見出し画像

ビニール袋に続きまして、紙袋問題(未解決)

子供の頃、休日に連れて行ってもらった大型書店の帰り道は、私も親もそれぞれ紙袋を手に提げていた。
何冊かまとめて買ったとはいえ、子供が持てる重さである。今よりも紙の手提げに入れてくれるハードルは、明らかに低かった。

それから数十年後、書店で働くようになって、まず本の利益率の低さに仰け反った。私が以前働いていたアイスクリーム屋では従業員割引が30%で、半額じゃないのかよーと残念に思ったものだが、書店なら30%でも、大出血で死んでいる。

さらに備品として毎日補充している紙袋の値段を知り、バターンとひっくり返った。書店のロゴが印刷された紙袋は重さ2キロにも耐える頑丈な作りで、それはそれは高級品なのであった。さらに、それ以上重い場合は、底にボール紙を敷く。これがまた、バカ高い。紙袋より高いってどういうことだ。おまけに心配だからと、その上からもう1枚紙袋を重ねたりすることもある。雨ならまたその上に、ビニールの雨よけカバーをかける。
もう怖いから、経費を計算したくない。給料をもらってごめんなさい。

何も知らなかった無邪気なあの頃に戻りたい。


コミック週刊誌を、毎週1冊買うおじいさんがいた。ビニール袋に入れようとすると、紙袋に入れてほしい、と必ず言う。その上、紙袋をあと数枚、その中に入れておいてほしいと言う。
買った本は1冊だから、小分け用の袋ではない。
途中で底が抜けることが絶対にないとは言えないが、こちとら「2キロ提げても大丈夫ー!」な紙袋である。
1人につき1枚という決まりがあるわけでもないが、何度目かの対応をした時、さすがにお断りした。おじいさん、それ度が過ぎているよ、と私は思った。おじいさんは「すんませんすんません」と頭を掻いて、紙袋1枚で帰った。
ように見えたが、実は私の目を盗んで、研修中の札を下げたアルバイトの子に紙袋を大量にもらったことが後で判明して、心が折れた。すんませんすんません。もうどうしたらいいかわかりません。

アイスクリーム屋のスプーンだって、プレゼント包装のリボンだって、お店屋さんの備品にはすべてお金がかかっている。小売で働くようになって、そういうことの想像ができるようになった。悪く言えば、想像をしないことができなくなってしまった。
でも、変な我慢はしないようにしている。スプーンなしでアイスに齧り付いたら、知覚過敏の歯にしみて味わうどころではなくなる。単行本をまとめて5冊買って、高いだろうからって紙袋を遠慮して、ビニール袋まで遠慮して、腕に抱えて満員電車に乗って帰ったら、もう二度と本なんて買って帰りたくなくなる。お互いにとって、そんな悲しいことはない。

先日、こだわりの有機野菜を使った食べ放題レストランで、皿にどっちゃりと残された料理を見たときに、ふと紙袋おじいさんのことを思い出した。食べたいと思ったのは本当だろう。欲望の赴くまま皿に取っても、支払うお金が変わらないのが、食べ放題のいいところだ。でも、たくさんたくさん残されてしまったら、やがてそのお店は「食べ残したら罰金○○円」と貼り紙をするしかなくなる。
本当ならそんなことはしたくないはずだ。お客さんだって、いい気持ちはしない。

お腹いっぱい食べてもらいたいから、食べ放題をやっているのだろう。

小売だって、出来る限りのサービスで、あそこで買ってよかったと思ってもらいたい。

本屋という楽しい場所で、1.5キロ以上でないと紙袋には入れません、1.4キロだからダメですね、とか、そういうつまんないことは言いたくない。

書店はいつまで、無料で紙袋を提供できるだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?