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翻訳とチェックとミスの種類とワイシャツと私。

最近、ツイッターランドで翻訳とチェックの話が盛り上がっていたので、思い付くことを書きたいと思います。

前提: 私とチェックのお仕事について

私の仕事はほとんどが翻訳のチェックです。金額ベースで一番多いのがLQAだと思います。1人目が翻訳者 -> 2人目がチェッカー(レビュアーなど名前はいろいろ) を経て、3人目のLQA担当者(私)にたどり着くという工程です。LQAの仕事の多くがアンカーです。つまり、私の手を離れた訳文がそのまま公開されることになります。重要度が高い内容だと、私の後にクライアント(4人目)がチェックします。
金額ベースで次に多い仕事はチェッカーです(工程の2人目)。私の担当しているクライアントでは、私がアンカーとなり、後工程はDTPやLSOだけで言語的なものはありません。

チェックする立場から考えるミスの種類

翻訳評価システムというのはいろいろありますが、どれもエラーをカテゴリにわけて重大度を設定し、減点方式でクオリティを測るというものです。それとは別に、私がチェックする立場として翻訳と翻訳者の質を判断する際には、ミスを3種類に分類しています

  • ケアレスミス

  • 知識不足&経験不足によるミス

  • 調査不足によるミス

それぞれ解説します。

ケアレスミス

人間であれば誰もがミスをします。うっかりミスは永遠になくなりません。だからこそ、プロのリンギストが2~4人もよってたかって1つのドキュメントをチェックする工程になっているのです。

しかし、ケアレスミスが多い人と少ない人がいます。私は、このれは単にその人の特性だと思っています。単価が安く量をこなさないといけない場合、納期が短すぎる場合、CATツールが💩すぎる場合など、外部的な要因もケアレスミスにつながりますが、すべての環境を整えてもケアレスミスの数には個人差があるはずです。それも結構大きい差が。

タイポなどのケアレスミスが多めの人も、それ以外の力があれば十分に活躍できます。普通に働いて収入を得て暮らせると思います。(いやいや、もちろん程度問題ですよ?)

チーム編成の観点から言うと、そうした「うっかりさん」は、後工程に配置しない方がよいです。一次翻訳者として配置して、後工程でそのケアレスミスをカバーするのが得策です(繰り返しますが、多すぎる場合は一次翻訳者も務まりませんけど)。

ケアレスミスが多い人というのは、しっかり見直ししてもミスを見逃す人です。なので、チェックツールなどを活用して潰せるミスを潰しておくのがよいでしょう。Just Right! はぜひ買ってください。言っときますけど、私はジャストシステムの非公式な回し者ですからね。

それから、ケアレスミスの量はタイピング量に比例します。工程2人目のチェッカーが品質の良い訳文と悪い訳文をレビューしたとします。仕上がりを比較すると、悪い訳文をレビューした時の方がチェッカー自身が新たに生み出すタイポが増えてしまいます。たくさん筆を入れなければならないからです。本来の姿としては、タイポの数が工程を進むたびに減っていって最後にゼロになることです。しかし品質が悪いとエディット量が増えて、逆にタイポが増えるというひどいことが起きます。なので、一次翻訳の品質はとっても大事です。

逆に言えば、一次翻訳でケアレスミスが少し混ざっていても、全体的に良い品質で訳文があがってくれば、2人目の担当者はうっかりミスをつぶす作業に専念できるというわけです。

チェッカーをやっている人に声をビッグにして言いたいこと。

当初の訳文と自分が編集したあとの訳文を差分ツールにかけてください。必ずです。たとえばWinMergeというツールがあります。詳細はぐぐってください。初期品質が悪すぎなければ、ほとんどが部分的な変更になっているはずです。変更部分を上から順にチェックしてください。不要な変更してしまった部分も見つかりますが、自分自身がタイポを生み出しているところが見つかったりします。部分的な編集はタイポを生み出しやすいのです(てにをはがおかしくなってるとか)。

私はこの工程を必ず取り入れています。

知識不足&経験不足によるミス

ケアレスミスと同じように、これも誰にでもあります。ケアレスミスと違うのは、知識や経験が増えるほどこの手のミスが減っていくことです。この仕事は何年やっていても、ほぼ毎日のペースで「へー、知らなかった!」という気づきがありますよね。逆に言えば、キャリアが1年の人、5年の人、20年の人では蓄積してきた知識と経験に大きな差があります(個人差の方が大きいけど、それはさておき)。

私がチェックをしていて指摘する知識不足&経験不足のミスのほとんどが、私自身が過去に間違っていた内容です。私は人に何かを教えるのが大好きな人間なので、この種のエラーを見つけると細かな解説を付けて返しちゃいます。読んでくれているかどうかは分かりませんが、フィードバックを読んでくれる人は次から同じ間違いをしなくなります。私はチェックのお仕事がけっこう好きなのですが、その理由のひとつはきっとフィードバックという形で翻訳者の役に立てるからなんだろうな、と思っています。

ちなみに、フィードバックを読まない人というのは一定数います。仕事によっては翻訳・レビューした人の名前がCATツールで確認できるものもあります。継続して見ていると、フィードバックを読まない人はまた同じミスをしますよね。時間を空けずに同じミスが来た場合は、まだフィードバックを読んでないんだろうなと思いますが、3回以上も同じフィードバックしているのに時間を空けてまた同じミスが来ると私の脳内にある「この翻訳者はやべーぞ」リストに入ります。私はその後すぐにチームからの除籍リクエストを出します。経験上、こういうリクエストは早めに出した方が良いです。ケアレスミスと違ってこの種のミスは本人の心がけて減らせるはずです。

調査不足によるミス

最後は調査不足によるミスです。調査にもいろいろあって、コンテキストの調査、専門的な知識の調査、クライアントに関する調査、支給された資料の調査、CATツール内での調査などです。

調査不足になる原因はおもに2つあると考えています。1つ目は個人の特性です。めんどくさがりだったり、思い込んでいたりするタイプです。2つ目は金銭的な理由です。1日にXXワードを翻訳するという目標がある場合、調査に時間をかけているとペイしないから調査しないというパターンです。

個人の性格的に調査をしないという人は、残念ながら翻訳の仕事にあまり向いていないと思います。せめて申し送りをしてくれれば後工程の人が調査を引き継ぐのですが、調査が面倒な人は申し送りを書くのも面倒というパターンが多いのか、どう見ても不明点が残ってそうな訳文を申し送りゼロで納品してしまいます。

調査というのはなかなか難しく、すぐに答えが出る場合と出ない場合があります。どこまで調査してから諦めるかという線引きも難しいところがあります。金銭的な理由で調査がおろそかになるというのは、ちょっと批判しにくいところです。

それでも、指示内容を見る、支給された資料を見る、CATツールや用語集内を見る、簡単にググる、くらいのことは基本的な職責の範囲です。その程度の簡単な調査をするとペイしなくなるというのであれば、(1)そもそもの単価設定が低すぎる、(2)調査の効率が悪い、のいずれかまたは両方です。すぐに単価交渉をして引き上げるべきです。

簡単な調査で済まないものについては、後工程の人に見てもらうと良いでしょう。その際は申し送りを書いてください。

だってそんなにもらってない?

こういうトピックの記事を書くと必ず「だってそんなにもらっていない」という反論が返ってきます。格安チェーン店に行って高級レストランの料理やサービスを求めないでくれ、みたいな反論もあります。

いやいや、私が言っているのはそんなレベルではありません。たとえば2000ワードの英日翻訳で、誰がどう見ても間違っている訳が10件あるようなパターンです。普通にだめですよ。好み以前の問題
(ここで例に出した10件は、たとえば意味的な語解釈が4件、かなり不自然で読みにくい表現が2件、指定の用語を使っていないのが2件、タイポが1件、漢字のミスが1件、みたいなイメージです)。

これは、牛丼チェーンに高級レストランのサービスを求めているのではなく、回転寿司のシメサバにアニサキスが入っていたり、焼き鳥屋の鶏肉に火が通っていない(牛肉と違って鶏肉の生焼けはヤバい)というレベルです。

できることをやって適材適所に

とうことで、まとめます。

  • チェックツールを導入しましょう。

  • ケアレスミスが多めの人は一次翻訳がおすすめ。

  • 誰もが最初は未経験。知識や経験は蓄積されます。そのためには、フィードバックを読む必要があります。フィードバックを次に生かさない人に未来はありません。

  • 基本的な調査はマスト。金額が見合わないなら交渉をしましょう。

  • 調査しきれないなら申し送りをして。

勢いで書き殴りましたが、ワイシャツについて書きそびれました。そのあたりはまた次回。

アディオス!



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