その時給は妥当?1時間あたりのレビュー量と実際の作業負荷&品質について
グッモーニン!翻訳ジャーニーです。
大前提
この記事は、ITやマーケなどの分野でレビュー&LQAをしてきた私の経験に基づいています。クライアント、翻訳会社、分野が違えば大きく変わってくるのは当然です。そのあたりをご理解いただける方はこれ以降をお読みください。
※なお、以下のスループットに差分の作成やフィードバックの時間は入っていません。ファイルのダウンロード&アップロード、納品の連絡、ポータルでの操作など、logisticalな作業負荷は入っています。
レビュー/LQAの支払方法について
レビュー/LQAのお仕事には大きく分けてワードベースとアワリーがあります。ワードベースはその名の通り単語数に応じて支払額が決まります(TWCとかWWCとか、そのへんのお話はおいておきます)。もう1つがアワリーで、時給として支払われる形です。今回はこっちの話。以降、すべて一律で「レビュー」と書きますが、LQAの場合にも同じ事が言えます。
アワリーにも種類がある
アワリーのお仕事にも2種類あって、かかった時間を申告して支払ってもらうタイプと、たとえば600ワードのレビューは1時間というように一定のスループットが定められている「みなし時給制」みたいなものがあります。
事後申告制のアワリー
事後申告のアワリー制も際限なく時間をかけられるわけではありません。事前に目安となるスループットは伝えられているはずですし、大幅にオーバーしそうな場合は作業中に連絡を入れておいた方がよいでしょう。大幅オーバーなら事後説明も必要です。
みなし時給制
みなし時給制の場合も、オーバーしたものを払ってくれる場合や、上限○○%までは支払うといったルール、そして一切の変更をしないというパターンがあります。
適切なレビュー量は1時間に何ワード?
さて、今日の本題です。みなし時給制や事後申告制の目安として、たとえば1時間に○○ワードのレビューをしてくれと言われた場合に、どのくらいの作業内容になるのか、どのくらいの品質で翻訳が上がってこなければいけないのかをお話しします。適切なレビュー量というのは品質と作業内容次第なので一律で言うことはできません。以下の作業内容や求められる品質が参考になると思います。
1時間に1200ワード(TWC)
仮に、TMの減額を加味しないトータルワードカウント(TWC)ベースで、1時間に1200ワードのレビューをしてくれと言われた場合を考えてみます。これは、私が過去に遭遇したもっとも高いスループットです。あまり現実的ではありません(proofread = 訳文だけのチェックという仕事ならもう少し高い設定はあり得ます)。
作業内容
レビューと言っても実質的にほぼモノリンガルレビューとなります。すべてのセンテンスで原文と訳文を付き合わせてチェックしている余裕はまったくありません。なんとなく原文を視界の端っこに入れながら、基本的には訳文だけを読んでいきます。タイポや文法ミス、著しく読みにくいところ、論理の流れがおかしいところなどをチェックしながら、要所要所で原文の単語や流れを確認します。最後に各種のツールチェックをかけておわり。スループットの設定が高くてもツールチェックを省くわけにはいきません。レイアウトに載せたチェックもやっておきたいですね。
翻訳会社から1200w/hでレビューをするよう依頼されたら、実際の作業内容がモノリンガルレビューに近くなることを断っておいた方がよいでしょう。
求められる初期品質
基本的には完成品みたいな訳文じゃないと成り立ちません。一次翻訳者の次に行うレビュー(2番手)であれば、当初の翻訳者はかなり腕の良い人でないと無理でしょう。LQA(3人目)として行う場合でも、前工程の全員が優秀でないといけません。英文解釈、タイポ、用語の確認、調査、その他のrequirementsをかるくクリアしている品質が求められます。
レビューしていて調査が必要だなと思うところはすぐに調査をしますが、翻訳者がきちんと調査をして正しい訳語を当たっているはずです。「あぁ、やっぱり正しかったんだ」という感想ばかりが出てきます。
エラーとして分類されるような変更は1000ワードあたり1件+といった程度です。多くがpreferentialな変更になるはずです。この速度で成り立つような高い初期品質は、ツールチェックをかけてもエラーが出てきません(前工程でしっかりチェックされているので)。
1時間に800~1000ワード(TWC)
英語から欧州言語への翻訳の場合、レビューのスループットで800という設定は無茶な数値ではないかもしれません。英語から日本語でも、800が求められるケースがあります。初期品質が高いか、欧州基準をそのまま日本語に当てはめているケースかもしれません。特にLQAで、初期品質がしっかりしていればあり得ます。
作業内容
1時間1200ワードの設定と比べると余裕が出てきます。といっても、すべてのセンテンスですべての単語を細かく突き合わせる余裕はあまりありません。原文を読んで、要点を押さえて、訳文に反映されているかを見るという流れになるでしょう。重要なキーワードや流れを押さえてチェックしていきます。原文にある語をあまさず訳文に入れたいと考えているクライアントだとこの速度はちょっとつらいですね。
ちょっと極端な例ですが次のような原文が出てきたときに
これを「追加のアイテムを追加する」と訳さないと訳抜けだと判断するクライアントがいたとします。この手の細かな訳抜け(?)に敏感になる必要があれば、1時間800のスループットではレビューできません。ちなみに、私自身も私が担当しているクライアントも、そもそもこれを訳抜けとは見なしません。
レビュー後に訳文をレイアウトに載せた形で超特急でチェックする程度はできるかもしれません。チェックツールはマストです。
求められる初期品質
800~1000でも初期品質はかなり高くないと成り立ちません。工程で2番手となるレビューの場合は、腕のいい一次翻訳者が必要です。エラーに分類される変更は1000ワードあたり2件以内です。チェックツールをかけてもだいたい何も出てきません(前工程で対応済み)。
1時間に600ワード(TWC)
レビューとしては現実的な数字になってきました。このくらいの見なし時給はよく見かけます。原文と訳文をしっかりチェックするだけの余裕が出てきます。とはいえ、基本的なAccuracyエラー、スタイル違反、用語違反、調査不足がうかがわれるミスなどが多くては600でも成り立ちません。
作業内容
ようやくまともなレビューができる速度になりました。原文と訳文の単語&文字のすべてに目を通すことができます。ある程度のpreferential changesが発生しますし、エラーも出てきます。1000ワードで最終的にマックス3~4件くらいのエラーが許容できるかもしれません。それ以上だと厳しくなってきます。
一次翻訳者が実務翻訳者として継続・安定して仕事が成り立つレベルかどうかは、このあたりが基準になると私は考えます。600w/h レビューが成り立つ品質を一次翻訳で出せるなら、その人は実務翻訳者として継続して仕事を取っていけるのではないか、と。
チェックツールをかけて、レウアウトに載せて最終チェックまで行います。この段階でも少しエラーが出てくるかもしれません。
求められる初期品質
普通に良い品質が求められます。原文読解が正確で、各種資料をちゃんと見て、調査も行って、タイポは最小限という感じです。
面白いもので、2人のリンギストが翻訳とレビューを行ってこの品質に到達できるパターンもあれば、1人の翻訳者が翻訳した時点でこの品質に到達するというパターンもあります。品質は同じでも前者の方がおそらくコストがかかっているはずですよね。少し高くても優秀な翻訳者を見つけて1人目に配置するのがトータルでは賢い選択です。
ちょっと脱線(松竹梅とレビュー速度)
先ほど、一次翻訳を担当する人の出す翻訳が、600w/hのレビュー速度で収まると継続・安定してお仕事が得られると書きました。ここはあくまでスタートラインです。仕事を選びたい、単価や時給を上げたい、優先的に仕事を回してもらいたい、交渉の際の発言力がほしい、といったエクストラを目指すなら800w/hが成り立つ品質を目指すべきでしょう。
一次翻訳の品質に限定して、品質をランク分けしてみます。
1000w/h でレビューできる品質は「松」と言えます。期待値を超える品質です。翻訳会社・クライアントの間で取り合いになる人です。価格交渉力があります。
800w/h でレビューできる品質は「竹」です。翻訳会社の一軍リストに入っています。期待通りの品質です。完璧な結果ではありませんが、この品質で十分に仕事が継続できると思います。
600w/h で済む品質は「梅」です。仕事は普通に来ますが、松と竹の人に仕事を出し終わった次に来るイメージです。この品質のままお仕事を続けて行くという選択肢もあると思いますが、末永く安定して仕事をしていきたい人は「竹」まで到達しておいた方がよい気がします。
話を戻しましょう
1時間に400-500ワード(TWC)
品質がやや悪いゾーンに入ってきました。前工程で資料のチェックや調査が十分に行われていないケースが多く、基本的な原文読解にも難ありというパターンです。クライアントがちゃんとした品質を求めているのなら、プロセスのどこかに問題があるか、お金の面で見直すべきところがあるはずです。
作業内容
原文と訳文を付き合わせてチェックしていくのですが、読解ミス、用語違反、スタイル違反、調査不足が目立ちます。前工程の翻訳者の力量が足りなかったり、単価が低すぎてやっつけ仕事になっている可能性が考えられます。
求められる(?)初期品質
いや、別に求めていませんけど。見直し不足、調査不足、基本的な読解力不足などによるエラーがちりばめられています。この品質でトライアルを受けたら、合格するところはたぶんないはずです。
1時間に300ワード(TWC)
訳し直した方が早いわ!となる分水嶺。仮に事後申告でフルフル支払ってくれたとしても、レビューに1時間300ワードかかるなら、そのプロセスには問題があります。初期翻訳にかけたコストをドブに捨てているようなものですからね。前工程に2人もいるLQAなら致命的です。
作業内容
端的に言って訳し直し。ごくシンプルな部分は初期翻訳をそのまま使います。
求められる(?)初期品質
いや、だから求めてませんけど?経験の浅い翻訳者か、単価が低すぎてやっつけワークなのかもしれません。
まとめ
ということで、レビュー(LQA)のスループット、作業内容、初期品質などについて私なりの経験を書いてみました。みなし時給制が妥当かどうかは、実際に仕事をしてみて、最終的に求められている品質と照らし合わせて判断してください。
それではこのへんで。アディオース!
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