるし、短いながら思いの込められた紹介文は自身がPOPを書く上でも勉強になる…が、実は私がこの企画に興味を持った切欠はもう少し後ろ向きで、そんな要チェックな一冊ですら、うちの店には入荷ナシなんてことがままあるからだ。
うちには入荷していないけれど、話題になる本、面白い本。悲しいかなそんな本は山ほどある。なるべく取りこぼしのないように発注して、うちにも並べたい、そして私も読みたい。情報収集の一環だった。
そんな企画にひょんなことから参加させていただけた。
本当にひょんなことから、だ。「紹介している書店員のみなさんかっこいいな、いつかこんな風になれたら。憧れだ」そんなツイートを抜け目なく拾って下さった講談社さんから、ツイートから数時間後には参加しませんかとメッセージが来ていた。夢は言葉にしないと叶わないとは言うけれど、言葉にした瞬間に叶っていいモノだろうか。そんな簡単でいいんですか講談社さん。そもそも情報を収集するために見ていた企画なのに、いきなり自分が情報を発信する側になれるのだろうか。いや無理だろ。どう考えても、読書好きやカリスマ書店員の皆様を唸らせる、通好みの一冊は選べそうにない、それならばそれで、読者の方と近い目線で本を紹介する事が出来るのではないか、きっとそうに違いない…自分を百万回鼓舞しながら、とりあえず開き直って続けている。

前置き長いなコノヤロウ。

という事で、初参加だった4月から振り返る。

窪美澄さんの『トリニティ』
読後「女に生まれて良かった!」と叫んで駆け出したくなる最高の一冊だった。フェミだのなんだの、言いたいやつは言えばいい。40年生きていれば、「女だから嫌な思いをしたこと」の一つや二つや三つや四つ、あるものだ。
出版社で出会った、ライター・登紀子、イラストレーター・妙子、事務員・鈴子の3人。生まれも育ちも、抱えているものも何もかも違う三人三様の生きざまの誰もに、少しずつ”私”がいた。事務員だったが結婚を機に寿退職し、家庭に入った鈴子。「満奈実、専業主婦なんかならないでね」三人の中では、一番平穏な人生を歩んだかに見える鈴子が、娘にぽつりとこぼした一瞬の本心。ぐぐーっと、心の奥の方を掴んで揺り動かされるような印象的なシーンがいくつもあった。
4月は8人中3人が大島真寿美さんの『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』を選んでいた。『渦』はその後直木賞に輝き、皆さんの選書の確かさがうかがえる。…ま、入荷していませんでしたけれど。

5月に選んだのは寺地はるなさんの『夜が暗いとはかぎらない』
閉店が決定した「あかつきマーケット」周囲の人々を主人公にした連作短編集。この中の一編だった、発達のゆるやかな子供を心配するお母さんを見守る祖母のお話がとても好きで、読みながら変なスイッチが入ってしまい、涙が止まらなかった。手元に本がない、くそうタイトルが思い出せない…。
帯にも「奇跡は起こらない」と書かれている。あかつきマーケットは結局閉店するし、発達のゆるやかな子供は急にしゃべれるようになったりはしない。けれども、人生は続いてゆく。確かに続いてゆくから、歩く。誰かが一歩踏み出した時、偶然に蹴り飛ばした小石。俯いていた誰かの視界に、その小石が飛び込んでくる。昔、石ころ蹴りながら歩いたっけなんて思い出して、小石を蹴る。追いかけて、また蹴る。俯いていた誰かは、もうそれで顔を上げて歩き出しているのだ。そんな本当にささやかな繋がりと、その繋がりからふっと背中を押される瞬間の、掌が触れる温かさに満ちた素敵な作品だった。

6月は金原ひとみさんの『アタラクシア』。
最初はドロドロした不倫群像劇かと思ったらドロドロ不倫×パルプフィクションみたいな作品で、私好みの変な人が沢山出て来ました。
メインはフランス料理のシェフと元モデルの不倫。それはそれは美しい二人による美しい不倫(?)は、田舎で書店員やってるおばちゃんからしたら現実味もクソもあったもんじゃないんですが、それはそれで。元モデルの旦那(に収まっている人)のダメっぷりが愛らしい。
美しかろうが何だろうが、人間だものどっか欠けてるんですよ。
その欠けている部分を、私は本を読んだり犬を吸ったり酒を飲んだりして埋めている訳ですが、この人たちは「他の人」で埋めようとしている。足りない人が足りないものを埋めあっているという図式は人間界のいたるところに存在していて、それは不倫という形式じゃなければ美しいものとして賞賛されたりするのに、不倫や、金銭の授与があったりするとNGで、その線引きって実はとても曖昧だなと思ったりしました。不倫してもいいのでは?←

『八月のひかり』中島信子さん
最近ラジオ深夜便で話題になったことが切欠で、初めて店頭でお問い合わせを受けて飛び上がるほど嬉しかった。日本の子どもの7人に1人が貧困状態にあるという絶望的なノンフィクションを、こんなにも読ませるフィクションの形にして下さった中島信子さんの筆力の凄まじさに圧倒。美貴のような子どもがいる現実に、私たちは今何が出来るのだろう。悲しい、腹立たしい、やるせない。「幸せになりました」で終わらないこの物語の本当の結末は、読んだ私たちに変える事が出来るんじゃないかと、信じたい。ダ・ヴィンチのブックオブザイヤーにもランクインしていましたね。今後も長く読み継がれて欲しい一冊。
7月は「講談社の本気」こと『線は、僕を描く』がお二人に選ばれていますね。つい先日ブランチブックにも選ばれていたし、『むらさきのスカートの女』は芥川賞を受賞…すごいな、#今月の平台。

第二回に続く。

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