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最新の訳書について

(書き手)古屋美登里

 10月26日に『わたしのペンは鳥の翼』という作品集が小学館より刊行されました。アフガニスタンの女性作家たち18人が、過酷な生活のなかでなんとか書く時間を見つけて創作した短編が23作収められています。アフガニスタンにも描きたいことを胸に秘めた女性たちは大勢います。ところが、地元には女性の作品を出してくれる出版社がありません。イギリスの支援団体と出版社が名乗りをあげ、アフガニスタンの都市や田舎に暮らす女性作家に呼びかけて作品を公募し、そのなかから厳選した作品が英訳されて2021年に出版されたのです。大勢の人たちの努力と想像の力と思いやりによって生まれたのが『MY PEN IS THE WING OF A BIRD』です。
 そのことについて小学館の「小説丸」に「わたしたちの物語」というタイトルで書きましたので、ご覧いただければと思います。
https://shosetsu-maru.com/yomimono/essay/mypen

 これまで過酷な戦争にまつわるノンフィクションを何冊か訳してきました。直視できないような死のむごたらしさや人間の愚かさ、戦いの空しさを伝える作品です。でも、ここに描かれた短篇はそうした事実よりはるかに饒舌に、そして寡黙に、女性たちの置かれた悲惨な現実を語っています。訳者としてはその世界をできるだけそのままの姿で日本語にすることに苦心しました。訳す前にさまざまな資料にあたって頭のなかをアフガニスタン仕様にしていたのですが、一篇一篇翻訳するたびに「向こうの世界」の重さに拮抗するだけの力を得ることに四苦八苦しました。作家の言葉をたぐり寄せ、それを温め、羽ばたかせるためにすべての感覚を研ぎ澄ませたつもりです。
 作家たちの声、登場人物たちの声が、いまでも胸の中で鳴り響いています。
 この作品集を読んでいただいた方おひとりおひとりに、このなかのどの作品がお好きか、あるいは忘れられないかを、お尋ねしたい気持ちです。
 女性はもちろん、男性にもぜひとも読んでいただきたい作品集です。